40.始まりの終わり
結果だけ言うなら、俺達は依頼を達成した。
生存欲のカリティは、死体がないので公的には消息不明であるが、もう二度とこの世界には帰って来れないと竜神様も明言してくれた。
オラキュリアは大怪我を負ったが、ティルーナの的確かつ迅速な治療で大事には至らなかったそうだ。
むしろ、「百年前だったら、こんな風にはならなかったんだがな。」なんて事を言ったのには少し引いたけど。
兎も角、みんな細かな傷があったりはしたが、誰も死ぬことなく終わった。
ジフェニルは皇帝暗殺の容疑で死刑が執行される予定だったが、シャヴディヴィーアの管轄の元、軍への剣術指南役を仰せつかった。
何があったかは知らないが、シロガネは差別をやめて、この国を竜と鬼の国にするために努力しているらしい。
きっと、大丈夫だろう。
そして、フランはというと。
「さらばだ、アルス。また、お前と肩を並べられるのを楽しみにしてるぞ。」
フランは竜の里をそう言って出ていった。
シャヴディヴィーアに転移させてもらう代わりに、皇国でジフェニルと一緒に剣術指南を行う契約をしていたらしい。
と言ってもジフェニルとは違って半年程度の約束らしく、逆に人に教えるのは学びがあると喜んでいた。
「私達も旅を続けますので、それでは。」
デメテルさんもそう言って、直ぐにティルーナを連れて出ていった。
あの二人は俺より遥かに忙しい。何せ回復魔法を受けられない貧困層を助ける為に旅をしているのだから、一分一秒もかけていられない。
呆気ない別れだったが、逆にティルーナは充実してそうで安心した。
それからおよそ、半日程待機した後の事である。
空から一人の男が舞い降りて来た。容姿は人そのものであるが、まとう雰囲気は人のそれではない。
「おおっと、もう結構いないじゃないか。しかもフランと入れ違ったか。それは運が悪い。」
そんなわけで、俺とヘルメス、ヒカリの3人でシャヴディヴィーアと話す事になった。
オラキュリアはまだ安静の必要があるらしく、その監視役でカラディラもそっちの方にいるからこの場にはいない。
王宮に出向いても良かったが、話す内容が内容である。竜の里で話したほうが都合も良かった。
「折角だから色々と話したいこともあったんだけどね。」
「僕らじゃ不服かい?」
「いいや、全然。ヒカリは勿論、アルスもヘルメスも美しく生きている。」
ヘルメスとシャヴディヴィーアは冗談を交えながらそう話す。
こっちも聞きたい事は山程あった。何故、あんな地位に落ち着いていたのかもそうだし、一体何が目的なのかも気になる。
今に思い返せば、ケラケルウスに協力はしていたけど具体的な内容はぼかされていたし。
「じゃあ、改めて自己紹介をしよう。今は亡きオルゼイ帝国が第三騎士団団長にして、
そして、実は個人的に一番気になるのは
俺の中の神に対して、何か有用な情報が手に入るのではないかと少し期待している。
「さて、どこから話そうか。私の生い立ちでも話そうかい?」
「……気になるけど、それは今はいいよ。取り急ぎ気になるのは、君の目的と、そして君が何でこの国に根を張っていたかだ。」
ヘルメスは自分の知的好奇心を抑えてそう言った。
そもそも人と神のハーフなんて、物語の中にしか登場しない空想のものだ。まだ異世界転生者だとか転移者のほうが歴史でもよく見る。
それの出生がどうだとかなんて、気にならないわけもないし俺も知りたいけど、今は大して有益な情報ではないのだ。
「ふむ……その反応から見るに、私以外の
言ってもいないのに、心の中を見透かされたように当てられた。
「いや、元々は筆頭が言い出した事でね。いずれ来る厄災に備えるのと、オルゼイ帝国復興の為に一度眠りにつくことを決めたんだ。だからその真意は私でさえも知らない。」
筆頭とは、恐らく『魔王』シンヤ・カンザキの事だろう。
破壊神を倒した七星の一人でもあり、異世界からの転移者という事でよく知られている傑物だ。
「だけど私は半分とはいえ、神だ。神っていうのは何かを司っていなくちゃ神じゃない。オルゼイ帝国の守護神をやっていたんだけど、滅びちゃったからそれも私にはできなくなってしまった。」
