第32話 14 フィナーレ

14 フィナーレ(85-110枚・80〜99%)


 80〜99%

 複数場面で構成され、基本的に第三幕の大半(全体の20%近く)を占めます。


 〝フィナーレ〟は第三幕で、すべてのまとめです。

 主人公は悪あがきをやめて〝第二ターニング・ポイント〟でひらめいた新しい作戦を理解し実行に移します。

 それをどうやって飽きさせず、急ぎすぎずに第三幕全体を引っ張ればいいのでしょうか。

 ブレイク・スナイダー氏が見つけたのが「フィナーレの5段階」と呼ばれる方法です(▼『逆襲』が初出のため、ジェシカ・ブロディ氏版で初めて見たかたもいらっしゃるでしょう)。


 これは〝フィナーレ〟のビートをさらに5つのサブビートを割ったものです。

 長い旅の最後の部分に、さらに細かく道路標示をつけてくれます。

 なにしろフィニッシュラインはもうすぐですからね。


 「フィナーレの5段階」で用いられる「城」という言葉は、比喩的な意味でいわゆる「攻略作戦」です。

 これにより第二幕で発生した「問題」はすべて解決し、主人公がテーマを自分のものとして受け止めます。

 教訓を学び、主人公の直すべき点が直り、メインプロット(Aストーリー)もサブプロット(Bストーリー)も主人公が勝利して終わます。

 古い世界は新しい世界(統合命題「ジンテーゼ」)へと生まれ変わり、新たな秩序が生まれます。

 第一幕(テーゼの世界)と正反対のアンチテーゼの世界(第二幕)で経験したことを基に、主人公が新たな道を切り開いたおかげです。


 〝フィナーレ〟で「問題」の元凶だった悪い奴ら(人であれ物であれ)は一掃されます。

 子分や手下から始まって、最後は親分の番です。

 新しい秩序を生み出すために、確実に一掃されなければなりません。

 だから主人公が勝利しただけでなく変容を遂げたことを証明し、世界を変えましょう。

 本当によかったと満足がいくように。




▼主人公が率いる城の急襲はあるか?

▼第三幕は第一幕と第二幕のジンテーゼになっているか?

▼Bストーリーは明確に解決しているか?





14−1 チームを作る

 主人公が積極的に第三幕へ入っていくと決心したなら、最初のステップは「チームを作る」つまり「城を急襲」するのに必要な同じ志を持つ仲間(メンバー)を集結させることです。

 「城」は攻略対象の比喩です。そして仲間は実際に兵士でもいいし、すごく仲の良い友達でもかまいません。

 第二幕の〝すべてを失って〟の後ですから、中には口も利かなくなった友達がいるかもしれません。だから助けを求める前に仲直りが必要になることもあります。

 実はそれが〝チームを作る〟というサブビートの(そして第三幕そのものの)大事な役割なのです。

 主人公は仲違いを修復し、非を認め、何も見えていなかったバカは自分だったと認めてください。

 これも主人公が変わる軌跡の一部なのです。


 主人公は絶対にチームを作らなければ城の攻略ができないわけではありません。

 独りで攻め入る主人公の話はたくさんあります。

 また、このサブビートは「道具を集める」(武器の装着、作戦立案、物資確保、ルートの選択、等々)ことでもあり、目の前の課題をうまく成し遂げるための、〝第二ターニング・ポイント〟でひらめいた作戦の計画づくりでもあります。





14−2 計画を実行する

 チームを招集し、武器は装着され、物資は集められ、攻撃ルートは定まりました。

 第二ステップでは、攻略作戦のために立てた計画を実行し「城を急襲」します。

 どんな「城の急襲」にもなにかしら「こんなのクレイジーだ」という不可能な課題に挑んでいる感覚(どんなに頑張っても無理だろうという空気)がつきまとうのです。

 「こんなの無理だ」が主人公が直面する課題の設定の鍵になります。

 しかし、計画が明らかになってくると、このクレイジーな計画をなんとかやり遂げられるかもしれないぞ。我々は成功しつつある、とチームは力を合わせて作戦を遂行するにつれ、実力が存分に発揮して次第に達成感も増していきます。


