第14話 フランベルジェの獄炎

 アーサーは真耶の問に対し少し悩む。産んで手に入れた地位か、実力で手に入れた地位か……


「我は……我の今の地位は、全て運だと思っている。どこかで聞いた話だが、成功は運だと言っているのを聞いたことがある。それなら、やはり今の地位は運で手に入れたと思う。運も実力のうちと言うが、そんなことは無い。どれだけ実力があろうとも、誰かに見つけてもらうという運がなければ人は埋もれたままだ」


 アーサーは真耶にそう言った。すると、真耶は真剣な眼差しをしてアーサーに向き合うと、少し思い詰めたような声で言った。


「ありがとう。やっぱり俺とお前は同じ考えを持ってたみたいだ」


「そうみたいだな」


「……フフフ……、そう考えるとほんとバカらしいよな。何年も修行してきた人よりも、後から来た運だけが良い奴が出世する。でもさ、そういう奴に限って困ってるとか、思い詰めてるって言うんだよ。人の気も知らないくせにさ。そろそろ依頼を終わらせよう」


 真耶はそう言って地脈に触れる。そして、魔法を使い地脈に自分の魔力を流した。その刹那、地面に少し衝撃を感じる。そして、遠くから魔物の咆哮が聞こえ出した。


 地脈というのは大地を流れる魔力の通った管。言ってみれば、魔物が自然治癒をするために魔力を供給する管だ。だから、それに何かしらの異物を混入させると魔物はその異変に気づき、その元凶を潰しに来る。だから、こうすることで魔物をおびき寄せることも出来るのだ。


 真耶はそうやって魔物をおびき寄せると、さらに地脈の中にあるヘファイストスの魔力を魔法で取り出し具現化させた。


 その魔力の塊は形をどんどん変えていき、剣に変わる。


「”フランベルジェ”だ。これでもまあまあな強さだろうな」


 真耶はそんなことを言って剣を振る。そして、その刃を見つめた。


「それでまあまあなのか?」


「あぁ。剣というものはな、職人が長い時間をかけて打ったものの方が強いんだ。そういうものには魂がやどるからな」


 真耶の言葉にアーサーは納得する。そして、遠くから来る魔物に目をやった。


 どこを見渡しても魔物がいる。どうやら全方向囲まれてしまったらしい。普通なら逃げ道がなくなってしまい絶体絶命なのだが、真耶からしてみれば何でもない。真耶は剣を構えると目を燃えるような赤い色で光らせた。


「”火炎眼フレイムアイ”だ」


 真耶がそう言うと、剣が炎に包まれる。そして、とてつもない魔力の波が真耶の体にまとわりついた。


 そして、そのまとわりついた魔力の波は徐々に剣へと移動していき、剣の周りを高速で回転し始めた。そのせいで、剣にまとわりついていた炎が波に乗って高速回転し始める。


「来たな」


 真耶はポツリと呟いた。アーサーはその言葉でかなり近くまで魔物が来ていたことに気づく。


「モルドレッド、離れておこう」


 アーサーはそう言ってモルドレッドと一緒に真耶から離れていった。真耶はアーサー達が離れると、精神統一する。すると、遠くの魔物の声が聞こえてきた。


 そして、それから数秒後に大量の魔物が襲ってくる。その数なんと数百体だ。いや、数百所では無いかもしれない。数えるのも難しいくらいの大量の魔物が向かってきていた。


 しかも、その魔物はほとんど違う種類だ。どれがどの種類か、とか言う判断はつけれそうにないが、どの魔物も強そうだ。


「……」


 真耶はそんな魔物達が襲ってきている中、その中心で目を瞑って精神統一していた。そして、呼吸を整える。


 その時、魔物達は既に真耶の半径1m以内に侵入していた。そして、爪を鋭くとがらせその爪を真耶へと向けている。


 真耶はそっと目を開けると静かに剣を振った。その刹那、凄まじい炎と共に斬撃が飛ばされ周りの魔物が全て切り裂かれた。


「……”真紅しんく炎神ほのかみ”」


「「「っ!?」」」


 アーサーとモルドレッドはその光景を目にして言葉を失う。あれだけの魔物がいたのに、たった一振で全て殺されたのだ。いや、違う。一振では無い。見えなかっただけだ。本当はあらゆる方向に何度も斬撃を放っているはず。だが、その速さが速すぎて見えなかったのだ。


「衝撃。賞賛」


「討伐完了だ。帰るぞ」


 真耶はそう言って振り返り、アーサー達の元へと向かい始める。しかし、その時突如として真耶の背後に巨大な魔物が現れた。


 その魔物はミミズのような形をしていて、頭と思われる場所に宝石のような結晶がまとわりついている。


「……大ミミズか。雑魚は出しゃばるな」


 真耶は静かに振り返り、そう言って剣で自分の手首を切った。すると、そこから血が流れ出し、その血は剣にまとわりつくように刃に垂れた。


 大ミミズはそんな異常なことをする真耶を見て少し戸惑う。どうやら魔物にもある程度の知力があるらしい。


 だが、その戸惑う一瞬が命取りだ。たった一瞬でも隙を見せれば、それは死の合図と変わる。


「消えろ。”真紅しんく紅蓮血斬ぐれんちぎり”」


 真耶はそう言って大ミミズに刃を向けた。そして、一瞬で大ミミズの体を切り裂いた。


「っ!?」


驚愕きようがく不可視ふかし


「……お前ら、戻るぞ」


 真耶はそう言って剣を大ミミズに突き刺しアーサーの元へと向かい始めた。すると、剣は突然発火し燃え始める。そして、それに呼応するかのように他の魔物についていた炎も威力を強くし始めた。


