第16話 力と代償

「この針……毒針か……!」


 真耶はその針の先端に少し液体が着いているのに気がついた。その液体は床や天井に着くと、その部分を溶かしている。


 どうやらかなり強力な毒らしい。触れれば普通の人なら即死の可能性もある。あの針を喰らわう訳にはいかない。真耶はそう考えリーゾニアスを背中から抜き構えた。


「”理滅りめつ絶裂ぜつれつ”」


 真耶が剣を振った瞬間、向かってきていた針が全て真っ二つになった。さらに、巨大ハリネズミの体も少し切り裂かれる。真耶はそれを確認すると、そのまま巨大ハリネズミに向けて走り出した。その目には魂眼スピリチュアルアイが浮かんでいる。


「終わりだ。”霊剣れいけん十拳剣とつかのつるぎ”」


 真耶はそのまま巨大ハリネズミの体を切り裂いた。しかし、この剣は物理的に着ることは出来ない。だが、巨大ハリネズミの霊体を真っ二つに切り裂いた。


 どんな生物も霊体を殺されれば生きることは出来ない。そして、たった今真耶は巨大ハリネズミの霊体を完全に殺した。だから、巨大ハリネズミはこれで死んだ。


 真耶がリーゾニアスを鞘に収めた瞬間巨大ハリネズミが倒れる。そして、その目には光はなく、心臓も動きを止めていた。


「終了」


「次に行くぞ」


 真耶はそう言って奥へと進み始めた。しかし、その時それは起こった。真耶は唐突に右目に痛みを感じる。咄嗟に抑えると、手のひらに真っ赤な液体が大量に付いていた。そして、頬にかなりの量の温かいものが流れているのを感じる。


「あ……」


 思わず真耶は声が漏れてしまった。そして、足に力が入らなくなりその場にしゃがみ込む。そして、右目を押さえながら小さな声で呟いた。


「右目が見えなくなった。左目も霞んでいる……」


「「「っ⁉︎」」」


 アーサーとモルドレッドはその言葉を聞いて目を疑う。そして、モルドレッドはすぐに真耶の前に立ち目を覗き込んだ。右目にはすでに光はなく、左目も曇っている。これでは何も見えてないのと同じだ。モルドレッドはそんな真耶を見て思わず心配そうな顔をした。


「……クッ!大……丈夫……だ……。心配するな」


 真耶は少し辛そうな顔を見せるとすぐに平気そうな顔をして立ち上がり歩き出した。しかし、それでもどこかキツそうだ。一歩歩いただけでフラフラとしていて倒れそうだ。それに、前が見えてないのだろう。ところどころ壁にぶつかっている。


