第2話 精神世界の奇跡

 2人は長い間抱き合った後離れた。


「……なぁ、なんでお前は生き残った?理を消したんだろ」


「やっぱり気になるか?良いよ。教えてやるよ。あの時な……」


 そう言って真耶は静かに話し出した。


 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━……


 あの時ケイオスは奏と共に理を消滅させた。その影響で、ケイオスという存在が世界から消滅した。


 そして、ケイオスの魂は行き場をなくし、生と死の精神世界へと迷い込んだ。


「……やっと来たか。待たせやがって。あの時の逆だな」


 精神世界へと来たケイオスの耳に、ケイオスと全く同じ声が聞こえる。見上げると、真耶がいる。どうやらケイオスが主導権を持っていたため、真耶はこの精神世界へと来ていたらしい。


「やっぱりお前も俺と同じ考えを持ってるんだな」


「当たり前だろ。それより、これからどうすんの?お前が消滅させようとしたことわは2つだろ?奏を含めてもう1人。俺かお前のどちらかが消えなければならない」


「そうだな。だが、攻撃事態を食らったのは俺だ。だから、今の俺の魂はかなり傷ついている。俺よりお前が生きる方が良い」


「……フッ、そこは考えが違うんだな」


 真耶はそう言って笑った。どうやら2人の考えは逆らしい。このままでは長い会議が始まりそうな気がする。


 こういう時は多数決だが2人しか居なければ意味が無い。これでは一生決まりそうもないな。


「……どうするか……」


「私がその責任を負うよ」


「「「っ!?」」」


 突如、女性の声が聞こえた。振り返るとそこに奏がいた。


「「「奏!?」」」


「何故ここに!?」


「それ聞いちゃう?もぅ、鈍感なんだから」


 奏はそんなことを言いながら近寄ってきた。そして、小悪魔のような表情をして言う。


「まーくんが好きだからだよ」


 そんなことを言って小悪魔のようにつんつんしてきた。気がついたら服装も小悪魔のようになっている。


「使いこなしてんな。この世界」


「精神世界だから想像した姿になれるんだよ。ニシシシ」


 そんなことを言いながらつんつんしてくる。


「……あのさまーくん……さっき責任を負うって言ったよね?意味わかる?」


 奏は少しだけ真剣な眼差しになって聞いてきた。その微妙な雰囲気にその場の空気は重苦しくなる。


 真耶とケイオスはその問いかけを聞いて答えが直ぐに浮かんだ。しかし、なかなか声に出しづらい。この、変な感じの空気がそれを言いにくくさせている。


「……あのさ、微妙な空気を醸し出すなよ。真剣に話したいなら真剣に言え」


「あはは……厳しいなぁ。なんだかこのままだとおしりペンペンされそう」


「されたいのか?」


 真耶は奏に向かって少し煽るように聞く。


「むー!そう言われるとされたいじゃん!」


 奏はそんなことを言ってきた。さすがはドMなだけはある。まぁ、そんなことは置いといて、さっきの奏の問いかけについてだ。早く答えてあげなければならない。


「それで、わかったの?」


「……簡単だ。お前が2人分受けるってことだろ?」


「にしし、正解」


「馬鹿か?俺を舐めるなよ。それと、そこは笑うところじゃない。もっと裸で泣きながら懇願してこないとキュンと来ないだろ」


「何言ってんの?そんなこと言われたらやるっきゃないじゃん。あ、でもどうしよう。まーくんが2人いる。どっちにするべきなんだろう?てか、さっきからこっちのまーくん全然喋んないじゃん」


