第三話 先輩


 ま、まさか3年生…先輩だったとは。流石にお前呼びは失礼だったか? 


「お前呼びしてすみません、まさか上級生だったとは…」


 そう言うと瑠奈はニコッと俺に微笑みかける。その唇は日光に照らされたピアスでキラキラと輝いていた。


「んーん大丈夫、かわいかったから」


 かわいかった??……あ、そういえばゲップしたの見られてたんだった。その後にクールぶっても確かに空回りしてるよな。恥ずかしいにも程がある。


 俺が恥ずかしくて少し気まずそうにしていると彼女はポケットからゴソゴソと何かを取り出した。よく見てみるとそれは煙草とライターだった。


「ちょっ、何やってるんですか!?」


 慌てふためく俺を横目に彼女は口に咥えた煙草に火をつけ煙を吹かす。


「なにって落ち着きに来たんだよ。君もそうでしょ?」


 彼女の鼻から漏れた濃く白い煙は、春泥棒に乗って空へと舞っていく。 


 いくら先輩でもこんな事、しかも学校でするなんて注意するべきだと頭では理解している。でもタバコを吸う彼女の絵はあまりにも完成されていて、意識ごと引き込まれてしまう。


「とりあえず隣座りな?」


 確かに少し足も痺れかけてきた。少し緊張するけど…隣、いざ参る。


 俺は彼女の隣に体育座りで座った。



 少しの沈黙が続く。タバコの苦い匂いと彼女からする甘い匂いで頭がクラクラする。



「普段からここにいるんですか?」


 沈黙をかき消すべく、とりあえず質問をした。


「うん。比較的よくいるかも。君は?」

「今日初めて来ました。いい場所ですね」

「だよね」


 ………ちーん…


 くっ、前世クソ陰キャ童貞の俺にこんな美少女と会話を続けることのできるスキルなんて備わってねぇぞ…?


 しかし沈黙の間も彼女は余裕の表情というか沈黙なんて気にもしてないような素振りが見られる。くそっ、こちらも負けじとクールオーラ全開で行くしかない。

 そう考え込んでいる瞬間だった。


「俊くんってさぁ」


 ビクッ!


 な、なに!?俺が目を離した隙に、俺の耳元へと忍び寄ってきやがっただと?まずい、肌に直接彼女の吐息が……。


 俺は今にも夜泣きしそうなムスコを必死に寝かしつける。


「な、なんですか」


 平然を装い聞き返す。そんな俺を見て彼女はどこか顔を赤らめる。


「もしかしてドM?」


 ……………??


 唐突すぎるその質問を脳みそはうまく処理できない。しかし俺のムスコはその質問の意図を汲み取り、取るべき行動をとり始める。


 俺の貞操が危ない。


「否定しないってことはそういうことだよね?さっきからビクビクして…なに1人で気持ちよくなってんの?」


 彼女が俺の肩に手を回す。


「どうしてやろうかなこいつ♡」


 頭の中の貞操危険感知レーダーが過去最大級のサイレンを鳴らしている。これはやばい…!


「うぉぉぉぉぉおぉぉぉぉおおお!」


 俺は力を振り絞り彼女の手を振り払って、前屈みながらも全速力で出口へと走った。完全に「おはよう!」状態となったムスコを見られる事だけは避けなければならなかったからだ。


「逃げちゃったか。あーあかわいいなぁほんと。いじったい」


 俺が振り返りざまに見た彼女は不純な、そして優艶な笑みを浮かべていた。

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