第二話
「……ねえ、けんちゃん」
「……………」
「あれ、なんじゃ思う?」
「……あれって?」
ユミ子が見たものが気になり、ケンジはユミ子を振り返る。彼女が指していたのは、空の方。よく見なくても分かる、飛行機が飛んでいる。
「警報鳴っとらんし、日本軍の飛行機かのぉ」
「ちがうってけんちゃん。飛行機じゃのぉて、あれじゃ」
ケンジは目を細める。確かに、見慣れないナニかが浮いている。
「ほんま。なんじゃありゃ…」
「……ねえ、
なんか、落ちてきとらん?
なんでこんな急に、目の前が真っ白に?
光ったんじゃ、今。
ピカって。
今、わしの体どうなっとるんじゃ。
なんも、見えん……………。
あれ?なんだか………
痛い
「っ!!!!!!」
突然体に走った強い痛みで、ケンジは目を覚ました。
「………………あ、あぁ…?」
目を覚ました先にある景色は、ケンジを混乱させるには十分すぎる光景だった。
「なに……………な、に………なん……なん、じゃ……これ……………………」
赤、黒、茶色………まるで青や緑を忘れたかのような世界が目の前を支配する。理解が追いつかないケンジは、誰かに訊ねようと立とうとする。
「ぐっ…………!?」
あり得ないほどに、経験もしたことのないほどに衝撃的な痛みがケンジを襲う。
(なんじゃこれ…!!動けん……!!!)
ケンジは恐る恐る自分の身体を見た。それは、小学生にはあまりにも残酷すぎるものだった。
ケンジの脚や腕には、ガラスや石の破片が大量に刺さっていた。左手の指先は溶けていたし、両腕はひどくただれていた。
(なん………で、こんなんなっとるん?)
ケンジは震えながらも、自分の脚や腕に刺さった破片を右手で抜いていく。抜いたところからは、黒くなった血がドロドロと流れ出した。
「はぁ………はぁ…………………水……水で
寄りかかっていたボロボロのフェンスに捕まりながら、なんとか立つことができた。ケンジの耳には、川の流れる音が聞こえていた。ふらつきながら、音の聞こえる方に歩く。
「……な、なん、じゃ、これ、」
ケンジの目に映ったのは、川に飛び込んでいく大勢の人。人かもわからないほどに黒くなっていたり、皮膚が垂れ下がっている人も多くいた。
その時、軍人のような人たちが近くを通りかかった。
「被爆者に水を与えるなよ。余計に死ぬ可能性が高まる」
「何故ですか?」
「この人達は喉やら肺やら焼けてしまっているんだ。だから水なんか与えたら窒息して死ぬ」
ケンジにはその話し声が衝撃的すぎて、もうどうしたらいいのか何も分からなかった。ケンジがただただ無気力に立ち尽くしていると、聞き覚えのある声が足元から聞こえた。
「……たす………けて」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます