第17話 2つの大いなる力

 真耶はリーゾニアスを構えると左目に浮かべた時眼クロニクルアイを元に戻した。そして、1度周りを見渡すとその場を強く蹴り一気に距離を詰める。


 そして、刃を闇堕ちの騎士に向けた。しかし、さすがは騎士と言ったところだ。そう簡単に攻撃を当てることは出来ない。真耶はそこから連撃に繋げようかと思ったが、反撃をしてきたため1度その場から離れる。


「やるな。だが、俺もそこまで弱くは無い」


 真耶はそう言って駆け出した。そこから再び連撃に繋げようとする。しかし、やはり向こうは反撃をしてくる。真耶はその反撃を防ぎながら連撃に繋げた。


 カンッ!カンッ!カンッ!……


 甲高い音が何度も何度も鳴り響く。その度に衝撃波のようなものが辺りに飛び散る。アーサー達はその衝撃波を受けながら真耶の戦いを見ていた。


「凄い……」


 モルドレッドは思わずそう呟いてしまう。たが、それもそのはずなのだ。今真耶が戦っているのは神の力……いわゆる加護というものを受けた者。そう簡単に倒せる相手では無いし、たとえラウンズと言っても10秒以上立っていられればいい方だ。


「あれが……私の知らない真耶なの?」


「……それは分からないな。ただ、その1つの可能性が高いとしか言いようがない」


「どういうこと?」


「モルドレッドが忘れてるものは、忘れてるんじゃなくて忘れてるって思い込んでるだけかもしれないってことさ」


「……そうかもしれない……」


 アーサーの言葉を聞いたモルドレッドは少し表情を暗くする。確かに忘れてるって思い込んでいるだけかもしれない。だが、どちらにせよ思い出さなくてはいけないのだ。ならやることは変わらない。


「……私は私のやるべき事をやる……」


「……それがいいかもしれんな。ただ、お前は真耶という存在に出会ったことで変わってきている。もし今の自分を変えたいと願うならば、真耶を信じろ」


「っ!?ん!信じる!」


 モルドレッドはそう言って強い信念を持ちながら頷いた。そして、すぐに真耶の戦いを見る。2人の戦いは先程より激化しており、モルドレッドが割って入る余地など残ってはいない。


 しかし、それでも援護をしなくてはいけない。そんな気がする。すると、アーサーがエクスカリバーを構えて突如走り出した。


「真耶!合わせろ!”聖剣せいけん光明閃こうめいせん”」


 アーサーはそう言って剣を光輝かせながら右斜めに切りつけた。


「了解!”真剣しんけん黒雷くろみかづち”」


 真耶はアーサーの言葉に合わせて剣を黒く光らせる。さらに、剣に黒い雷も纏わせた。そして、アーサーの構えている剣の向きと真逆の向きを作る。


 その時、2つの剣が交差した。そして、同じ力で合わせられたコンビ技は闇堕ちの騎士も初めて見たようで、全く対応しきれず対抗レジストも出来ない。それどころか逃げることさえも出来なかった。


 そして、2人のコンビ技が炸裂する。その場には一瞬の爆発と一瞬の魔力災害が起きた。しかし、どれも一瞬で何も問題は無い。


 しかし、一瞬だからといって油断は出来ない。いつ何が起こるかわからない。もしかしたら、その魔力災害をかいくぐって闇堕ちの騎士が攻めてくるかもしれない。


「いや、来てるな。アーサー!右に避けろ!”霊剣れいけん 幽霊達の鳴動ゴーストショック”」


 真耶はリーゾニアスを白く光らせさらに、自分の幽体を剣に纏わせ前に切り裂いた。すると、突如前に闇堕ちの騎士が現れ剣を構えている。


 2つの剣は衝突し、再び凄まじい衝撃波が発生した。


「しつこい野郎だ!」


「”暗黒斬あんこくざん”」


 闇堕ちの騎士は何も言わず攻撃を繰り出してる。真耶はその攻撃をスレスレのところで体を逸らして避けると、その勢いを保ったまま右足で蹴りをぶち込んだ。


「……」


 鎧がぶつかる音と共に闇堕ちの騎士の体が遠くに吹き飛ばされる。真耶はそれを見ながら自分の幽体を体に戻した。


「……」


 闇堕ちの騎士は何も言わずにただ剣を構えるだけだ。


「……やはり、霊体の塊だから自我がハッキリしてないのか……。だが、今のこの状態でこの強さはマズイな」


「……真耶!前!」


「ん?っ!?」


 突如モルドレッドが後ろからそう叫んできた。しかし、前からは何も来てない。そう思っていると、前から剣が飛んできた。


 真耶はその剣を避けるとその場を勢いよく蹴って再び距離を詰めに行く。今なら闇堕ちの騎士は武器を持っていない。そう思って攻めに行った。しかし、予想は違った。


「っ!?」


 なんと、闇堕ちの騎士は剣を持っていたのだ。どういうことか分からない。だが、持っているということはある程度剣と距離が離れると、自動的に自分の元に帰ってくるのだろう。


