第12話 希望の光を覆う幻

 2つの剣がぶつかり合ったとき、オレンジに光る火花が散らばった。そして、甲高い音と共に希望が言ってくる。


「君達が何者でも、僕は手を抜かない!”信念ビリーブ状態モード”」


 その瞬間、希望のステータスが爆上がりする。そのせいで真耶は力負けしてしまい、どんどん押される。


「前よりは強くなったみたいだな。だが、それでもまだ俺には及ばない」


 そう言って真耶は少し強く力を込めた。すると、さっきまで押していたはずの希望が逆に押されだす。


「何!?こんな力が!?」


「焦ったら負けだぜ」


 真耶はそう言って体を回転させ宙返りのようにして希望の背後を取る。そして、そのまま希望の首元に刃を突きつけた。


「さぁ選べ。ここで死ぬか、俺らをこの世界に招待するか、2つに1つだ」


 真耶はそう言って不敵な笑みを浮かべる。


「……クッ!確かに君達を受けいれた方がいいのかもしれない……だが、それでも君を受け入れることは出来ない!”共鳴レゾナンス状態モード””神風の斬波ウインドカッター”」


 その刹那、真耶の右腕を風の刃が切り裂く。


 真耶の右腕から赤い鮮血が吹き出した。その鮮血は滝のように真耶の右腕から流れ落ちる。


「真耶!大丈夫!?」


 その光景を目にしてモルドレッドが思わずそう叫ぶ。しかし、真耶は一切動揺することなく奇妙な笑みを浮かべて剣を握りしめた。


 その瞬間、真耶の体が煙のように消える。そして、突如として希望の目の前に現れた。真耶は既にリーゾニアスを希望の首元に突きつけている。


 しかも、驚くことに真耶が4人いる。その真耶達はそれぞれ4方向から希望に剣を突きつけている。


「っ!?どういうことだ!?」


「”幻想眼イリュージョンアイ”その名の通り相手に幻状態に陥らせる魔法だ。相手の視覚、聴覚、触覚、嗅覚、味覚のどれでもいい。五感のうち1つに働きかけることによって相手に幻を見せる。それがこの目の能力だ」


