32.一つの結末
光の刃を握り、グラデリメロスが肉薄する。2メートルに迫ろうその巨軀から放たれる一撃は、確かに相手の、ディオの体を捉える。
「ハッ! 相変わらず手早いもんだなァ!」
しかしそれだけではない。四方八方から、光の刃が構築され、一斉にディオへと射出される。回避は不可能。迎撃できるような、やわな攻撃ではない。
やわではない、はずだった。
「燃え上がれ。」
憤怒の炎を背負ったディオの剣は、一振りにてその全ての光の剣を薙ぎ払う。そして、グラデリメロスと真正面から打ち合った。
「その汚い顔を近付けるな、大罪人が。」
だが、グラデリメロスも甘くはない。ノータイムで懐から拳銃を取り出し、ディオに発砲する。
銃弾によって体勢を崩したディオへと、続けて何発も銃弾を放つ。そして打ち切ったのを確認して、そこらに捨てた。
そして再び、光の刃がディオの上空に形成され、ディオを一斉に貫いた。
「中々効いたぜ。中々、な。」
「チッ……化け物め。」
顔に銃弾を打ち込まれ、身体中に光の剣が刺さっていてもディオは立っていた。
そしてその傷も、傷口から炎が溢れ、徐々に癒えている。異常な耐久性と回復力、そして破壊力。その全てを併せ持つが故に、ディオは何の鍛錬もなく最強へと至ったのだ。
「ただでさえ人間とは出力が違う巨人族の中でも、突然変異と言われた俺に傷をつけるんだ。やっぱりお前は強い。」
ディオの体は憤怒の炎にて燃え上がる。
対して、光の刃をグラデリメロスは両手に構えた。
「――だからこそ、殺し甲斐がある!」
ディオは大雑把に、明らかに無駄なレベルまで振りかぶり、そして手に持つ剣を振るった。だが、その剣がグラデリメロスに届く直前に、その剣は停止する。
見えない壁、結界が剣を阻んだのだ。グラデリメロスがその隙に両手の剣でディオを斬るが、それを無視してディオは剣に体重を乗せる。
そして力任せに、結界を破壊しながらグラデリメロスの巨体を後ろへと吹き飛ばした。
「『神罰執行』」
吹き飛ばされながらも、グラデリメロスは光の球を形成してそれを放った。光の球はディオに近付くにつれ、速度を増し、鋭く走った。
グラデリメロスは転がりながらも着地し、光の剣を手に走った。ディオも迎撃しようと剣を握る手に力を入れる。
まだ戦いの途中であり、それでいて決定打にかける千日手の状態。放っておけば、永遠に続くだろう戦いは――
「そこまでだ。」
――第三者の存在によって終わりを迎える。
そこに、それはいた。まるで最初からいたかのように、何の気配もなく、音もなく、その男は二人の間に立っていた。
髪は英雄の髪とも呼ばれる黒で、その右手には自分の背丈を超える槍を、左手には
間に立つという事は、光の球の射線上に出るという事だ。
当然その身に降りかかる光の球を、槍を二度振って、全て叩き落とした。
「邪魔するんじゃねえよ、チビが!」
襲いかかるディオを左手の銃で、頭、足、腕と正確に三連射する。
ディオはそれを構わず、動きを止めずに斬りかかろうとするが、剣は手から零れ落ち、足は地面を踏み切れず落ち、頭すらも上に残す事はできずに落ちた。
「あーあ、反射的に撃っちまったじゃねえか。人の事を小さいだとか、気にしてる事を言うからそんな事になるんだ。」
ディオの傷口からは火が出て再生しようとするが、上手くいかないのかディオは簡単に立ち上がれない。
その内に遅れて白い竜が雲を切って降り立つ。
グラデリメロスはそれを見て、光の剣を消した。その人物に覚えがあったからだ。
「……一応、名乗るぜ。一応王国を束ねる騎士として、名乗らないわけにはいかねえ。」
最強の称号に、最も相応しい男。歴代随一の粗暴さにして、随一の戦闘能力を持つ男。いや、正確には男と女だ。