「チッ……!」


 真耶は小さく舌打ちをするとバク転の要領で後退する。そして、少し離れた場所に移動すると地面に手を付き魔法を唱えた。


「”物理変化ぶつりへんか”」


 そして、地面が突如盛り上がり鋭い棘となる。その棘はかなりの速さで闇堕ちの騎士を襲う。しかし、闇堕ちの騎士はその棘を全て切り壊した。


「……フッ、ここまで強いともうゲームバランス壊れてるよな」


「そうだな。だが、それでも勝たなくてはならない」


「……そろそろ終わりだよ」


「ん?どういうことだ?」


「まぁ、黙って見てろってことさ」


 真耶はそう言ってリーゾニアスをさやに収めた。そして、見えなくなった右目に神眼をうかべた。


「……”闇風やみかぜ”」


 闇堕ちの騎士は技を唱えると無数の黒い風の刃を飛ばしてきた。真耶はその刃を全て避けると、その空間の中心で魔法を唱えた。


「”物理変化ぶつりへんか”」


 真耶が魔法を唱えると、その場に小さなヒビが生まれた。さらに、真耶はその地面の下に強力な圧力を加えた。


「起死回生の一手だよ」


 真耶はそう言ってその場から離れた。そして、地面から剣を作り出して構えると、勢いよく振り下ろす。


「”地裂ちれつ大地斬だいちざん”」


 真耶の振るった一撃は鋭い刃となって地面を切り裂きながら闇堕ちの騎士に向かっていった。だが、闇堕ちの騎士は微動だにしない。どうせ防ぐことが出来るからだ。


 闇堕ちの騎士はそう考えて全く動こうとしなかった。そして、剣を構えて斬撃を防ごうとする。しかし、その時それは起こった。


 ゴゴゴゴゴゴゴゴゴ……


 地面が大きく揺れ轟音が鳴り響く。その揺れに闇堕ちの騎士は驚き一瞬だけ思考が止まった。そして、その一瞬は命取りとなる。


「っ!?」


 闇堕ちの騎士は一瞬隙ができたため真耶の攻撃を受けてしまう。そして、その斬撃で右腕を切り裂かれた。


 ガシャン、という音と共に右腕が落ちる。そして、その右腕で握っていた剣も落ちた。


 そのせいで再び隙が生じる。真耶はその隙を見逃さない。一瞬で距離を詰めて剣を構えた。


「”真の魔力を呼び覚ませ。氷焔ひょうえん炎天下えんてんか氷結ひょうけつ”」


 真耶は体の奥に意識を集中させて、体の奥底に眠る魔力を呼び覚ます。すると、突如体が燃え、かつ凍りついた。真耶はその状態になるとすぐに天井近くまで飛び上がり、空中に魔法陣を書き始める。


