第四章〜狂いし令嬢と動き始める歯車〜

1.魔法を習う

 山の頂上付近にある平地、そこに建てられた木造家屋。そこそこの大きさはあるが、大した大きさはなく、そこそこの大きさ。

 俺はそこに連れられて来た。


「これから僕の事は師匠と呼ぶといい!」

「色々と過程を吹っ飛ばし過ぎじゃないか!?」


 ここに来るまでに色々と話しながらきたけど、未だに人間性を掴めない。

 恐らくだが、頭のネジが一つ二つぐらい外れてるのだと思う。


「よく考えてもみなよ、魔法使いとは変人とよく言われるだろう? その頂点に立つ僕が、変人でなくてどうする。」

「そんな自信満々に言うことかよ……」


 認め難いが、賢神十冠で賢神序列第一席。文字通り魔導の頂点に君臨するのがこの師匠だ。

 こんなのが頂点って、魔導業界腐ってんじゃないの?


「というか、君は僕に対する敬意が足りてないね。七星の幻の八人目だぜ? 神と戦った正真正銘の英雄、生ける伝説そのものだよ。ほらほら、崇め奉れ。」

「そもそも、その言葉だってまだ信じてないからな!」


 正直言って、俺は今でも師匠が言うことは半信半疑だ。

 普通に生きてて『実は俺は数百年前にこれを発明した人なんだ!』と、言われても信用できないはず。

 だがしかし、ここは異世界。地球の常識とここの常識は大きく異なるし、何より実際に俺の曽祖母はその時代を生きていたという。

 ならば、その時代に生きていた人間がもう一人いても、まあ、納得できなくはない。


「いきなり七星の隠された八人目だとか、『英雄王』ジン・アルカッセルの双子の兄弟だとか言われて、ああそうですかって納得できるわけねえだろうが。」

「だけど君は信じてくれている。」

「……まあ、嘘っぽ過ぎて逆に本当な気がしてきたからな。」

「いやあ、純粋な弟子ができて僕は嬉しいよ。そんな君には師匠ポイントを1、贈呈しておこう。」


 またよく分からないシステムが出てきたぞ。まだこれは理解できる部類だけど。


「それが貯まるとどうなるんだ?」

「後でポイント表を渡すよ。」

「一応なんかくれるんだ……」


 だけど何故だろう。積極的に貯める気が湧いてこない。

 そんな事のために人生を浪費するのはどうも無駄に思えてならないのだが、俺はおかしいのだろうか。

 いや、おかしくない。おかしいのはこいつだ。


「さて、アルス君。君は強くなりたいんだね?」

「まあ、うん。」

「ならどういう風に強くなりたい?魔法使いとして強くなりたいのか、単純に強くなりたいのか。」


 その二つって何か違うのだろうか。

 俺が魔法以外を使って強くなるなんて、あんまり現実的ではないと思うけど。


「俺は、そこら辺に大した拘りはないよ。別にこんな風に強くなりたいってわけじゃないんだ。ああ、いや、だけど一応一つ挙げるなら……」


 俺の思い描く魔法使いとは、学内大会からその思いは一つに定まった。


「カッコいい魔法使いにしてくれ。」

「いいねぇ! 僕もカッコいいのは大好きだ。」


 華々しく大魔法を行使して、それで正々堂々とエルディナに勝つ。

 物語の主人公みたいな王道のやり方で、カッコよく勝てたらそれ以上に嬉しい事があるか?

 少なくとも、男っていうのは全員そうだと思ってるけどよ。


「剣士なら兎も角、魔法使いならそれは才能だぜ。魔法使いは想像の中に生きるものだ。」


 そう言って師匠は笑う。


「常識の埒外に僕らはいなくてはならない。特に君の魔法はそうだ。」

「俺の、魔法が?」

「ああ、そうだ。君はまだ常識に囚われ過ぎている。よく聞け、アルス君。君の魔法は世界で一番自由な魔法だ。」


 俺の魔法が、世界で一番自由。

 俺は今まで自分の変身魔法を不便な魔法だと考えていたが、それは俺の考え方が悪かったのか。


「君だけにしかできない事って、なんだと思う?」

「俺にだけしかできない事? ……あれか、煉獄剣とか。」

「はい、違う。君の体を魔法にして高出力の剣を作り出すってやつでしょ。あんなん別に特別でも何でもない。」


 うぐ、結構自信あったんだけどな。

 アレは俺の体を溶かし込んで、ありったけの魔力を注いでできる変幻自在の武器だ。変身魔法を使えなきゃ持てないし、扱うのは俺にしかできないはずだ。


「それにあれって魔力のゴリ押しじゃないか。持ちさえしなければ僕でも同じような事はできる。」


 そう言って師匠は空中に炎の剣を作り出す。そして、そのまま軽く回転しながら部屋の中を回り始めた。


「武器とかは握るんじゃなくて、こうやって飛び回させるのが普通だよ。まあ、一部の例外は除くけど。」

「例外って?」

「そういう魔法に特化した奴だよ。ああ、そうだね。君の父親がそういう魔法が得意だった。」


 俺の親父が、か?