「真耶!願望!一旦休もうよ!」


 モルドレッドは心配するあまり、声を張り上げて真耶にそう言う。しかし、それでも真耶は止まることなく進み続けた。


「……真耶、謝罪」


 モルドレッドは小さな声でそう呟くと、真耶を後ろから攻撃して気絶させた。


「モルドレッド……」


「休憩。治療」


 アーサーは少し安心したような表情をして真耶の体を寝かし、回復魔法をかけ始めた。モルドレッドも少しだけ安心したような表情をしてその場にへたり込んだ。


「この目……もう見えないだろうな」


「っ⁉︎」


 突如アーサーがそんなことを言い出す。モルドレッドはその言葉を聞いた瞬間に耳を疑った。


「この目、ほとんどの細胞が壊死している。幸いなことに魔力回路は生きているから目の力は使えるみたいだが」


 アーサーはそう言って真耶の目に魔力を流した。すると、真耶の目が少し発光する。


「本当に無茶やるよな」


「ん。見て。魔力回路が焼けてる」


「ん?本当だ。だがおかしいな。ところどころに焼いて無理やりつなげたような跡があるぞ」


「もしかしたらまだ何か話してないことがあるのかも」


「……そうなのであれば、話す気になった時に話してもらおう」


 アーサーはそう言って真耶を見つめた。すると、真耶が目を覚ました。


「起きたのか」


「まあな。それより、何か目を覆うものを貸してくれないか?」


 真耶はそう言ってきた。アーサーは自分の荷物の中から眼帯か何かを探す。そして、眼帯を発見した。アーサーはそれを真耶に渡す。真耶はその眼帯を受け取ると右目につけた。


「……なんだか豪華な眼帯だな。目だけじゃなくて頭まで覆えてるなんてな」


「仕方がないだろ。それしか持ってなかったんだからな」


 2人はそんな会話をしながら立ち上がると、先ほどから行こうとしていた奥の部屋を見つめる。そして、モルドレッドを見つめて言った。


「助かったよ、モルドレッド」


 モルドレッドはそう言われた時不思議とすごく嬉しい気持ちになった。もしかしたら前の記憶が戻りかけている影響なのかもしれない。


 真耶達はそれから少しの間だけその場にとどまって準備をすると、すぐに歩き始めた。


 そして、少し奥に入った時あるものが目に映る。それは、ある宝玉だった。色は赤と青、周りの装飾は金色でその宝玉からは炎と氷の気を感じた。


「なぜこれがここに⁉︎」


「なんだ?これが何か知っているのか?」


「これはヘファイストスの宝玉だ。これはヘファイストスのみが作ることが出来る宝玉でな、温度差の変化によって炎と氷の両方を使うことが出来るんだ。そして、この宝玉は生み出されて3時間で輝きを失う。これだけの輝きを放っているということは、生み出されてすぐだと言うことだ」


「っ!?じゃあ、ここにヘファイストスがいるのか!?」


「その可能性は高い。とりあえず、油断は出来ない」


 真耶はそう言ってヘファイストスの宝玉を手に取った。そして、見えない右目で聖眼セイントアイを発動した。すると、ヘファイストスの宝玉から黒い力が抜けていく。


「何をした?」


「ヘファイストスの力を全て消し去った。これを置いておいたことを後悔させてやるよ」


 真耶はそう言ってヘファイストスの宝玉を体に取り込んだ。すると、真耶の体が発火する。真耶はその炎を抑え込むと不敵な笑みを浮かべた。


 そして、前を向いてさらに奥を見すえる。霞んだその目で見えるのは上階へと上がる階段だった。真耶はその階段に向けて足を進める。そして、階段の前に来ると奥を見すえる。


「注意しろよ」


 真耶はそう言って階段を登り始めた。アーサー達もその後を追って階段を上がり始めた。


 コツンコツンと足音が響く音がする。その足音は階段の中で響き渡り、奥までこだまする。その静かな空間には、真耶達の足音とどこからか漏れだした水の滴る音だけ。


 真耶達はそんな静寂に包まれた空間を歩き続ける。そして、しばらく歩いたところで出口が見えた。真耶達はそこに向けて歩き、到着するとすぐに外に出る。すると、そこは食堂だった。


「一直線に食堂につながってたんだな」


「隠し通路か。普段は使って無さそうだが、まぁいい」


「このまま王の間まで行こう」


「そうだな」


「ん。了解」


 アーサー達は真耶の言葉を聞いて頷くと、周りに警戒し、散策しながら王の間に向かう。真耶も少し散策をしながら王の間へと向かった。


「……3階にあるのは食堂と王の寝所くらいか……」


「そこは既に散策済みだ。残るは王の間だけ」


 真耶はアーサーのその言葉を聞いて不敵な笑みを浮かべると、一直線上にある王の間の扉を見つめた。


「残すところはあと1つ。闇堕ちの騎士とやらを倒すだけだな」


 真耶はそう呟いて扉の前まで向かう。そして、3人は扉の前まで来た。


「……お前ら、気をつけろよ。恐らくこの中にはヘファイストスがいる。何が起こるかわからないから手を抜くな」


「わかっているよ」


「ん。了解」


 2人はそれぞれそんな返事をする。真耶はその返事を聞いて見えなくなった右目に魔力を溜めると、眼帯の下で神眼を発動した。


 神眼を発動すると、モヤが無くなっている。というより、目が見えなくなったせいでモヤすらも見えなくなってるらしい。真耶は右目の眼帯が落ちないようにきちんと止めると扉に手をかけた。そして、勢いよく開く。


「……」


 そして、静寂に包まれた王の間をコツコツと足音を立てながら進む。ある程度のところまで来ると止まって上を見上げた。すると、ちょうど王が座るであろう椅子の前に剣を構えた鎧の騎士が1人立っていた。その騎士からはドス黒いオーラが滲み出ている。