俺には神の道理が分からないが、そういうものなのか。
「それでこの国の守護神をすることにしたんだよ。だから君達には敵対することになってしまった。これからカリティと戦うのに神としての格を落とすわけにもいかなかったんだ。」
「……本当にそれだけかい。僕が言うのもなんだけど、君大分性格悪いだろ。」
「はっはっは! まあ、確かにちょっと悪役を楽しんではいたね。」
ヘルメスの追及に呆気なくシャヴディヴィーアは白状した。
どこか雰囲気がうちの師匠に似ている。最低限の道徳はあるけど、人を超越しているからこそ致命的に意地が悪い。
「初代皇帝に鬼と竜が交わる国を作るって言われたんだ。その果てを見る前に、皇族を潰せなかったというのが一番の理由だよ。」
シャヴディヴィーアは、正義の味方ではない。人と尺度が違う以上、人の正義感が分からないのだろう。
だから、美しいものを見るためだけに生きている。そんな気がした。
「そんなわけで、オルゼイ帝国が復興するまで、いや復興しても当分はこの国から離れられないって、他の奴らに会ったら伝えといてくれ。」
「それはいいけど……何かしら使命とかがあるんじゃないのか?」
「どんな面倒事も、筆頭一人いれば片付くさ。それにカリティと同等クラスが後六人もいるなら、私は役に立つかも分からない。相性もあるからね。」
俺の疑問にシャヴディヴィーアは無責任に答えた。
よく騎士団の団長なんてこの性格でできたな。いや、この性格だからだろうか。
俄然と、これを束ねて、その上に強かった筆頭さんがどれだけ化物なのか興味が出てきた。
「あ、そうだ。ディーには会ったか?」
シャヴディヴィーアはそう聞くが、聞き覚えのない名前で首を傾げる。
「会った事がないならいいや。もしディーに会っても私の居場所は教えないでくれよ。」
「何でだ?」
シャヴディヴィーアの口ぶりからして、ディーというのも仲間であるはずだ。
単純に話の意味が分からなくて疑問を飛ばす。
「あいつから借金をしたまま、踏み倒して今に至るんだ。多分、目が覚めたら私を真っ先に殺しにくる。」
こいつ本当に
「私の借金なんてどうでもいいんだ。返してもらえると思ってるディーが悪いから。そんなことより……」
「そんなことより?」
こいつ部下からも金を借りたりしてるんじゃないだろうか。何だか根拠はないけど当たってる気がするぞ。
「君達のおかげで、あのカリティを倒せた。そのことには本当にお礼を言いたい。」
急に改まった様子でシャヴディヴィーアはそう言った。
「……それは違うよ、シャヴディヴィーア。」
「違うって?」
俺の言葉に不思議そうにシャヴディヴィーアは聞き返した。
カリティに負けたあの時から、俺は必ず、この手でカリティを倒すと決めていた。
「俺が助けてもらった。おかげで、俺はカリティを倒せた。本当にありがとう。」
「――」
長い歳月を経て、気が狂うような鍛錬の果てにやっと、俺はあの名も無き組織を打倒するに至れた。
俺はやっと、自分の夢を果たせた。守りたいものが守れたのだ。
「……君の終着点は遠いんだね。その熱意は、私には決して得られないものだ。」
俺を通して、遠くを見るようにシャヴディヴィーアは呟く。
「それなら、せめて祝福を。ホルト皇国を救った英雄として、皇国の守護神からね。」
シャヴディヴィーアは微かに浮き、キラキラと星のように光り始める。
その姿は微かに感じていた人としての側面が消え去り、正に神そのものとして変容していく。
「えい。」
「え?」
何か投げるような仕草で光の球をシャヴディヴィーアは飛ばした。
後光は消え、威厳もなくなっていく。やっぱり神とか人とか関係なく、単純にこいつは性格が曲がっている。
「私ができる労いはこの程度だ。ちょっとした毒物なら跳ね返せる加護だよ。」
ありがたいが、本当にこれで加護がついたのか、と疑問がある。
「あ、そうだ。私は異界の神の力とか管轄外だから、竜神に聞いてくれよ。」
疑問を挟み込むより早くに、シャヴディヴィーアは飛び去っていった。
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