再恋(サイレン)

ねこみゅ

第一話

___何かが壊れる予感はしていた。昔から、こういう予感は全部当たってきたから。


「………けん……ちゃん……」


___でもやめてくれ。これ以上は……。


「……ずっと…言えんかったけど…………」


___信じたくない。最期なんて………。


………。

……。

…。



「遅いわ!!!なんしよったんじゃ!!」

「そ、そんな怒らんでもええじゃろ!」

「わしが来てからもう10分くらい経っとる!!ずっと待っとったんで!?この暑い中!」

「アンタが来るの早すぎなんじゃ!学校は30分から始まるんじゃけぇまだ大丈夫じゃろ!」

 彼らの1日は言い争いから始まる。小学生らしい元気な2人の声が、青い空の下に響く。

「もうっ…ごめんね、けんちゃん。おねぇの体調がわるぅて、家の手伝いせにゃいけんかったしなきゃいけなかったんよ」

 ユミ子が悲しそうにケンジを見る。ケンジはどこか申し訳なくなり、そっぽを向いて歩き出した。

「…なら、まあ、ええわ。はよ行くで」

「ふふっ、けんちゃんやっさしい〜」

「ふん、何言うとるんじゃ。許したわけじゃないけぇの!!!」

 ケンジは自分の顔が熱くなっていることに気付いて、ユミ子にバレないようにと早足になる。

「ま、待ちぃやけんちゃん!速いって〜!!」

 午前8時5分。2人はいつも通り一緒に学校へ向かった。


 ケンジは朝から謎の胸騒ぎを覚えていた。呼吸が落ち着かないことをユミ子に悟られないよう、ユミ子から少し離れて歩いた。

「ねえけんちゃん速いって!なんか今日変よ?」

 しかし、すぐにいつもと違うことに気付かれてしまった。幼い頃からずっと一緒にいる2人にとっては、お互いの変化などすぐに分かることだった。

「いや……なんでもない」

「ほんまに大丈夫?なんかしんどそうよ?」

 ユミ子はケンジの体調が気になるようだった。熱を測ろうと、ユミ子は自身の冷たい手をケンジの熱くなった首元にピタッと当てた。

「ひっ!?」

「なんかちぃと熱くなっとるで?無理しんさんなよ?」

「よっ、余計なお世話じゃ!!!!!」

 ケンジの体温は更に高くなる。そそくさと足早に学校に向かうケンジを、ユミ子は走って追いかけるしかなかった。

 午前8時10分。2人のスキマはいつもより広かった。


「ねえけんちゃん。けんちゃんってさ、懐中時計好きじゃったよね」

「……………」

「ねえ、答えて」

「………まあ、好き、じゃけど」

「ふふ、それならよかった」

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