第8話 苦しみに囚われし者
それから真耶は何とかアヴァロンへと帰還した。アヴァロンに着いた頃には右腕だけでなく右足も崩壊し始めていた。
真耶はその足の崩壊している部分の時間を止め、何とかその体を維持させながら王城へと戻る。そして、アーサー達の元へと戻った。
「……まだか……真耶……」
ドサッ……
その時、アーサーの背後で何かが落ちる音がした。振り返るとゲートが地面と水平に開いている。そして、その下に倒れ込む真耶の姿があった。
「っ!?大丈夫か!?一体何があった!?」
アーサーはそう言って真耶に近寄る。しかし、真耶は返事をしない。それどころか呼吸をしているのかすらも怪しい。
アーサーはそんな真耶の方を揺さぶり意識があるか確認をする。やはり意識は無い。次は呼吸の確認だ。呼吸を確認する体制になってから呼吸を確認する。
すると、呼吸はしていることが確認できた。どうやら息はしているみたいだ。死んでは無いらしい。心音もきちんと聞こえる。
アーサーはそれを確認するとほっと胸をなでおろした。しかし、安心してはいられない。このままではいつ真耶の命の灯火がなくなるか分からない。
アーサーはすぐに真耶の体の中に魔力を流し込み回復を試みた。しかし、まるで穴の空いた風船のように魔力が体から出ていく。そのせいで、回復ができない。
「っ!?なぜ……!?」
アーサーはもう一度試みた。しかし出来ない。これでは回復は愚か、自然治癒も出来ないだろう。
それに、よく見れば崩壊している右腕に時計のような模様がある。これがあるということは、真耶は今
「……どうすればいいんだ……」
アーサーはそう言って拳を強く握りしめる。そして、地面を強く殴りつけた。
「……アーサー……」
「っ!?真耶!起きたのか!?」
「あぁ、今起きたよ。そして、決まった。……今からやることが全て決まったよ」
「っ!?どういうことだ!?」
「……全てわかったさ。なんでこんなことになったのかも。そもそも、前々からこの異常事態の予兆は出ていた。単に俺が気づかなかっただけだ」
「……一体何を……」
アーサーは真耶の言っていることが理解できない。そのため、話についていけず質問もできない。
唯一言えることは、一体何の話をしているのか分からない。ということだけだ。
「ロキの言葉を聞いて分かった……。アーサー、行くぞ。ペンドラゴンに。そこに行けば、今起こっている世界の謎を解明できる」
真耶はそう言って体を起こした。そして、自分の右腕と左足の時間を戻す。そうすることで失った腕と足を再生させた。
アーサーは真耶の話を聞いて何も理解できなかった。ただ、真耶がロキ達から何を言われたのか分からないが、今の状況を打開できる策を思いついたことだけは分かった。
「……その前にモルドレッドを治そう」
「あぁ。ここに連れてきてくれ。出来るか分からないが、ここなら出来るはずだ」
アーサーは真耶に言われた通りモルドレッドを真耶の目の前に連れて行った。真耶はアーサーが連れてくる前に目の前に術式のようなものを書き始める。
そして、ある程度書き終えると、アーサーがその上にモルドレッドを乗せた。真耶はそれを確認して短剣を作り出した。そして、再生したばかりの自分の右腕を切り裂く。すると、腕から大量の血が流れ落ちてきた。真耶はその血を操って文字を書いた。
「……アーサー、離れておいてくれ」
「了解した」
アーサーは真耶の言葉を聞いて少し後退した。そして、真耶を見つめる。真耶は、アーサーが離れたのを確認すると、左目に
「……行くぞ。”
真耶が魔法を唱えると、左目が白く発光し始める。そして、それに呼応したかのようにモルドレッドの体も発光し始めた。終いには、術式すらも白い光を放ち始める。
「これは……?」