 さらに、その後ろに人影が見えた。その人影からは赤と青のオーラを感じる。


「あら?遅かったわね。待ちくたびれたわ」


 突如後ろの人が話しかけてきた。その人は女性で露出度の高い服を着ている。


「そうか、それは悪かったな。この城を俺のものにしたくてくまなく観察していてな」


「残念ね。あなたはここで死ぬのよ」


 女性はそんなことを言ってきた。


「馬鹿か?俺が負けるわけないだろ。お前が死ぬんだよ、ヘファイストス」


 真耶はそう言ってヘファイストスを睨みつけた。ヘファイストスは不敵な笑みを浮かべると真耶達の前まで出てきた。


「あなた、神に向かってよくそんなことが言えるわね。まぁいいわ。今日戦うのは私じゃない。それじゃあ頑張ってね」


 ヘファイストスはそう言うと、突如空中に浮き始める。そして、闇堕ちの騎士の上空に浮かび上がった。


「これで倒しなさいよ」


 ヘファイストスは闇堕ちの騎士に向かって魔力を少し送った。すると、闇堕ちの騎士の魔力が急上昇して体の至る所から炎が吹き出してくる。


「力を貰ったか。ここからが本番だな」


 真耶はそう言って魔法で地面から剣を作り出した。そして、左目に火炎眼フレイムアイを浮かべる。その刹那、闇堕ちの騎士が剣を横に薙ぎ払った。すると、とてつもない灼熱の斬撃が真耶達を襲う。


「”真紅しんく炎神ほのかみ”」


 真耶は技を使ってその斬撃を打ち消す。そして、ついでに何発か斬撃を飛ばした。しかし、それは避けられダメージが入らない。


「両者実力は互角か……」


「ん!私がやる!”ディスアセンブル砲”」


 その時モルドレッドがそう言ってディスアセンブル砲を発動した。モルドレッドの掌から赤く光ったエネルギー砲が放たれる。それは、闇堕ちの騎士をロックオンして確実に当てに行った。


「”マジックソード”」


 闇堕ちの騎士はそんな技を使う。すると、剣が水色に光り始めた。闇堕ちの騎士はそれを確認すると一つ一つディスアセンブル砲を切っていく。すると、切ったディスアセンブル砲が全て剣に吸い込まれているのが見えた。


「っ!?」


「まずいぞ。我が行く。”迅雷じんらい閃光雷鳴せんこうらいめい”」


 アーサーは体に雷を纏わせると一瞬で闇堕ちの騎士との距離を詰め刃を向ける。そして、鎧の接合部分を狙って切りつけた。


 しかし、その攻撃が通ることは無い。ギリギリのところで防がれる。それからアーサーは何度も連撃を繰り出したが、全て防がれる。


「まさか、ここまで強いとはね」


「アーサー。右だ。”真紅しんく紅蓮血斬ぐれんちぎり”」


 真耶の合図を受けてアーサーが右に移動する。そして、その数秒後に真耶が攻撃を繰り出してきた。


 闇堕ちの騎士は2方向からの攻撃に対応しきれず真耶の斬撃を食らう。そのせいで、鎧は溶かされ切られた。さらに、少しよろめいたせいでアーサーに隙を見せる。アーサーはその隙を見逃さない。すかさず接合部分に刃を突き立てた。


 しかし、そう簡単に倒せる相手でもなかった。突如真耶とアーサー、モルドレッドは嫌な予感を感じる。そして、すぐにその場から離れて結界を張った。


「マズイのが来る。その前に終わらせる。”星眼スターアイ””流星群りゅうせいぐん”」


 真耶がそう唱えると、真耶達のいる城に目掛けて隕石が降ってきた。その隕石はかなりの大きさで、この城なんか一瞬で壊されるレベルのものだ。


「っ!?」


 しかし、その隕石は途中で全て消えた。上を見上げると、上から特殊な気を感じる。


 そう、ヘファイストスだ。ヘファイストスは真耶のふらせた流星群を全て消し去ったのだ。


「ゴォォォォォ!”暗黒爆ネザーバースト”」


 その刹那、闇堕ちの騎士が大爆発をする。その爆発は黒く暗い爆発だった。


「ヤバっ……」


 真耶はその時左目に時眼クロニクルアイを浮かべた。そして、背後に巨大な時計を顕現させる。そして、時計の針を1つ動かした。


「“止まれ”」


 真耶がそう言った瞬間に襲ってきていた黒い爆発が突然停止した。


「まだだ。“時戒じかい時の終わりエンドクロノス”」


 その瞬間、真耶の周りの時間が全て止まった。しかし、そのことを知るものは真耶意外いない。


 真耶はそんな中1人前に出た。しかし、攻撃が真耶に当たることは無い。なぜなら、攻撃がある場所に真耶の体は無いからだ。この技は、正確に言ったら時間を止めるんじゃなくて、時間が止まった違う空間に移動しているのだ。そして、この技の本当の力はこれだけじゃない。


 真耶は頭の中でそう考えて指を鳴らした。すると、背後に顕現した巨大な時計の針がうごく。そして、時間は元に戻る。しかし、ただ戻るだけじゃなかった。闇堕ちの騎士が放った攻撃は全て消滅した。


「っ!?」


「「「っ!?」」」


「フッ、こんなもんか……。さぁ、続きを始めよう」


 真耶はそう言ってリーゾニアスを構えた。

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