第4話 苦悩

 真耶は呆れた様子で空いた穴を見つめた。アーサーはその様子を見て真耶に近づく。


「連れていかれたか」


「あぁ。だが問題は無い。モルドレッドを時空犯罪者と言っていたから恐らくロキは時空連合の手先だろう」


「っ!?ゼウスが動き出したか……!」


「そうみたいだな。だが、問題はそこじゃない。見ろ。ロキの生やした根に触れた結果がこれだ。あれは確か、ユグドラシルの木の根のはず。その木の根が俺の波動どころか生命力までも吸い取りやがった。これは異常だ。1年前まではそんなことは無かったはずなのだがな」


 真耶は少しだけアーサーに対して怒りをぶつけながらそう言う。


「……」


 しかし、アーサーら何も答えない。真耶はそんなアーサーを見つめながらさらに続けた。


「オーディンのグングニルもそうだ。何だあれ?オーディンのグングニルは確かオリハルコンとミスリル鉱石と黒曜石の混合石こんごうせきだったはずだ。だから、アダマンタイトの剣で簡単に壊せたはず。それにもかかわらずだ。弾くことしか出来なかった。一体俺のいない間に何があった?アーサー、お前は一体何をした?世界の改変でも行ったのか?」


 真耶は少し……いや、かなり怒りながら質問した。その問いかけを聞いてアーサーは何も言えなくなる。


 真耶はそんなアーサーを見て少しだけ目を細めた。そして、心眼で心の中を読む。しかし、さすがはアーサーだ、と言うべきだろうか。他のことを考え対策してある。


 どうやらアーサーはこの事実を隠し通したいらしい。だとしたら、真耶に知られてはいけないことか、もしくは知って欲しくないことか。


 どちらにせよ知らなければこの先話を進められない。もし何も知らないまま戦えば、確実に殺される。それに、いまの状況では誰が敵で誰が味方か分からない。


「……なぁ、アーサー、ガウェインとヴィヴィアンはどうした?それに、他のラウンズもだ」


「っ!?」


 真耶がそう問いかけると、アーサーは少し動揺し目を背ける。何か隠しているのは間違いない。


「俺に話せないことなのか?それとも、話したら誰かに危害が及ぶのか?」


「……」


 そう聞いても何も答えはしない。何故か、苦しそうな顔をして無視をする。


「……もういい。言いたいことは分かっている。心眼は表層面の心を読むだけじゃない。深層面の心さえも読む。アーサー、悪かったな。お前をずっと独りにしてしまって」


「っ!?……そうやって……そうやって簡単に言うけど!謝ることなんかいくらでもできるんだよ!ずっと……ずっと我はお前を待っていた!モルドレッドも忘れてしまって、覚えているのは我だけ!それでもお前を待ち続けた!だが、もう遅い……!お前がいなくなったあとゼウスが攻め込んできた。そして、その時ガウェインは行方不明に、そしてヴィヴィアンとエルマは捕まってしまった。他のラウンズの皆は重症で意識不明。もうみんな居なくなったんだよ!それに、ヴィヴィアンとエルマは3日前に処刑された……!ゼウスによって裸にされ公衆の面前で拷問を受け、最後に首を落とされ体を消し炭にされた。……もう戻っては来れないんだ……!」


 アーサーはそう言って壁を殴り付ける。


 真耶はその時、『アーサーがこんなに怒るのを見るのは初めてだ』と思った。これまでのアーサーはいつも冷静だった。だが、いまのアーサーは冷静とはかけ離れている。


 どうやらアーサーを独りしたことが間違いだったらしい。


「……アーサー。冷静になれ。まだアイツらが完全に死んだとは限らない。恐らく、まだ『生と死の狭間の精神世界』にいるはずだ」


「っ!?そんなわけないだろ!」


 真耶の言葉を聞いてアーサーは怒鳴りあげた。だが、それもそのはずなのだ。現在地球やアヴァロンを含め、神界、地獄、魔界などの全世界では『肉体を失ったものは強制的に死へと向かわされる』という常識が成り立っている。だから、それを知っているアーサーはそんなはずないと怒鳴りあげたのだ。


 だが、それは真耶も知っているはず。だが真耶はそう言った。それにはちゃんとした理由がある。真耶はそれを話し始めた。


「アーサー、話を聞け。俺がこう言ったのも理由がある。まず、肉体を失った者は強制的に死に向かわされるというのは間違った情報だ。その証拠に、俺は肉体を失ったが魂だけの存在となって生へと向かった。そして、蘇り魂だけの存在となった。恐らくだが、この情報はゼウスが流したデマ情報だ。こうすれば、このことを嘘だと知らない人達は復活魔法を使わず肉体を構築させない。ゼウスの思うつぼだ」


「っ!?嘘……だろ……!」


 アーサーは真耶の話を聞いて言葉を失った。


「……嘘じゃないさ」


「っ!?じゃあ、あいつらはまだ生きてるのか……!?」


 アーサーら恐る恐る聞いてみる。すると、真耶は少しだけ考える素振りを見せ、言ってきた。


「いや、恐らくもう死の世界へと行っただろうな。肉体を失ったものが生と死の狭間の精神世界に行くと、強い力で死へと引きずり込まれる。肉体を再構築すれば良いんだが、今回はしなかったからな。恐らく既に死の世界へと行っただろう」


「っ!?……なんだよ……!変な期待させやがって……!」


 アーサーは少し皮肉めいた声でそう言った。しかし、真耶はその言葉を聞いて少しだけ目を瞑ると優しい声で言った。


「アーサー、まだ、諦めるには早い。死を選んだ者がどこに行くか知ってるか?」


「どこって……逆に行く場所なんかあるのか?」


「あぁ。あるんだよ。死を選んだも者は決まって『冥界めいかい』に行く。ここに行って輪廻転生する者もいれば、ずっとその場に残り続ける者もいる。ま、だいたい輪廻転生するんだがな、時々例外もいるんだよ。出来なかったりしなかったりとね。だから、まだ諦めるには早い。いずれ俺が何とかしてやるよ」


 真耶はアーサーに向かってそう言うとアーサーは少しだけ希望を感じたような表情を見せた。そして、少しだけ微笑む。


「ま、今はそんなことよりモルドレッドを助けないとだよな。早速助けに行こう。だが、その前に準備が必要だな」


 真耶はそう言って天井に空いた穴を修復する。そして、作戦会議室の扉に手をかけた。


「アーサー、明日の正午に出発する。それまでに支度を済ませろ」


 そう言い残して真耶は部屋から出ていった。アーサーは誰もいなくなった部屋で、1人静かに微笑んだ。


 そして真耶は、誰もいない廊下で1人苦しげな表情を作って壁を殴り壊した。


「……クソッ!全部……全部最悪な方向に行ってる!ケイオス……!そして俺……!全てはお前達2人にかかっている。この肉体が終わりを迎える前に、早く終わらせてくれ……!」


 そう叫んでその場を後にした。その叫びは、かなり大きかったにもかかわらず、誰の耳にも届くことは無かった。

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