 つかみどころのないキャラクターに個人的な見せ場を与えるなら、ここです。

 小説のどこかでお膳立てした変わったスキル、道具、または妙なクセがここで役に立つように仕組むこともできます。

 多くの場合、ここは脇役の成長の軌跡と証を示すところで、ストーリーの冒頭で彼らの欠点であったものが今や「修正」され、役立つものにまでなっているのです。

 それもこれも、主人公が続けてきた旅のおかげです。

 ここではすべてがいいように見えます。


 しかし、一方で、ゴールが近づくにつれて、これではあまりに簡単すぎるという気もしてきます。

 このサブビートでは、脇役たちが大義のために「Bストーリーの犠牲」になって脱落しはじめます。

 命を落とす者もいるし、主人公を庇って銃弾を受ける者もいるでしょう。あるいは主人公が輝くチャンスを与えるために、あえて身を引くかもしれません。

 チームのメンバーが1人脱落するたびに、主人公は自分の力を試されます。

 問題を解決する力を備えていると証明することになるのです。

 残りの仲間は一致団結し、もう見えている高くそびえる塔へ進んでいくのです。





14−3 高くそびえる塔の驚き

 主人公とそのチームが作戦を実行に移しました。「城」に攻め入り、すべてが順調に見えます。

 しかし、ここまでの判断がどれほど楽観的すぎたか。高い塔に囚われたお姫様を助けにやってきたら、なんとお姫様がいなかった。


 主人公たちは作戦に過度の自信を持っていて調子に乗りすぎたことがわかります。

 こんな作戦、うまくいくはずなかっただろう? そんなに簡単にいくわけないだろう?


