第2話 銀色狼風神一色
いつもやっていることだけれど、今日も今日とて僕は風香くんの観察を始める。
喧嘩大好きな風香くん、あらゆることを暴力で済ませる。
解決ではなく、済ませる。
コミュニケーションを言葉ではなく拳、挨拶を拳、用事があれば拳――風香くんにとっての暴力は一般人にとっての動作言動であり、2か月経過しているのもあり、僕たちの学年ではそれなりに適応され始めているようだった。
「……」
風香くんが大きく伸びをした後、鞄から1冊のノートを取り出した。
この間出た課題だろうか? 確か授業の係の人に提出だったか、僕も早く終わらせなきゃ。
風香くんがそのノートを手に、1人の生徒に近づいていく。
係の子の周りの人たちは風香くんに気が付いたのか、青い顔をして係の子から離れていく。
「おいおいどうしたんだよ」
「……お前、この間英語で課題でたよな」
「え? あっ――」
係の子がものすごい勢いで振り向いた時、すでに風香くんは口角を吊り上げて犬歯を見せて嗤っていた。
「あば、あばばばば……ち、畜生! やったらぁ――」
「おらぁっ!」
「ぐぇっ!」
丸めたノートによる一閃、スパーン! っと小気味の良い音を鳴らし、係の子の頭部がはたかれ、彼の頭が机に叩きつけられた。
「ぐぉぉぉぉっ!」
椅子から転がり落ちた係の人がそのまま頭を押さえながら、ゴロゴロと転がり回り、あちこちの机と椅子を吹き飛ばしていた。
そんな彼が動きを止め、よろよろと立ち上がると風香くんに手を差し出す。
きっとノートを受け取ろうとしているのだろう。
しかし風香くんは続行の合図と受け取ったのか、手を大きく広げ、ラグビーのスクラムを組むように、肩から係の子に突っ込んでいった。
「ぐっは!」
係の子が宙に浮かび、扉を破って廊下に飛び出して行った。
「ま、待て神波見、俺はノートを――」
「うがぁぁぁあ!」
「このバーサーカーめ!」
廊下に飛び出した風香くんが係の子の腕をひき、そのまま駆け出して行ってしまった。
僕はこのクラスに来て2週間だけれど、まあまあの頻度でこの光景を見ている。
授業を担当している係の人たちは風香くんに慣れたのか、もう諦めたような、そんな複雑な顔で苦笑いを浮かべており、口々にしょうがねぇなと話していた。
けれど一部の生徒、僕の陰口をたたいているグループを含めた数人が良い顔をしておらず、風香くんが去っていった方角を睨みつけていた。
荒れそうだな。
風香くんなら大丈夫だろうけれど、クラスに差した黒い陰に、僕はどうにも嫌な予感を覚えずにはいられないのでした。
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