 気がつけば、そこにいた魔物は全て燃え尽きてしまった。


損傷そんしょう


「ん?あぁ、これね。すぐ治るよ」


 真耶はそう言ってさっき切った傷を治す。そして、服に着いた土を少しはらい落とした。


 モルドレッドはそんな異常な程に強い真耶を見て驚愕する。さすがにこれだけの強さを持っているとは思わなかった。しかし、実際にその強さを目の当たりにしても恐怖心があるというわけではなかった。何故か、その強さよりも懐かしさと真耶の悲しそうな顔が気になった。


「……フフフ……フハハハハハ!まだやれるぞ!こんな体でもまだやれるんだ……!」


 突如真耶がそんなことを言って笑い出す。その以上な光景にアーサーは言葉を失った。


「すまない。少しおかしくなってしまってな。さ、帰ろうか」


「……そうだな」


 そんな会話をして真耶達はスタットの街へと向かい始めた。


 ━━それからだいたい30分くらい経過しただろう。出てきた時間と合わせると、だいたい2時間程度で帰ってきている。


 真耶達はスタットの街に到着すると、真っ直ぐギルドへ向かった。


「あれ?もう帰ってきたんですか?失敗したのなら違約金ですよ」


「失敗はしてないさ。あと、帰ってきたから失敗ってわけじゃないだろ?ほら、ギルドカード見ろよ」


 真耶はそう言ってギルドカードを受付の女性に渡した。受付の女性はそのギルドカードを見て、偽装してないか確認する。


「っ!?嘘っ!?たった2時間でこれだけの魔物を!?あなた一体……」


「だから、ラウンズだって言ってるだろ。ほら、さっさと俺のランクを上げろ」


 受付の人は真耶からそう言われ、直ぐに奥へと戻りルーナに確認する。すると、ルーナが本当に倒したのか確認するために奥から出てきた。


「あなた……ステータスプレートも見せなさい」


「いいぜ。ほら」


 真耶はそう言ってステータスプレートを見せた。ルーナはそのステータスプレートを見ると直ぐに魔物討伐数を確認する。


 やはりきちんと倒している。ズルなど何もしてないようだ。だが、ルーナはその事実を目の当たりにしてさらに目を疑う。なんせ、魔物の討伐数が900になってるのだ。


「一体何をしたらこんなに……!?」


「何でもいいだろ。早く俺のランクを上げてくれ」


 真耶はルーナに対して少しイラついたような態度でそう言う。すると、ルーナは少しだけ考えて言ってきた。


「そうね。これだけの実力者ならランクを上げても問題ないわ。ただね、Bランクからは試験があるんだけどね、その相手がいないのよ。だから、あなたにはある魔物を討伐してきて欲しいわ」


 ルーナはそう言ってある紙を取り出した。その紙には魔物の絵と情報が書かれている。そこに書かれていたのはこんな内容だ。


【闇堕ちの騎士】

 ・闇堕ちした騎士の魂が集合し具現化した者

 ・その闇のオーラには人を不安な気持ちにさせる能力がある

 ・闇堕ちした騎士達の魂には、その国で最強とまで言われた者の魂も含まれている。その為、危険度は10段階中の10と設定する


 といった内容だ。どうやらルーナはこの魔物を倒させようとしているらしい。まぁ、魔物かどうかは分からないがな。それでもこの闇堕ちの騎士という存在が危険な存在だと言うことが分かった。


 しかし、真耶はこの紙を見て不思議に思う。なぜなら、まだ真耶がこの世界にいた時はこんな敵はいなかった。どちらかと言えば魔物より人の方が敵対していたからな。だから、真耶はこの敵を知らない。


「どうする?やる?」


「フッ、愚問だな。まぁ、当初の目的からは外れるが、この生物も調査しておきたい。もしかしたら何かわかるかもしれないからな」


 真耶はそういうと、その依頼を受注することにした。


「分かったわ。今ギルドカードに依頼を登録したわ。死なないように頑張ってね」


 ルーナはそう言って手を振って来る。真耶はそんなルーナの見送りを受けながら不敵な笑みを浮かべてギルドを出た。そして、その闇堕ちの騎士という存在が確認されたという場所に向けて歩き始める。


「闇堕ちの騎士か……初めて戦うよ。さぁ、一体何者なのか……見せてもらうぞ」


 真耶はそう言って恐怖に満ちた笑みを浮かべる。


「フッ、早く行って早く帰ってこよう。俺達もそう時間をかけていく訳には行かない」


「最速。最短」


 2人もそう言って笑うと、真耶を急かすように走り出した。真耶もそれについて行くように走り出す。


 3人は凄まじいスピードで、その闇堕ちの騎士がいるという場所まで向かったのだった。

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