 作戦が打ち砕かれただけでなく、「悪い奴ら」あるいは主人公に対抗して結集した勢力は「我々がやってくる」ことを前々から知っていたようなのです。

 ここは「裏切り者が暴露」され、我々の素晴らしい計画が「悪い奴ら」が仕掛けた罠であることが発覚する部分です。


 努力は今や完全停止です。主人公と仲間たちは「立ち往生」で、破滅のときは「刻々と近づいて」いる。

 再びすべてを失ってしまったみたいだ。


 主人公がこの地点までどれほど自分を利口だと思っていたにせよ、仲間を結集し、全力を注ぐことによって、教訓を得るべくどれだけ頑張ったにせよ、まだ十分ではなかった。

 「高くそびえる塔の驚き」のショックは、それがこれまでの努力で目指してきたものとは違うと知ることにあります。

 そして、主人公が合格しなくてはならない最終試験の本当の課題が明らかになろうとしているのです。


 要するに主人公が自分の価値を証明するように押し付けられたひねりの1つ。

 ある意味、もうひとつの〝きっかけ〟とも言えます。

 主人公に向かって投げつけられた、対処せずには済ませられない変化球。

 ここまでくると、努力も筋肉も武器も知恵も、主人公の助けになりません。

 主人公は、自分の心の奥底まで潜っていって重要な何かを拾ってこなければならないのです。





14−4 「深く、掘り下げろ」

 もし〝高くそびえる塔の驚き〟がさらにもう一つの〝きっかけ〟だとしたら、この〝「深く、掘り下げろ」〟はもうひとつの〝悩みのとき〟です。

 〝フィナーレ〟の中でも、特にみんなが待ちかねていたのがこのサブビート。いえ、小説の最初からずっとみんなが待っていたのが、このサブビートなのです。


 〝高くそびえる塔の驚き〟で主人公は再び敗北し、すべてを失ったかに見えます。

 人間が考えられるあらゆる解決策が尽きて、もう策がない。代替案も見当たらない。応援もない。希望もない。なにもない。


 そんな主人公に、すべての判断が重くのしかかります。実はこれが真の試練です。


 話の初めに主人公が重要だと思っていたものを「剥ぎ取っていく」ことについて語るのが物語であり、そこには最後に勝つための主人公自身のアイデアも含まれます。

 ここは主人公が勝つために最後の力を振り絞らなくてはならない場面ですが、そのために通常の手段を使うことはできません。これぞストーリーテリングの核心なのです。


 これこそが我々が待っていた部分、主人公が古いロジックを捨て、この映画が始まる前なら絶対にしなかったようなことをする「神の手が触れる」ビートなのです。

 欠点だらけの芋虫だったのは、もう遠い昔のこと。今こそ、美しく力強い蝶に成長した姿を見せるときです。

 主人公は繭のあいだ屈していた闇へと戻ります。

 信頼、内なる力、土壇場のアイデア、愛、恩寵を見出すため、ある部分、人間を超える術を習得したことを証明するために。

 それはあらゆるストーリーが我々に教える「深く、掘り下げる」ときです。


 この小説のテーマ。主人公が克服した欠点。自分が変わったという証拠。


 1つだけ残されたもの、主人公自身がまだ気づいていないそれは、心の奥底に潜んでいる、何にも勝る強力な武器です。

 今ここで、主人公は心の奥底まで掘り進み、そのガラスの破片を取り除きます。問題を根本から引き抜き、すべてに打ち勝つときです。


 ある時点で我々は自然界を、我々がわかっていると思っているものすべてを捨てて、見えない世界を信じなくてはなりません。

 それは信念のときです。

 息を殺し、空中ブランコの曲芸師さながら、暗闇の中、大テントの高みから、世界をつかんだ手を放し、旋回しながら虚空へと飛び出していきます。

 誰かが手を差し伸べてくれることを期待して。そして、我々も期待を込めて見守っています。

 さて、いよいよ主人公が清水の舞台から飛びます。信ずる者は救われると信じて。





14−5 新プランの実行

 ついにきました。

 答えは我々がずっと現実であれと願っていた場所からやってきます。

 主人公は自分と向き合って心の奥底に潜んでいた真実を掘り当て、ガラスの欠片を取り除き、苦労してでも自分を変える覚悟を決め、安全ネットも命綱もなしで一か八か飛び降ります。

 主人公だけが信頼するに足る信念を持っていたのです。


 主人公は大胆不敵な新作戦を実行します。

 そうして初めて勝利を手にする権利を得るのです。

 ストーリーの真の教訓に目覚め、主人公はこの土壇場のプランを実行に移し、それはうまくいきます。


 人間の精神が、諦めない心が、最後には何者にも打ち勝って終わるのを、読者は待っているのです。だから読者の心が震えるのです。

 地獄めぐりをさせられ、本当に勝つまで何度も何度も戦わせられ、答えを見つけるために心の底まで曝け出して、主人公はようやく物語のエンディングに相応しいヒーローになるのです。


 これが試練です。

 古いやり方を信じるのをあきらめ、闇を、その中の静かな場所(心の奥底)を信じことができるか。

 それが我々の物語を語り、理解してくれる人を讃える理由なのです。


 もし、主人公が失敗して物語が終わるのであれば、その失敗には「意味」があります。

 失敗からも学ぶべき人間的教訓があります。

 やらずに後悔するより、やって後悔ということです。





 以上、〝フィナーレの5段階〟でした。

 素晴らしい変容の旅に相応しい最高のエンディングです。

 この瞬間に、物語の「メッセージ」にピントが合い、読者の心に鮮やかに、考えさせるなにか、魂の奥で震えるなにかが、いつまでも残るのです。


 〝フィナーレの5段階〟は絶対に必要ともかぎりません。

 5段階未満の〝フィナーレ〟で心に残る小説はたくさんあります。

 〝フィナーレ〟は絶対に散漫にならないようにしてください。

 主人公がなにもしないで勝利するようなことがないように。

 なにかに気づくことなく第三幕に突入して、悩むこともなく、障害物もなく、邪魔もされずに最後の作戦を実行することにならないようにしましょう。


 変わるためにたっぷり努力させてください。主人公が苦労せずにさっさと終わってしまう〝フィナーレ〟は安直なのです。


 第一幕、第二幕と同じように、第三幕を感情的で行動にあふれ、激しくうねるように書く努力をすれば、あなたの小説は間違いなくひとつ上の高みに昇ります。


 そして最後の最後のビートが、主人公にも読者にも、そして書いたあなた本人にも「勝ち取った」と思えるものになるのです。





「小説の書き方」コラム

821.構成篇:ハリウッド「三幕法」(セクション14・15)

https://kakuyomu.jp/works/1177354054889417588/episodes/1177354054891920545


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【参考図書・引用図書】

▼ブレイク・スナイダー氏『SAVE THE CATの法則 本当に売れる脚本術』菊池淳子訳・フィルムアート社(税別2200円)

▼ブレイク・スナイダー氏『10のストーリー・タイプから学ぶ脚本術 『SAVE THE CATの法則』を使いたおす!』廣木明子訳・フィルムアート社(税別2200円)

▼ブレイク・スナイダー氏『SAVE THE CATの逆襲 書くことをあきらめないための脚本術』廣木明子訳・フィルムアート社(税別2000円)

▼ジェシカ・ブロディ氏『SAVE THE CATの法則で売れる小説を書く』島内哲朗訳・フィルムアート社(税別2500円)

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