「霊魂回復魔法だ。人は必ず1つの霊魂……いわゆる魂を持つ。その魂が傷つけば人の体は傷つくし、逆に体が傷つけば魂は傷つく。この魔法はその原理を利用して回復しているんだ。魂の傷を直させて体も同時に修復させている。こっちの方が体と魂どちらも回復できるからな」
真耶は魔法を発動しながらアーサーにその魔法の説明をした。そして、説明を終えるとすぐにモルドレッドと向き合い全力で魔力を流す。
いかにスピリチュアルアイを使ったと言えど、ここまで魂を傷つけられれば治すことは容易ではない。たとえ霊魂を治したとして、その後体を再生しなければならない。まぁ、霊魂の回復が終われば体の再生は簡単なんだけど……
今モルドレッドの体は四肢を切り取られている。だということは、その部分の霊神経を繋がなければならないということだ。だから、霊神経を繋ぎ間違えれば体は異常をきたすということだ。
間違いや失敗は許されない。ギリギリの魔法なのだ。
「……よし。次は体の再生を始める」
真耶はそう言って右目に神眼を浮かべた。
霊魂を回復し終えたあとは、その霊魂と体を定着させることだ。そのためには体を完全に修復する必要がある。
真耶は神眼で空気中の炭素やら何やらを変化させ体を構築していく。すると、モルドレッドの体がどんどん再生されていく。
そして遂に、体を全て構築し終えた。これから遂に肉体と霊魂を定着させる時だ。だが、中々真耶はそれをしようとしない。しようとすれば、あの時のロキの言葉を思い出してしまう。
「……真耶、どうした?」
「……嫌な予感しかしない。これから俺は苦しめられる。そんな気しかしない」
「臆するな。それでもやるしかないんだ」
「分かっている……!分かっているけど……クソッ!甘えるな俺!”定着しろ。
遂に意を決して真耶は肉体と霊魂を定着させた。その瞬間、モルドレッドの体から白い光が放たれる。そして、その光は一瞬で収まりその場に静寂がもたらされた。
「……んっ……」
その刹那、モルドレッドが目を覚ます。どうやら真耶の魔法は成功したらしい。
「っ!?モルドレッド!」
「んん……?」
「モルドレッド!目を覚ましたか……良かった。死ななくて……」
真耶はその喜びのあまりモルドレッドに抱きつきながらそう言って無事なことを確認する。
「……?」
「どうした?どこか具合が悪いのか?」
真耶は何故か何も言わないモルドレッドを不思議に思い問いかけた。すると、モルドレッドから思いがけない一言が放たれる。
「
「……え?」
「
「「「っ!?」」」
モルドレッドは何故か二字熟語で話しかけてくる。しかも、その内容は『あなたは誰?』という意味の言葉だ。
真耶とアーサーはその言葉を聞いた瞬間に固まってしまった。そして、すぐにモルドレッドに問いかける。
「俺達のこと覚えてないのか?」
真耶は思わずこんな在り来りのことを聞いてしまった。だが、こんなことになったらこれを聞くのは定番だから良しとしよう。
いや、良しとしていいわけない。こんなこと聞かなくてもわかっている。だが、ドッキリの可能性もあるし、聞かないことには始まらない。
「……
「「「っ!?」」」
モルドレッドは少し悩んだ後、真面目な顔でそう言った。この否定は、覚えているということを否定しているのだ。だから、真耶達のことを覚えてないということ。
「クソッ……!ロキめ!こういうことか!」
真耶は拳を強く握りしめてそう叫ぶ。そして、強く握りしめた拳をモルドレッド達がいる方向とは逆方向に向かって殴りつけた。
すると、拳からとてつもない威力の衝撃波が放たれその方向にあったものを抉りとった。
「ロキ……いや、アースガルズ!お前達は絶対に許さないからな……!」
真耶の苦しみを含んだ叫びはその空間に重くのしかかり、痺れるような空気をもたらした。
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