第10話 遠い未来
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━きっと皆勘違いをしていたはずだろう。しかし、その勘違いは全てを狂わせる。出来ると思いこんでいても、実際は出来ない。
人はその事に気がつくのに時間がかかってしまう。そして、時間がかかればかかるほど絶望により近くなる。
「……きっとあの時の真耶はこの事実を知らなかったのだろう。だけど、覚悟しておかなければならない。もうすぐ本当の絶望は襲ってくる。その絶望は真耶を強くするが、同時に心を完全に壊してしまう」
そう言って男は空を見上げた。その男はどこか真耶に似ていた。その、真耶に似ている男は左目にクロニクルアイを浮かべて涙を流している。
そして、1度目を閉じて振り返ると、そこにはモルドレッドとアーサーがいた。
「……フフフ、悲しみや苦しみ、絶望は時を超え連鎖する。逆に、時を超えるということは過去に伝えることも出来るということ。記憶や意志、思いは伝達する」
男はそう言ってモルドレッドとアーサーに近づく。そして、2人の前に立った。
「本当に行くのか?」
「あぁ」
「もしそれでバタフライエフィクトが起こって、我ら3人がバラバラになってしまったらどうする?」
「また見つけ出して仲良くなるだけだ」
男はそう言って自信に満ちた笑みを作る。しかし、アーサーはそんな笑みを見て少し怒りの表情を見せると、男の胸ぐらを掴んだ。
「そうやって簡単に言うけど、そんなことが出来るわけないだろ!バタフライエフィクトが起こるということは、ただバラバラにされるんじゃなくて記憶まで改変される!そしたらもう仲良かったことなんて覚えておけないんだぞ!それでもやるつもりなのか!?」
アーサーはそう言って叫んだ。男はその言葉を聞いて顔を俯かせる。そして、胸ぐらを掴む手を掴み、無理やり話させると服を整えて言った。
「俺が出来ないとでも思ってるのか?」
「っ!?君はいつもそうやって簡単に言う!だけど、出来ないことだってあるだろ!」
「だとしても!やらない訳には行かないんだよ!俺達はこの世界の創造者じゃない!だから、1度壊れてしまった世界を作り直すことは出来ないんだ!周りを見ろ!周りにあるものは何も無い!建物も自然も何もかも壊された!山はえぐり取られ、海は蒸発した!太陽は爆発し空は永遠の闇におおわれた!今この状況を打破するにはこの方法しかないんだよ!たとえそれで失敗しても、何もしないよりはマシだ!」
男はそう言って怒鳴りあげる。突然の大声にアーサーは思わず言葉を失う。
そして、男が話終えるとモルドレッドが近づいてきて言った。
「大丈夫。きっと上手くいく。それに、何があっても忘れないって約束しよ。そしたら覚えておけるよ」
そんなことを言って小指を立ててくる。男とアーサーは一瞬何をしていいか分からなくなったがすぐに理解し小指を同じように立てる。そして、3人で搦め合い言った。
「「「指切りげんまん嘘ついたら針千本飲ます」」」
「これで嘘つけないよ。絶対に覚えていてね」
「あぁ」
男はそう言って左目に時計の模様を浮かべ黄色く光らせた。すると、男の背後に巨大な時計が浮かび上がる。
「……あの日から……あの時から俺達の作戦は失敗した。あの時真耶の言うことを聞けばよかったのに、聞かなかった。だから失敗した」
男は少し暗い顔をしてそう言って、真っ暗な空を見上げた。そこには星は愚か、月すらもない。ただ真っ暗な闇。
そもそも、今は夜じゃない。昼だ。今この世界は太陽を壊され光は失われた。気温はどんどん降下していき今やマイナス10℃ほどとなっている。
「……あの時太陽を壊された……いや、奪われたの方が合ってるか。太陽のエネルギーは全て奪われた。そして壊された。恐らく今もどこかでアイツは王として君臨しているのだろう。そして、その世界を壊している」