 奏はそう言うが、指を指してくれないからどっちのまーくんか分からない。


「「「どっちのまーくんのこと?」」」


「こっちだよ!もしかして喋ってないって言う自覚がなかったの!?」


 そう言って真耶の方を指さす。そこまでされてやっと真耶の事だとわかった。


 いやはや、同じような人がその場にいたら分かりにくいものですな。なんてことを頭の中で考える。


「まぁ、真耶は基本的に無口だからな。アニメの話しないとあんまり喋んないよ」


「違うな。俺が無口なんじゃなくて、お前達が喋りすぎてるだけだ」


「いや、違うな。俺は言いたいことしか言ってない。喋りすぎなのは奏だ」


「要するに私が悪いから裸で土下座しろと?」


「「「そういうことだ」」」


「はいすみません」


 奏は流れるように服を脱ぎ土下座を決め込んだ。慣れてる手つきだ。


 それに、この2人も中々のお点前だと奏は思う。なんせ、流れるような会話で奏をこんなふうにさせたのだから。


「うぅ……なんで私ったらこんな変な2人を敵にしたんだろ……」


 奏は泣きながらそう呟いた。その言葉を聞いたケイオスと真耶は少しだけイラッとする。なんせ、2人とも自分が変だという自覚がないからだ。だから、変だと言われれば普通に怒る。


「「「俺は変じゃない」」」


 2人は揃ってそう言うと、揃った動きで奏のお尻を力いっぱい蹴った。それは、まるでお笑い芸人がやられるタイキックのようだ。


「いぎぃ!!!」


「「「おい、これで分かったか?俺は変じゃない」」」


 2人揃ってそう言う。ここまでシンクロしていたら双子かなにかと間違えてしまいそうだ。


「うぅぅ……そ、それよりさぁ、結局どうするの?このまま2人のどちらかが死ぬの?それとも、私に代わってもらうの?」


 奏は泣きながら、そしてお尻を押えながら聞いてくる。その質問は、本当に運命の選択でもあった。だが、答えは既に決まっている。それは、奏が目の前に現れた時から決まっている。


「……答えを言う前に一つだけ聞かせてくれ。どうやって2人分を受けるつもりだ?魂が1つしかなければ2つ分は無理だ。どうするつもりでいる?」


「……それはね、簡単な事だよ。私達神々は職業に分けられたりするんだけど、殺し屋とか戦闘職に分類される人は魂を2つ持つことがあるんだ。基本的に上位の神は魂を2つ持つよ。私って結構強いんだよ。てか、まーくんほんとうは知ってたでしょ?でないと、2つ分しか理を消さないなんておかしいもん」


 そんなことを言いながら少しだけ離れて涙を流し始めた。


「ねぇ、答えを聞かせてよ。どうするの?」


「……馬鹿なヤツだ。答えは初めから決まっている。なんのために俺が自滅したと思う?」


 ケイオスはそう言いながら奏に近づき、抱きしめる。


「っ!?」


 ケイオスは強く優しく抱きしめると、耳元で囁くように言った。


「お前が生きろ。俺が死ぬ」


 そう言って抱きしめる手を離した。そして、少しだけ離れる。すると、奏は驚いているような表情をしているのが見えた。


「……そんなに驚くなよ。じゃあ、そろそろ時間だよ」


 ケイオスがそう言うと、精神世界にまるで地獄の門のようなものが突如として現れた。それは、ケイオス達を吸い込もうとするかのように、引力を放っている。


「じゃあ行くか」


 そう言ってケイオスは歩き出した。しかし、突如奏が走り出す。


「「「っ!?」」」


「ダメだよまーくん!私が全て悪いんだ……れ私が責任を取らないと!」


 そう言って門の前に立つ。そして、奏はこれまでと同じように優しく楽しそうに、でも悲しそうに怖そうに笑って門の中へと走っていく。


 ケイオスと真耶は何とか止めようとしたが、奏が足元を固めてしまっていて動けなくなっている。


「奏!」


「まーくん!……いや、真耶!ケイオス!ごめんね!私がわがまましたからこんなことになっちゃって……。最後にわがままを言うね。次に私がこの世界を見る時は、神とか悪魔とか人間とかそんな差別をなくして、争いのない平和な世界がいい!」


「「「っ!?」」」


「……わがまま言ってごめんね。ずっと……ずっっっっっと、好きだったよ。ありがとね」


 奏は涙を流しながら笑ってそう言った。そして、奏は真耶とケイオスの目の前で門の中へと入り、消えて行ってしまった。


「無茶言うなよ……ま、やってやるけどさ」


 その言葉は、その場に小さく響き渡った。

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