14.とある王子の始まり

「アースが捕まった!?」


 俺は早朝だというのに思わず大声を出してしまった。いや、大声を出さずにいられるだろうか。

 お嬢様から、あのアースが捕まって、今は軟禁状態にあるなんて言われたのだ。

 あの話からまだ一日しか経っていない。

 一体何があったらアースが、しかも王族が捕まるなんて事になるのだ。


「……すいません、それは本当なのですか?」

「ええ、事実よ。この領地を統治しているファルクラム公爵から直接聞いたわ。」


 ティルーナ様が念のために確認を取るが、それもキッパリ、残酷な形で返された。

 ここにいるのはグループを組んだ4人。お嬢様、ティルーナ様、ガレウ、俺だ。

 早朝の食堂に集められた俺たちはアースがどうなったかの説明を受けていた。


「ティルーナが動揺するのも無理はないわ。王族が捕まるなんて普通じゃない。王族が捕まる時は特別な事情か、それ程の重罪でなくてはならない。」

「……一体、どんな罪で?」


 俺は喉から漏れ出るようにそう聞いた。

 不安と疑問、その他にも色々な思いがつまった声で。


「弟、つまりは第二王子の殺人未遂よ。」

「ありえない!」


 その言葉をほとんど反射的に拒絶した。


「だって、あいつは、そんな……!」


 言葉が喉まで出かかって引っ込む。アースは確かにねじ曲がっていた。

 しかし、それは自嘲が混ざったもので、決して弟を恨んでいるようには見えなかった。

 何よりアースは自分で『最も次の王に近く、最も王から遠い男だ。』と、言っていた。そんなセリフ王位が欲しい奴が言うことかよ。


「結局、一週間しか付き合いのない貴方じゃそれは分からないでしょう?」

「じゃあアースが犯人だと思うんですか!?」

「そうは言っていないわ。だけど信用なんてもの、法の下において最も意味がないでしょう。少し落ち着きなさい。」


 俺は頭を掻きむしる。

 確かに短い期間かもしれないが、俺はあいつを信用している。信用に足る性格だと思っている。


「殿下は罪を認めているわ。」

「罪を、認めてる?」

「ええ、自分がやったって言っていたの。だから私も干渉ができないわ。詳細な調査ができないのはそれが理由ね。」


 余計意味が分からない。あいつは何を言っているんだ。

 俺は歩き始める。取り敢えず今いる食堂の外に。

 一番最初にガレウが不思議そうな顔で俺に聞く。


「どこに行くの、アルス。」

「行ってきます。会えば分かるでしょう。」


 真実を知っているのはあいつだけだ。俺はそれを確かめなくてはならない。

 しかし当然ながら、お嬢様から静止の声が飛ぶ。


「止めなさい。あなたが行ったってどうせ会う事すらできないわ。」

「その時はその時です。」


 足音が俺の背後から響く。

 魔力で分かる、ティルーナ様だろう。


「確かめるんです。」


 俺は一切動じず、見ることすらせずに木族性の魔法で地面に押さえつける。


「別に何もしませんよ。話をしてくるだけです。明日までには帰るので授業にも影響はありません。」


 体を光に変える。最速の魔法だ。

 道理が通らないことは、絶対に許容しない。よく分からないことが多いし、俺の行動が正しいかもわからない。

 だが、取り敢えず話をしてみなきゃ始まらない。






 アルスが去った後、フィルラーナは大きく溜息を吐く。そして木に潰されるティルーナの近くに寄り、木に触った。

 すると触った所を中心として一気に木は燃え尽きた。


「大丈夫、ティルーナ。」

「……すいません、フィルラーナ様。」

「いいのよ。アレは異常なまでに魔法が強いから。」


 ティルーナにフィルラーナは手を貸して立ち上がらせる。それを見てガレウも2人の所に集まる。


「行かせて良かったの?」

「あまり行かせたくはなかったのだけれど、まあいいわ。元よりそのような貴族は膿になりかねない。アルスが動くというのなら、大なり小なり事態は動く。全体的に見ればプラスでしょうね。」


 ただ、とフィルラーナは付け加える。


「アルスという優秀な駒を失う可能性があるのは、痛手だけれども。」


 それは暗に、この事態で問題を起こせばフィルラーナが庇いきれない可能性があるという言葉だった。

 ガレウは不安げにアルスが去った方を見て、向き直る。


「2人とも、ついてきなさい。私の騎士の行動であるなら、私が所有者として面倒をみてやらなくちゃね。根回しをしておくわよ。」


 フィルラーナはどこか気怠げに動き始めた。

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