 真耶はそう言って右目を緑色に光らせた。その目には謎のモヤがかかっている。


「クソッ!一体誰が本物なんだ!?」


「さぁね?」


「本物なんていないかもしれないよ」


「攻撃してみなよ」


 真耶達はそう言って希望を煽る。しかし、希望もそう簡単にその挑発に乗ったりしない。乗って攻撃をすればその隙に殺されるからだ。


 それがわかっているから希望も下手に動くことはしない。しかし、このままでは埒が明かない。そう思って希望は打開策を考える。


「……負ける訳にはいかない……!”希望斬きぼうざん”」


 希望はそう言って剣を360度振り払おうとした。そうすることで全方位に攻撃しようとしているのだ。


 しかし、希望の攻撃は発動することは無かった。


「っ!?」


「攻撃しようとすれば一瞬だけでも隙ができる。そして、その一瞬が命取りだ」


 そう言って希望の胸元にリーゾニアスを突き刺す真耶が突如現れた。しかも、その真耶は先程まで剣を突きつけていた真耶達とはまた違うところから出てきたのだ。


「グフッ……!ま……さか……!透明……化して……た……のか……!?」


 希望は吐血しながら苦し紛れにそう叫ぶ。しかし、その胸からは大量の血が流れ落ち、地面に水溜まりを作っていた。


 真耶はそんな希望の胸から剣を勢いよく振り抜くそして、血を払い落として背中の鞘に収めた。


「っ!?希望くん!」


 彩花は慌てて希望に寄り添う。そして、直ぐに呼吸を確認した。遅れて癒優と雷斗も来る。癒優は直ぐに回復魔法を、雷斗は怒りを抑えきれず真耶を睨みつけた。


「そんな無駄なことはするな」


「っ!?何を言ってるのよ!なんで殺したの!?それに、無駄なことって……命を軽く見ないでよ!」


「黙れ」


 真耶は暗く重たい声でたった一言そう言う。すると、その重圧と恐怖心で彩花達は言葉を失った。そして、戦意を喪失した。


 しかし、その中にも例外はいた。雷斗だけが立ち上がり真耶と戦おうとする。槍を構えて体に雷を纏う。


「お前だけは絶対に許さない!」


「あっそ、別に許されなくていいよ。俺はお前に許しを求めたつもりは無い。それと、なにか勘違いをしているようだが、勇者は死んでない。傷口をよく見ろ」


 真耶はそう言って希望の胸元を指さした。彩花達はその指の示す部分を見る。すると、驚くべきことが目に映りこんだ。


 なんと、希望の胸元の傷が治っているのだ。刺された時はあれだけ血を流していたのに、どこにも傷がない。


「っ!?なんで……!?」


 彩花は思わずそう呟いてしまう。そして、その異様な光景に足がすくんで腰が抜ける。癒優は直ぐに希望の心音を確認した。以下に傷が治っていたとしても、心臓が動いてなければ意味が無い。


 しかし、心音は正常に聞こえる。どうやらこれと言って問題は無いらしい。


「っ!?……どうして……!?」


「お前!何をした!?」


「簡単な事だ。剣を刺した瞬間に魂が抜けないように固定する。そして、剣を振り抜く瞬間に全ての傷を治療する。それだけだ。肉体が残っていて魂がまだ体に定着しているのであれば、蘇生するのは簡単なことだ。そもそも、それだけ条件が良ければ自然に蘇生する」


 真耶はそう言って振り返ってモルドットの所まで戻った。そして、その場所から彩花達と話す。


慰労いろう


「ありがとう。それより寂しくなかったか?」


「ん!」


 真耶とモルドレッドはそんな会話をしてニコニコ笑顔になる。しかし、直ぐに希望達に目をやって殺気を強くした。


「それで、これからどうする?このまま俺達を殺すために戦うか?それとも俺達と協定を結ぶか?」


 真耶は雷斗に向かってそう聞く。しかし、雷斗はったく悩む素振りを見せずに言った。


「お前を倒す!」


 雷斗はそう言って武器を構える。しかし、その構え方は素人で、弱い。踏み込みやら何やらが出来てない。


 だが、それでもこの世界ではかなり強い方だろう。”この世界では”な。


「下手に怒らせると死ぬぞ」


 真耶はそう言って雷斗との距離を一瞬で詰め、手刀をみぞおちの前まで持ってきた。


「っ!?」


 雷斗はその速さに驚き何も出来ない。さらに、それは速いだけではなく死ぬという恐怖心までも着いてきている。雷斗は怯えてしまい体が硬直してしまったのだ。


「……さぁどうする?」


「クッ……!」


「雷斗!やめろ。……真耶と言ったな。良いだろう。今回は特別に君達をこの世界に入っていいことにするよ。それと、協定も結ぶ。だが、全てを許したわけじゃない。自由にされても困るからな。君達の行動は常に監視させて貰う」


「良いよ」


 真耶は希望の言葉にそう返事をして奇妙な笑みを浮かべる。そして、続けて言った。


「殺されないような強いやつをよこせよ」


 真耶はそう言って振り返ると、アーサーの元に戻っていく。


「これから何をする?」


 アーサーは真耶に対して聞いた。


「勇者との協定が結べた。見せかけでもかなりの進歩だろう。俺達はこのままこの世界を旅する。持つ表は聖教会だ。あと、古代都市やギアの街にも行きたい。だいたいそこら辺を確認しながら旅をしていく」


「了解した」


「ん。了解」


 真耶はこれからの目的を確認すると、近くの町に向けて歩き始める。


 最初に来た場所が始まりの街……そうスタットの街の近くだ。まずはそこに行き今この世界で起こっていることが何かを確認する。そして、それから対策やら何やらを考える。


 真耶は頭の中で色々考えると、スタットの街に向けて歩き始めた。

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