53.王子は語り合う
「――以上で、第二王子スカイ・フォン・グレゼリオンの演説を終了とする。」
約十分に渡る演説は、そう締め括られて終わった。万雷の拍手が鳴り響き、それはスカイが退場をしている間も決して鳴り止む事はなかった。
スカイの演説は特別な内容ではなかった。国民の平和を願い、より良い国には何が必要かを叫び、そして国民に寄り添おうとした。
重要であったのは誰が言ったかである。この王選期間中、スカイは何十もの領地を回って話を聞いた。迫りくる魔物へと騎士を率いて立ち向かった。名も無き組織の幹部へと剣を向けて抗った。
そんなスカイが、誰でも言うような、誰でも願うことを言った事に意味があった。
「はぁ……緊張した。」
誰にも聞こえないぐらいの小さい声で、スカイはそう言った。
こうやって人前で話すことには慣れていたが、それでも一生に一回である王選の儀の演説ともなれば平常心で挑むことはできない。
力が抜けたのか少し背も曲がり、脱力した状態でスカイは城門へと辿り着く。
もう少し先に進めばサティアが待っているだろう控室がある。その前に、アースが立ち塞がっていた。
「全力は尽くせたか?」
アースのその一言で、スカイは進む足を止める。
「ああ、おかげさまでね。身が入ったよ。」
「なら良い。その熱意をしっかり心に留めておけ。昔からお前に足りないのはそれだ。」
王選とは、王を選ぶ為の儀式だ。決して王の座を争う儀式ではない。それを踏まえたとしても、アースはあまりにも友好的だった。
スカイはこの時になって初めて、王になりたいと思い始めていた。それはサティアとの会話や今回の一件も大きく影響しているが、何よりもアースの存在が大きい。
逆に考えれば、これはアース自身がスカイを育て上げたとも言える。
「……兄上は、どうして国王になりたいんだ?」
それをどうしてとは、直接聞くことはできなくて、捻り出すように出たのはそんな質問だった。
「俺様が王になりたい理由、ね。」
「いや、答えたくないなら別にいいんだけどさ。」
「構わねーよ。時間もまだあるしな。」
どこから話そうかと、アースは思考を巡らせる。
アースが王になりたい理由は、そう単純な理由ではない。いくつも理由があって、王になるという夢はその集積である。一つずつ話していけば時間が足りないし、取り分け大切なものは何かを判断する必要があった。
十秒経たないぐらいの時間で、結論が出たのかアースは口を開く。
「昔は、父上に憧れたからだ。俺もあんな風になりてーってそう思った。」
「……今は?」
「今はこの国が好きだからだ。だから絶対に守り抜くと決めた。お前が初日に言ったことと一緒で、俺様は他の人にこの大役を任せられねーんだ。」
何から守るのか、というのは言われずとも分かった。今の王国に打ち勝てて、尚且つ敵対する利がある組織など一つしかない。名も無き組織のことだ。
「カリティにニレア、組織の幹部は既に二人仕留めた。だが逆に言えばまだ五人残ってる。いずれ絶対にあいつらは王国を滅ぼしに来る。」
「それは流石に無理があるよ、兄上。今回みたいに国を揺らすことはできても、それ以上は絶対に何もできない。何よりオルグラーが王国にはいる。」
王国最強の騎士、『神域』とも謳われるオルグラー。スカイを含め多くの貴族達が組織を危惧していなかった最大の理由はそこにある。
オルグラーがいる限り、決して王都は落とせない。その存在はそれ程までに圧倒的だ。
「だが、オルグラーは一人しかいない。今回みたいに父上の護衛をしている間は俺達を守れねーし、連絡手段を奪われれば結局はいないのと一緒だ。」
どんなに強力な人物がいても、結局はたった一人だ。複数箇所を同時に攻撃されれば守れるのは一箇所だけ。それではいつか限界が訪れる。
「だけど――」
「長くなりそうだし話の続きはまた今度してやるよ。王選が終わった後、ゆっくりな。」
アースはそう言って唐突に会話を切り、城門前の広場へと向かった。流石にそれを引き止める事はできず、アースは演説へと向かった。
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