 という事は、俺は偶然にも父親と同じような魔法をやってたわけだ。転生者なんだが、そういう所を遺伝しているんだろうか。

 そう考えると、少し嬉しいな。お母さんの息子だと、俺は胸を張って言えるわけだから。


「四方八方から武器を飛ばしまくって、自分の手にも武器を持って相手を追い詰める。あれぐらいの域に達したら武器を手に取って戦うのも強い。」

「じゃあ、俺はダメなのか?」

「まあ、駄目ってわけじゃないさ。ただ、もっと向いてる戦い方があるって話。」


 じゃあそうなると、俺にしかできない魔法って……アレだけしか覚えはないが。

 あんまり強くない気がするんだよなあ。移動以外で使える気がしないし。


「もしかして、雷化とかそういうものか?」

「ザッツライト! その通りさ! それは君にしかできないだろう?」


 いや、だけど強いかあ?

 結局は俺の体を魔法にできるってだけで、その出力は一才変わらない。

 相手に攻撃されにくくなるという利点はあるが、広範囲攻撃を喰らえば意味がないし、何より変身魔法もいくつか条件がある。


「君の変身魔法。その真髄は体を魔法に変えれる事だ。例えば、光属性魔法は極まれば光の速度の魔法の行使ができるようになる。」


 魔法というのは練度を上げればスピードが増す。

 魔法によってそのスピードの伸ばしやすさみたいのがあって、光魔法とか雷魔法は元々かなりの速さだ。

 しかし決してそれらが雷速、光速の魔法というわけではなくただ速いだけ。

 極めればその域にも辿り着けなくはないが、少なくとも俺はまだその域にいない。だから俺は光の速度での移動を可能としないわけだ。


「光の速度の魔法が使えるという事実に加えて、君はもう一つの価値が生まれる。それは君が光の速度で動いて戦える、って事だ。」

「だけど、俺がそれを認識できなきゃ無用の長物だろ。俺はそんな化け物じみた目はしてない。」

「ふむ、確かにそうだ。なら、優れた魔法使い達はどうやって戦ってると思う?」


 そう言われて俺は少し言い淀む。

 確かにそうだ。光速の魔法をも行使できる最強の魔法使い達は、どうやって魔法を認識しているんだろう。

 もしも最強の魔法使い達が相手の使う魔法を認識する事さえできてすらいないのなら、魔法使いの戦いは先手必勝となってしまうはずだ。


「更に加えて質問しようか。君のその変身魔法は魂と魔力の結合が強いという特殊体質の賜物であり、完全に君だけのものではない。」

「え?」

「いわゆる魔力生命体と呼ばれる、悪魔、天使、精霊の三種属であれば変身魔法は使える。だが、この三種属でそれをメインに使う奴はいない。何故だと思う?」 


 賢神達がどうやって人間の認識外にある魔法を認知しているか。

 なぜ魔力生命体と呼ばれる種族達は変身魔法を使わないか。

 その違いにこそ、俺の強みが存在する?


「最後の質問だ。武術家も魔法を認識できないのならば、この世の強者は魔法使いだけのはずだ。何故そうなっていない?」


 賢神達、正確には人類には感覚を強化する術が存在するのか。

 魔力生命体は、それを肉体がないからこそ使えない。

 そして、武術家は魔力が少なくともどう考えても人間の限界を超えた速度で反応する事がある。


「……魔力以外に、何か力があるのか?」

「正解、師匠ポイントを追加でもう一つあげよう。」

「いらねえよ……」


 というかよく考えてみればそうだ。

 フランは魔力もないのに、明らかに物理法則から外れた一撃を繰り出していた。

 ならばそこにはそれ以外の超常の力があると考えて当然。


「肉体を持つ全ての種族が使える生命の源、その名を『闘気』。調べれば出てくるけど、認知度は低いから知らなくても仕方がない。」


 という事は、その闘気によって知覚能力をあげたり身体能力もあげれるって事か。

 なんだよそんなもんがあるなら学園とかでもさっさと教えてくれたらいいのに。


「平均習得期間は約三年。」

「へ?」

「この闘気があれば、君は高速戦闘を可能とできる。」


 どうやら、この世の中はそんなに甘くできていないらしい。

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