第9話 闇の中の真実
真耶は振り返るとモルドレッドの顔を見つめた。そして、心眼を使い心の中を読む。しかし、そんなことをしても無駄に等しい。どうせモルドレッドの記憶は戻らない。
たとえ邪眼を使おうとも失った記憶を戻すことは出来ない。記憶を消すことは出来ても復元させることは出来ないのだ。出来ることといえば、”ケイオス”やアーサーの持つモルドレッドという人物像をモルドレッドの記憶として定着させることだけ。
だが、これをするということは、真耶と同じことが起こるということ……。
「……もう終わりだ……!こんなことが起こるなんて……!」
「真耶……」
「フフフ……なんと言うやつだ……。全て知っている。全て分かっている。どれくらい記憶を消せばいいのか……逆にどこまで記憶を残せばいいのか、全てわかっている。だからこんなところで……こんな最悪な所まで記憶を消したんだ……」
真耶はそう言って拳を強く握りしめた。力強く握りしめすぎたのか、手のひらから血が流れてくる。
「真耶……最悪のところとはなんだ?」
「……アーサー、お前はいつからモルドレッドがあんな口調になったと思う?」
「いつから……?どういうことだ?初めからじゃないのか?」
「あぁ、そうさ。モルドレッドのこの口調はある事件が原因だ。その事件というのは……」
「っ!?まさか、マリア皇妃殺人事件か!?」
「ご名答。……だが、それだけじゃない。メルト伯爵殺人事件もだ」
「っ!?それって……どっちもモルドレッドの親じゃないか!」
「そうさ。モルドレッドは両親を殺され感情を失った。だからこそあんな口調になったんだ。それに……」
「疑問?」
その時、怒りに飲み込まれた真耶にモルドレッドが話しかけた。その一言で真耶の怒りは少し収まる。そして周りが見えるようになった。
「あ、あぁ……ごめん。何でもないよ。それよりさ、本当に俺達のことこと覚えてない?」
「謝罪……」
「謝らなくていいよ。うん……謝らなくて良い……」
真耶はそう言って優しく微笑んだ。そして、勢いよく立ち上がるとモルドレッドに手を差し出す。
「初めまして。俺はケイ……いや、
「よろしく」
「……王?疑問……」
モルドレッドはそう言って首を傾げる。そして、少し周りを見ると、突然何かを思い出したかのような表情をして涙を流し始めた。
「「「っ!?」」」
「どうした!?大丈夫か!?」
突如泣き始めてしまったモルドレッドを見てアーサーは慌てて近寄った。すると、モルドレッドは何故か絶望したかのような虚ろな目で泣いている。
その時アーサーは理解した。恐らく王という言葉に反応したのだろうと。モルドレッドの両親は前の王に近しい存在だった。
だから、その”王”という言葉に反応して両親が死ぬところを思い出してしまったのかもしれない。
(クソッ……!確かに最悪なところまで記憶を消してやがる……!)
アーサーは心の中でそう叫んだ。しかし、それは表情に出さず笑顔を作る。
「大丈夫だよ。俺達がついている。その苦しみも一緒に分かち合おう」
「……」
「ほら、顔を上げて」
アーサーは優しくモルドレッドにそう言った。すると、モルドレッドは顔を上げることなく話しかけてくる。
「……分かるの?」
「え?」
「私のこの気持ちがあなたに分かるの?悲しいみや苦しみ、色んな感情がぐちゃぐちゃになってる。そんな気持ちがあなたに分かるの?」
「あぁ、分かるよ」
「嘘つかないでよ!絶対に分からない!両親を目の前で殺された悲しみがあなたに分かるはずがないのよ!こんな気持ち、誰だって分かりは……んむっ!?」
しその時、突如モルドレッドの言葉が止められた。見ると、横から真耶がモルドレッドの口を押えていた。
どうやら理を変え離れることを否定し唇同士を離れないようにしたらしい。
「んんん!んー!」
何を喋ろうとしても唇が離れないせいで何も喋れない。
モルドレッドは何とかして話そうとするが話せないことがわかり真耶の顔を見た。そして、顔を見た瞬間モルドレッドの脳裏に1つの言葉が流れ込んでくる。
『怒られて罰を受けて性奴隷にされる』と。
モルドレッドは両親を失ってから何とかして生きようとした。だから、少しの間だったがある場所で働いた。しかし、そこは高収入だったがそれだけの理由があった。
ケイオスと出会ったのがモルドレッドが働き出して3ヶ月ほどだったから、恐らくそれの少し前くらいまで記憶を消されているだろう。だから、今のモルドレッドの記憶はは何度も体罰を受け性奴隷のような仕打ちを受けている最中なのだ。
だから、真耶の顔を見てそう思ってしまった。たとえそんな顔をしていなくても、そう見えてしまったのだ。
「……ん……ん……!」
モルドレッドは怯えきってしまい涙を流す。そして、身体中ふるわせて逃げようとする。しかし、真耶から放たれた言葉は意外なものだった。
「……分かるよ。目の前で両親が殺される悲しみや苦しみ、辛さ、全ての負の感情を俺は知ってるよ」
真耶はそう言って悲しい目をしてモルドレッドを見つめた。そして、モルドレッドの口から手を離す。その手はどこか震えていた。
「……人は目の前で最も親しい人を失った時、感情を失う。俺もその1人だ。俺は自分の手で両親を殺した。姉すらも手にかけようとした。だから、今のモルドレッドの気持ちは痛いほどわかるよ」
真耶はそう言ってしゃがみこんでモルドレッドと目線を合わせた。そして、震える手でモルドレッドの手を握る。
その時モルドレッドは全てを察した。今のモルドレッドは記憶を失っていて、そして目の前にいる真耶という男はモルドレッドと何かしら親密な関係だったのだと。そして、生きがいであり大切な存在だったのだと。
その関係がなんであれ、前のモルドレッドはもういなくなってしまった。だから、この真耶という男の大切な存在も、生きがいも無くなってしまったのだ。
そうなってしまえば、真耶はいつ死ぬか分からない。だったら、真耶のためにもモルドレッドは生きなければならない。だが、ただ生きるだけじゃない。心配させない為にも、明るく生きなければならない。
「……謝罪。
モルドレッドはそう言って真耶に抱きついた。こんな気持ちおかしいのかもしれない。初めて会ったはずなのに、胸がドキドキするこの気持ちは変なのかもしれない。
だけど、0から始まる恋だってある。だったら、この気持ちを忘れないようにして、そして真耶のために生きようとモルドレッドは心の中で決めたのだった。
真耶は突如抱きついてきたモルドレッドに動揺しながらも、嬉しさで自然と笑みがこぼれていた。
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