その称号は、人の男と、竜の女に与えられた称号であるが故に。
「グレゼリオン王国竜騎士団団長兼、総騎士団長。俺達が、『神域』のオルグラーだ。」
白き竜はそれに同調するように軽く嘶いた。
「……なるほど、そういう事か。」
「テメェだけで勝手に納得してんじゃねえ、グラデリメロス! まだ戦いは終わってねえだろうが!」
「まだ戦う気なのか、オイお前。俺達がわざわざ止めに来たんだから終わりなんだよ、お前。今度は息の根を止めてやろうか、お前。」
男は銃口をディオへ向ける。ディオはイラついたように舌打ちしながらも、やっと立ち上がった。その目は憤怒に染まっていた。
「遠征の帰り道に寄りかかってみればよ、王城の上半分が消し飛んでんだからよ、急いで来てやったんだろうが。だからグラデリメロス、お前は帰れ。」
「……分かりました。教会としてもグレゼリオン王国と荒波をつけるつもりはない。ここは引き下がらせてもらいましょう。」
「まさか帰るつもりか、グラデリメロス! ふざけんなよ! こんな不完全燃焼で終われるか!」
ディオは憤怒を炎へと変え、地を蹴り駆ける。しかしグラデリメロスの下に辿り着くには、間にいるオルグラーを抜けて行く必要がある。
そしてそれを許すほど、王国の最強の矛は甘くない。
「うるせえよ。」
銃を再び、男は発砲した。再びディオの眉間へと直進するが、流石に二回目となればディオも対策はする。
炎を滾らせ、放たれた銃弾へと剣を向けた。
「俺達が終わりって言ったら、終わりなんだよ。」
斬られたその瞬間に、その銃弾は大きく爆発し、ディオの巨体を吹き飛ばす。
それはまるで、重力から解き放たれたかのように、どこまでも、どこまでもディオは吹き飛んでいく。
「な、んだ、これは!」
痛みはなかった。傷もなかった。だが、有り得ないほどの衝撃だけが、ディオを地平線の彼方まで吹き飛ばしたのだ。
王城に残るのはつまり、一人と一匹のオルグラーと、教会の神父のみ。
「何故、殺さなかったので?」
「追い払うなら兎も角、殺すのはめんどくさいだろうが。確かに俺達なら勝てるだろうが、あいつはオリュンポスに所属してるだろ。それぐらい分かれよ、お前。」
そう言いながら、オルグラーは城門のある方、平民が集まる方に行き、上から見た。
その後ろから、白き竜は平民を覗く。
その殆どが竜に怯えていた。人とは違う、超常の理にいる者。息吹一つで人を薙ぎ払える厄災の化身であり、それに怯えるのは無理もなかった。
「俺達の名はオルグラー! この一連の出来事、グレゼリオン王国に預からせてもらう! 公平な判断を約束しよう!」
怯えはその言葉を聞いた瞬間、少しずつ喜びに変わっていく。
グレゼリオン王国が、革命に協力してくれたと、そう思ったからだ。無論、王家への援軍と考える者もいたが、勢い付いていた彼らの中で、そう考える方が少数だった。
何より『神域』のオルグラーは、民の味方であると言われていたが故に。
「対話の席を作れ! 会議を始める!」
この後の国民代表と、王国代表の宰相の会議にて、王権の終了が決定した。
リクラブリア王国国王代理であったストルトス・フォン・リクラブリアには終身刑が執行され、牢獄の中へ幽閉されたが、その孫娘であるエイリア・フォン・リクラブリアの姿は見当たらなかった。
見張りの騎士は全員、黒い服の男が連れ去ったと言うばかりで、どこに言ったかまでは、終ぞ分からなかった。
その後、反発した貴族を抑え込む為に、グレゼリオン王国を背に宰相が大立ち回りをしたのだが、それはまた別の話である。
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