第11話 7 なぜやったのか?
7 なぜやったのか?
人の心の中には目に見えない邪悪なものがあります。
貪欲さが高じれば殺人が起きる。人の心の中にどんな狂気が潜んでいるかなんて、誰にわかるでしょうか。
そういう場合、興味深いのは「誰がやったのか?」よりも「なぜやったのか?」に興味が移ります。
「なぜやったのか?」は主人公の変化を描くジャンルではありません。「犯罪」が「事件」として明るみに出たとき、その背後にある想像すらしなかった人の心の奥底をを探り、予想もしなかった暗く醜い邪悪な性が暴かれるジャンルなのです。
サブジャンル
政治的なぜやったのか:『大統領の陰謀』『ミッシング』『チャイナ・シンドローム』『JFK』『インサイダー』『ザ・インタープリター』
ファンタジーなぜやったのか:『ブレード・ランナー』『トータル・リコール』『ロジャー・ラビット』『ゴースト/ニューヨークの幻』『シックス・センス』『マイノリティ・リポート』
警官なぜやったのか:『ファーゴ』『フレンチ・コネクション』『ダーティ・ハリー』『タイトロープ』『L.A.大捜査線/狼たちの街』『氷の微笑』『L.A.コンフィデンシャル』『インソケムニア』『ツイステッド』
私的なぜやったのか:『ミスティック・リバー』『第三の男』『めまい』『ボディ・ダブル』『白と黒のナイフ』『コレクター』
ノワールなぜやったのか:『BRICK ブリック』『チャイナタウン』『ロング・グッドバイ』『さらば愛しき女よ』『白いドレスの女』『青いドレスの女』『ブルーベルベット』『ブラック・ダリア』
【探偵】
主人公である「探偵」は職業探偵である必要はなく、ナレーターに近くて基本的に物語を通して変わりません。
探偵が謎を解くかに見えますが、真相を突き止めるのは観客自身です。
「探偵」は我々の代理として、手がかりを見つけては我々に示し、その意味を明かしてくれます。
観客は探偵が集めた情報をもとに自分でその真相を明らかにし、意外な結果に衝撃を受けるのです。
最初はすべてを見たと思っているのだが、その後予期せぬものを発見することになります。
自分が探しているものが何なのか、正確にはわかっていないが、そこで待ち構えているものは確実に我々にショックを与えます。
そして、我々の側にどれだけの善意と正義があろうと、そこで見つけたものに影響されることは防ぎようがないのです。
たいていの場合、見ている我々が変わります。
「探偵」は事件に対する心の準備ができておらず、その事件に引きずり込まれるちゃんとした理由が必要です。
【秘密】
「秘密」がミステリーを作り、往々にしてひじょうに些細なことや、無関係に思えることから始まります。すべての謎を暴く鍵こそ「秘密」なのです。
事件の「秘密」の正体(それが何なのか)を最後の最後まで知りたくてたまらない欲求は圧倒的で、答えを見つけることへの挑戦ではなく、我々がなにがなんでも見ることをやめられないのです。
その欲求があまりに強烈なので、金、セックス、権力、名誉などの世俗的な誘惑を凌駕します。我々を駆り立てる「秘密」は、どんどんその力を増していくのです。
「秘密」の奥深くへと進んでいくにつれ、我々は暗闇の中にいるときのような、恐れと閉所恐怖症的な感覚を覚え始めます。
最後の最後で我々が見つけるのは悪ではなく……我々自身なのです。
そして「秘密」に謎はない。暴露があるだけです。
「なぜやったのか?」は5つのW「誰が(Who)」「何を(What)」「いつ(When)」「どこで(Where)」「なぜ(Why)」のすべてを使うことを意味し、すべてを暴き出すという誘惑は強烈だ。
【暗雲】
最後に、「秘密」を追う中で「暗雲」が立ち込めてきます。
探偵は往々にして、自分の身の安全のために長年守ってきた自分自身や社会のルールでさえ破るでしょう。
自ら犯罪の一端を担うことになる瞬間です。どこかの時点で「探偵」たちは進んで闇の一部となります。「秘密」の引力はあまりに強力なのです。
不可避的に「探偵」が答えを見つけるため、あまりに深入りして、自分自身もしくはグループのルールを破るときに「暗雲」が立ち込め、さらにある時点では「探偵」は自分も犯罪の一部を担っている、あるいは最初からずっと同様の犯罪を冒している、と気づくのです。
最後に道は折り返し、犯罪を捜査していた者のほうへも向かってきます。
だからこそ、探偵ストーリーの多くがすでに決着がついたように思える事件に関わり、その後、それが新しい関係者とともに新しい事件として再登場して、そのせいで主人公は最初の脱線(犯罪)に立ち戻ることになりますが、我々観客にはこれでいよいよ本当の問題に取り組むことになるぞとわかっています。
「なぜやったのか?」のこの特徴は「事件内事件」と呼ばれ、しばしばテーマを明らかにします。最初の犯罪へ戻り、それが探偵にとってどんな意味を持つのかを発見することによって、我々は本当のストーリーが最初から始まっていたことを知るのです。
「なぜやったのか?」のダーク・ワールドに入っていきたいと願うライターは、そこに蠢く犯罪と犯罪者から手を付けるとよいでしょう。
悪へとたどり着かせてくれる証拠のカードをめくり始めるときには、なにが起こっているかわかって「いない」ように見えなくてはいけないが、実際はなにもかもわかっていなくてはダメです。
悪人の立場で考えてみることから、なぜ彼が犯罪に手を染めたのか、証拠隠滅のためにどうやって他の誰かを利用したのかを解明することから始めてみましょう。
才気あふれる暗黒化と、劣らぬ才気にあふれたその解明、そして、それを素早くやってのけること、悪い奴らが逃げてしまわないうちに。
このふたつのアプローチを巧みに想像力を働かせてやってのけたなら、恐ろしい暴露の結末は保証されています。
「小説の書き方」コラム
832.構成篇:ジャンル9:ミステリー
https://kakuyomu.jp/works/1177354054889417588/episodes/1177354054892024760
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【参考図書・引用図書】
▼ブレイク・スナイダー氏『SAVE THE CATの法則 本当に売れる脚本術』菊池淳子訳・フィルムアート社(税別2200円)
▼ブレイク・スナイダー氏『10のストーリー・タイプから学ぶ脚本術 『SAVE THE CATの法則』を使いたおす!』廣木明子訳・フィルムアート社(税別2200円)
▼ブレイク・スナイダー氏『SAVE THE CATの逆襲 書くことをあきらめないための脚本術』廣木明子訳・フィルムアート社(税別2000円)
▼ジェシカ・ブロディ氏『SAVE THE CATの法則で売れる小説を書く』島内哲朗訳・フィルムアート社(税別2500円)
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