 その刹那、闇堕ちの騎士の足元が砕けた。さらに、足元から勢いよく水が溢れだしてくる。その水は闇堕ちの騎士を飲み込むと、纏っている炎を全て消化した。


「グォォォォォォ!」


 闇堕ちの騎士の断末魔が聞こえる。そして、弱り果ててしまいその場に膝を着いた。


「死ね。”氷焔ひょうえん落氷フロストダイブ”」


 真耶は闇堕ちの騎士に向けて天井を蹴り剣を構え落下し始めた。すると、体中から大量の氷が発生する。そして、その氷を全身に纏いながら真耶は剣を構えた。


「終われ」


 真耶は闇堕ちの騎士の体を切り裂く。重力を得た真耶は通常速さとは比べ物にならない速さで闇堕ちの騎士へと向かっていく。そして、そのままの勢いで体を切り裂いた。


 真耶が地面に接触した瞬間周りの大地が凍りつく。そのせいで水も全て凍りついた。さらに、真耶が落下した衝撃で周りの氷は全て砕け、氷の波が発生した。


「っ!?」


 氷が砕け、氷の雨が降る。真耶はそんな中崩れた剣を放り投げ目の前を見つめる。そこには、体を完全に真っ二つにされ、降ってきた氷でボコボコになった闇堕ちの騎士がいた。


「終わりだね」


 真耶はそう言って振り返り、アーサー達の元へ戻ろうとする。


「……」


 しかし、何故か闇堕ちの騎士が気がかりだった。通常の魔物は倒すと魔石を落とす。死体は残すし、魔石が出ないとしても、何かしらのドロップアイテムはある。


 だが、目の前にいる闇堕ちの騎士は何もドロップしない。それどころか何故か死んでいる気がしない。


「……」


 ふと、真耶は振り返った。やはりトドメを指しておくべきだ。そう思って振り返った。そして、それが間違いだった。


「っ!?」


 突如真耶に向かって剣が飛んできた。その剣は真耶の右目を狙って飛んできている。真耶は突如飛んできた剣によって右目を完全に潰されてしまった。


「っ!?”物理変化ぶつりへんか……!”」


 剣が突き刺さった瞬間に真耶は魔法を唱えて剣を消し去って右目を修復する。


「クッ……!ギリギリだったか……!」


 何とかギリギリで右目の魔力回路を修復することが出来た。しかし、視力が回復した訳では無い。やはり、1度無くなってしまったものを再生させるのは難しいようだ。


 しかし、今はそれどころでは無い。なんと、闇堕ちの騎士が復活したのだ。まぁ、だいたいこういう展開になるのがお決まりなのだが、そういうお決まりはいらない。さすがにこれ以上パワーアップされても困る。


 だが、何故かその騎士はこれまでの騎士とは全然違う感じがした。


「……フフフ……、ついにこの時が来たか」


 突如闇堕ちの騎士が喋りだした。さっきまでは意識が混在しすぎて自我を確立できず喋ることは愚か、考えることもままならなかったのに、なんと喋りだしたのだ。


 これは、とてつもなくまずい状況だ。真耶はすぐにその場を離れて距離をとる。そして、再び魔法を使って剣を作り出した。


「真耶、あれはマズイぞ」


 後ろからアーサーがそう言ってくる。だが、そんなことはわかっている。そして、この状態では勝てないこともわかっている。


(クソッ!この体じゃもう動けない!今立っているだけでも限界なのに……!)


 真耶は心の中でそう呻いた。


 闇堕ちの騎士はそんな真耶のことなど考えず剣を作り出し構える。どうやら剣を消しても作ることができるみたいだ。


 真耶は目の前の闇堕ちの騎士を見つめた。その体はさっきよりスリムになっているが、ステータスが爆上がりしている。やはり、自我がしっかりすることで力の使い方やその他もろもろが分かってさっきより強くなっているみたいだ。


 だが、ただ強くなっただけなら特に問題は無い。しかし、目の前のコイツは違う。ステータスはさっきの3~4倍程に上がっている。


「……チッ!」


「さて、ヘファイストス様のためだ。全員死んでもらう」


 闇堕ちの騎士はそう言って剣を構えた。恐らく次の攻撃は防げない。それに、体がついていかない。すぐに殺されるだろう。


「……どうする?俺……」


 真耶は必死に思考をめぐらせた。そして、辺りを見渡す。しかし、使えそうなものは何も無い。完全に詰みだ。


「真耶!下がれ!」


 アーサーがそう言って飛び出てきた。その刹那、闇堕ちの騎士が駆け出してくる。その速さはとてつもなく、今の真耶のぼやけた左目では認識するのも難しい。


 真耶はすぐにその場から後退すると、目の前にアーサーが来た。アーサーは闇堕ちの騎士の攻撃を防ぐ。しかし、それもかなり難しそうだ。いずれ押さえきれなくなるだろう。それほど闇堕ちの騎士は強くなっていた。


「アーサー!そいつはヘファイストスの他にゼウスの力も入っている!相当強いぞ!」


「何!?まさか……だが、負けられない!」


 アーサーは何とか攻撃を防ぐ。だが、本当にギリギリだ。反撃など出来そうにない。


「フハハハハハ!弱い!弱いぞ!先程の強さはどうした!?」


 闇堕ちの騎士はそう言って高笑いをする。


(クソッ!本当にどうする?もう俺は何も出来ない。このままでは動くことさえ出来ないかもしれない。何かないのか?)


 真耶は必死に考える。考えて考えて答えを探す。その時、ふと何かを思いついた。そして、ぼやける左目で魂眼スピリチュアルアイを浮かべる。


 そして、不敵な笑みを浮かべた。


「弱い!弱すぎる!”黒鳴新斬華こくめいしんざんか”」


 闇堕ちの騎士は技を唱えた。その刹那、アーサーの体に傷が出来る。どうやら防ぎきれなかったみたいだ。だが、それでもアーサーは倒れることは無い。反撃の機会を狙って守り続ける。


 その時、突如上空にとんでもない力を感じた。


「退け!アーサー!」


 上をむくと、体に炎と氷を纏った真耶が剣を構えて飛び出してきている。そして、その剣には燃え盛る火炎がまとわりついていた。


「フハハハハハ!やっと本気になったか!だが、そんな弱い攻撃は通じん!」


「いいや!まだだ!”重なり合え。調律シンクロ”」


 その瞬間、真耶の体が黒い鎧で覆われていく。そして、真耶が纏っている炎が紫色になり、氷は黒くなった。


「っ!?」


 闇堕ちの騎士はその、紫色の炎で覆われた剣で切り裂かれる。そのせいで、少し傷がついた。


「本番はこれからさ」


 真耶はそう言って剣を構えた。そんな真耶の体からはクロエと同じオーラを感じた。

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