男はそう言って前を向きアーサーを見つめた。その目には強い意志を感じられた。全てを覚悟したような、強い意志を。
男はそんな目でアーサーを見つめ、左目の時計の針を高速回転させ始める。そして、背後の巨大な時計の針を動かした。
「ついに始めるか。俺達も行くべきなのか?」
「いや、同じ時間軸に同じ人が2人いることは出来ない。元々そこにいた自分が未来の自分を見つけた瞬間に未来へ戻される。これは未来に行っても同じだ。だからお前達は行くことは出来ない」
「だが、それはお前も同じ。向こうでもう1人のお前と出会ったらどうする?」
「俺は特別だから。あの時、真耶は俺に言った。自分の理を変えろと。だが、俺はしなかった。だから未来の自分を呼ぶことが出来ずに失敗した。でも、違う世界の……
そう言って男は遠い目をする。すると、突然男の足が透け始めた。
「……行くのか?」
「あぁ。また、希望に満ちた世界で会おう」
「……そうだな」
「ねぇ、今回は誰を倒すかわかってるの?」
「どういうことだ?」
「最終確認よ。もしかしたらこっちとあっちじゃ敵は違うかもしれない」
「いや、同じさ。やることは一緒。みんなで力を合わせて、冥界の王……月城真耶を倒す。そうだろ?」
「ん!当たり」
「フッ、簡単だな。三本の矢の話と同じさ。3人もいれば1回目に出来なかったことも2回目に成功する。ま、向こうは1回目だけどさ」
男はそう言って不敵な笑みを浮かべた。そして、だんだん透けていく体を見つめながら手を強く握る。
そして、遂に男の体は青い光の粒子となって消えた。そこに残ったのは静寂と冷気だけだった。
「頑張れよ。”ケイオス”」
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━……
「さて、そろそろ行くか」
「了解」
「どうやって行くつもりだ?見た感じ、ペンドラゴンの周りだけ時空が荒れてるぞ」
アーサーは望遠鏡のようなものを覗きながらそんなことを言う。真耶も、モノクルのようなものを左目に着けてその中を覗いていた。
確かに、何故かペンドラゴンの周りの時空だけ荒れている。まるでハリケーンが襲ってきたかのようだ。
「恐らくあの竜巻に飲み込まれたら終わりだな」
「そうだな。何かしらの魔法で壊せないのか?」
「多分簡単に壊せるぞ。ただ、時空間魔法を付与しておかないと、あの竜巻が時空間のものだった場合に無駄打ちになってしまう」
真耶はそう言ってモノクルを外す。そして、リーゾニアスを背中に担いだ。
その時、アーサーはこれまで気が付かなかったことに気がついた。
「なぁ、アヴァロンナイトはどうした?今持っているリーゾニアスにはアヴァロンの剣の力も含まれているが、それでもほんの少しだろ?」
「え?あぁ、あれはちょっとな。ま、いいだろ。それより早く行こうぜ」
真耶はそう言って
当然不意に起こったことに対処出来ずモルドレッドは吸い込まれてしまった。しかし、ギリギリのところで真耶が掴む。
「なんだ急に!?」
「真耶、この引力はペンドラゴンから発生している。どうやらペンドラゴンの竜巻の威力がどんどん上昇しているらしい」
「おい、なんでそんなに冷静なんだよ」
「どうせお前のそれも見せかけだろ?」
「あ、バレた?」
真耶はアーサーからそう言われると、そんなことを言って平然とモルドレッドを引き戻す。そしてゲートを閉じた。
「どうする?」
「丁度いい。引力があるなら吸い込まれてみよう」
真耶はそう言って結界を張った。そして、もう一度ゲートを開く。その瞬間再びとてつもない引力を感じた。
「じゃあ行くか」
3人はそう言ってその引力に吸い込まれて行った。
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