秋の終わり
第39話 深秋祭準備 (1)〜焼ける秋刀魚の魅力な香り〜
僕の通う大学には
その名の通り、11月中旬に開催されるその祭りは1年の中でもっとも規模の大きいイベントだ。各学部、各学科、所属するサークルがいくつもの催しを行う。芸人やアイドルを招いてステージをしてもらったりとかなり気合が入っている。
今は10月中旬。頭の傷も塞がり、運転免許も取得したころ。僕も民俗学科の他学生と一緒に出し物の準備に追われていた……。
「そういうことだからバイトがなくても遅い日があると思うからよろしくね」
「そうか。そんなことより秋刀魚くれ」
家の留守を改めて頼んできた草太に俺はつれない返事をした。その理由はただ1つ。草太が晩のおかずとして焼いている秋刀魚だ。
コンロの中からじゅうじゅうと音がなるたびにキッチンの中に食欲を誘う匂いが漂う。俺は思わず舌なめずりをする。
俺は昔から魚が好きだ。その中で秋刀魚が1番好きだった。人間が秋刀魚を食べ始めたのが江戸時代の真ん中あたり。そのあたりから俺も秋刀魚を食べ始めたのだが……一口食べてその虜になった。口の中に広がる重厚な油。その細身の体に詰めこめられたしっかりとした味わい。なぜ俺は今までこれに気づかなかったのだろうと激しく悔やんだ。それ以来俺は秋になると秋刀魚を食べるのだ。
「相変わらずすごい食欲……! まあただ焼くのも芸がないからもう一工夫するよ」
「なんだと……?」
コンロからよく焼けた秋刀魚を取り出した草太の足元で俺は口を半開きにする。これ以上なにをするっていうんだ。十分うまいだろ? 頭に疑問符を浮かべる俺の目の前で草太は皿に移した秋刀魚の身を箸でほぐし始める。なにをする気だ……。そう思っていると草太は炊飯器の蓋を開け、そこに秋刀魚を投入した!
「炊き込みご飯……!」
俺は草太の意図を完璧に理解した。確かにそれならより秋刀魚の旨味が引き立つぞ……!
「待ってたらすぐにできるよ」
「よし、俺にも食わせろよ」
「はいはい」
そうキッチンから部屋に戻ると、晴れ渡った秋空に稲光が走り、強い風が窓をガタガタと揺らした。
「最近変な天気が続くなあ……」
草太が外の光景に不安そうにつぶやく。この連日、異常気象が続いていた。晴れているのに雷が鳴り、どこからともなく突風が吹く。俺も600年生きているが、こんな変な天気はあまり見たことがなかった。
こういうときは大概不吉なことの前触れなんだよな……。炊き込みご飯の香りが漂う部屋で俺は目を細めた。
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