第5話 真耶の体
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━あの日から何日経っただろうか。気がつけば世界は変わっていた。
人々はある1人の男の名前を完全に忘れ、そして神達は無かったことにしようとした。そして、その作戦は完了し男は初めからいなかったことになった。
だが、これは男の望んだことでもあった。男は神や悪魔たちも含めて自分という存在をなかったと認識させることによって平和を作ろうとした。しかし、神や悪魔は忘れることは無かった。
そして、1人の男の死によって平和になると思われた世界は、1人の男の死によって平和とは程遠い世界へと変貌した。
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━男は1人暗い場所に立っていた。その男は世界を平和にしようという志を持っていた。しかし、今はこうして失敗し仲間とは……いや、あれを仲間とは少し違う。あれは男の記憶から作り出した男のもう1つの人格。
男はその人格とは違う道を歩んでいる。だが、これもその人格の作戦だ。だから、問題は無いはず。
「……待ってろ。直ぐに連れて帰る。アイツを……」
男はそう言ってさらに暗い深淵へと足を踏み入れた。
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━真耶は今自分の部屋で武器の手入れをしていた。理を切り裂き理を傷つけられたリーゾニアスは今や使い物にならないほどボロボロだ。
真耶はそのリーゾニアスの理を修復していた。
「……やっぱり、魔力も弱まってるな。まだ、ケイオスがいれば時間をかけて理を修復できるんだがな。俺一人だと本人がいないと理を修復できない。それに、この肉体を構築するのにほとんど魔力を使っちまったしな」
真耶はそんなことを呟きながら自分の手のひらを見つめる。その手のひらは一見普通に見えても中身はボロボロだ。いつ崩れてもおかしくない。
「あとどれだけ戦えるか……」
真耶は弱りきった声でそう呟いた。そして、そんな自分の情けない声を聞いて笑いが込み上げてきてしまう。
真耶は自分の弱りきった姿を隠すように優しく微笑んだ。そして、自分の手のひらをもう一度見つめ、リーゾニアスの修復に取り掛かった。
━━次の日……
真耶は朝早くからベランダに出て空を眺めていた。その空にはまだ日は登りきって無い。そのため、まだ外は暗く周りはよく見えない。
「……宵闇の悪魔が魂を食らう。宵闇の悪魔は冥界に住む。宵闇の悪魔はしを超越している……」
突如真耶の背後でそんな言葉が聞こえてきた。振り返るとそこにはアーサーがいた。
「昔、こういう童話があったのを忘れてたよ」
「……そう言えばあったな。死した者は冥界に誘われ、宵闇の悪魔によって裁かれる。悪事を犯した者は魂を食われ、犯して無い者は拷問され一生の苦痛を味わう。子供向けの童話にしてはちょっと過激すぎるよな」
「そうだな。あの頃の我らはその童話をただ怖いとしか思えなかった。だが、今こうして我らに冥界という存在を教えてくれた」
「つまり、俺達を助けてくれたって訳だな」
真耶は少しだけ微笑んでそう言う。すると、アーサーは何かを考える素振りを見せ、しかし何も言わずに振り返り手を振って出ていく。
真耶はそんなアーサーを見て少しだけ感謝の気持ちを覚えた。そして、自分の腹に服の上から手を乗せる。すると、そこには大きな穴が空いていた。
「……また構築し治さないとだな……」
そう言って大気中の魔力を吸い始めた。
このベランダは通常より多くの魔力が漂っている。恐らくアーサーは、真耶に何かしらの異常があると気がついてどこかに行ったのだろう。
なんせ、真耶が無言でベランダにいるのはかなり珍しい。基本的に何かしらの悩みがある場合のみ真耶はベランダに行く。それをアーサーは知っている。
真耶はアーサーに感謝しながらベランダで自分の体の構築に務めた。そして、自分の部屋から持ってきた魔道具『マジックスフィア』を取り出す。
これは、大気中の魔力を吸い取り放出すると言うもの。だいたい5時間ほどでMAXまて溜まり、効果はMAX状態で1日~3日ほど続く。
この魔道具を使うことで真耶は常に魔力を回復させ体の崩壊を止めようとしているのだ。
「……はぁ、早く帰ってきてくれないかなぁ。俺の本体だけでもいいから……」
真耶はそんなことを呟いてベランダに置いてあるベンチに横たわると、深い眠りについた。
そして、アーサーは真耶にバレないように真耶の部屋へと向かった。そして、部屋の中に入ろうとする。しかし、鍵がかかっており開けられない。
アーサーはその部屋の鍵をピッキングして開けると中へ侵入した。すると、中は想像を絶するような光景だった。
「っ!?やはり……真耶は何かを隠している!?こんなのありえない……!」
アーサーはそう呟いて少し部屋の中を散策する。しかし、さすがは真耶だ、と言ったところだ。全く痕跡がない。もしかしたらアーサーが部屋に入ってくることも想定してあったのではないかと思えるほどにそれらしい痕跡は何も無い。ただ、真耶の体に何かしらの異常をきたし、それを隠しているということだけ分かる。
「……真耶、君は一体何を隠しているんだ……?」
アーサーはそう呟いて部屋を後にした。
そして、時間は経過し正午……
真耶は目覚めた。そして、魔道具を手に取りベランダから飛び降りる。そして、門の前に降り立った。そこには既にアーサーが居る。
「待たせたな」
「そうでも無いさ。じゃあ行こう」
2人はそんな会話をして時空連合本部に向けて足を奨め出した。
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