第29話 登場! もう1匹の化けにゃんこ!

 突然だがこの俺トラゾーは数年前ほどにこの地域にやってきた。にゃんこというのは縄張り意識が強いのでよそ者の俺は手洗い歓迎を受けた。

 しかしただのにゃんこが化けにゃんこに敵うはずなく、俺はボスにゃんこを倒し、この地域の新たなボスの座に収まった。それからは俺が当地したことでにゃんこ同士の大きな争いのないセクシーな地域になった。そしてそれは飼いにゃんこになってからも変わらず、平穏な毎日は永遠に続くと思われた。

 しかし今、永世もっふり王国に危機が迫っていた……。


「何? このあたりのにゃんこに喧嘩ふっかけている奴らがいる?」

 その報告でベンチの上で寝そべっていた俺は身を起こした。

 今日は俺の治める地域のにゃんこたちの集会の日。ボスにゃんこである俺も当然出席していた。普段はゴロゴロして遊びながら連絡事項を伝えるだけの会に、その一報は大きな衝撃となって俺に届けられた。

「はいそうなんです。ボス。最近どこかからふらりとやってきたにゃんこが、このあたり一帯のにゃんこの目の前に現れては喧嘩を挑んてくるんです。そいつはとても強くてもう何匹ものにゃんこが返り討ちに……!」

 そう俺に報告するのはトラ柄のトラだ。この非常にわかりやすく、間違いやすい名前のにゃんこは俺の前にボスをやってた野良にゃんこだ。俺がボスになってからは絶対の服従を誓ったため俺の右腕として役立ってもらっている。俺ほどではないが、立派な雄にゃんこだ。しかし今やその声は怯えで震えていた。

「お前らなあ、流れ者ぐらい自分たちでなんとかしろよ。1匹のにゃんこにいいようにやられやがって。情けないな……」

「ち、違うんですよ、ボス! そのにゃんこは普通のにゃんこじゃなくて、ボスと同じ化けにゃんこなんです!」

「何だと……?」

 その様子に呆れていたが、トラが衝撃の事実を告げた。そうなると話は変わってくる。

「それは本当か?」

「はい、襲われたにゃんこが全員そう証言しています。二又に分かれた尻尾。黒い人魂を飛ばす黒にゃんこだと!」

 トラがそう言うと数匹のにゃんこが俺の前に進み出てきた。みんな俺の配下のにゃんこだ。そして何故か全員が全身の毛を逆立てている。

「どうした。その格好は」

 俺が聞くとにゃんこたちは次々に口を開く。

「それがあいつにビームを撃たれたら、全身が静電気でビリビリになって……!」

「それでもう歩くのもままならないんです!」

「あっ! お前そんなに近づくな……。ギニャアアアッ!」

 俺の目の前で静電気の影響を受けて地面を転がるにゃんこたち。俺は再びトラの方を見る。

「そいつはなんか言ってたのか? 俺あてのメッセージとか」

「は、はい……。倒したにゃんこ全員に同じメッセージを残しています……」

 トラはゴクリと喉を鳴らしてから言った。

「『トラゾーへ お前へ決闘を申し込む。◯☓公園で待つ。 マサムネ』と……」

 それは俺への一対一の戦いを望む声明だった。やっぱりあいつか………俺はベンチから降りる。

「わかったよ。この1件俺が預かる。お前らはもう帰れ。今日中には片が付く」

 俺が堂々と宣言すると集まっていたにゃんこたちは「流石だ、ボス!」「かっこいいぜ!」「流石日本一もふもふでセクシーなにゃんこだ!」「いや……もう世界一だ!」「「「「「「うにゃあああああああ!」」」」」」と歓声が上がる。

 俺はそれを聞きながらその場をあとにするのだった。


「そういうわけでちょっくら行ってくるからな。晩飯までには帰る」

「ああ……うん。色々言いたいことあるけど、どうせ無駄だよね。気をつけてね」

「ああ。わかってるよ」

 1回部屋に戻って草太事情を話すとなんとも言えない複雑な顔で見送られた。俺は化けにゃんこの姿になって窓をすり抜け空を飛ぶ。

 数分で指定された公園は見つかった。俺はそこの広場に降り立つ。

 そこは寂れた小さな公園だった。夕暮れ時だ。夕日が広場を赤く染め上げる。

「待っていたぞトラゾー……。よく逃げ出さずに来たな……」

 そこに1匹の化けにゃんこが立っていた。トラの言う通りの人相。そして俺が予想していた通りのにゃんこだった。そいつは片目を怪我していて、隻眼で俺を睨む。そこには強い恨みの感情がこもっていた。

「そりゃこっちのセリフだ。マサムネ。手の込んだまねしやがって……」

「ふっ……こうすればお前は絶対に来ると思っていたからな」

「さっきよく逃げ出さずに来たなとか言っていなかったか?」

 不敵に笑い赤い舌を見せるこいつの名前はマサムネ。俺とはちょっとした因縁のあるやつだ。

「お前今さら現れてなんの真似だ。もしかして100年前の復讐か?」

「そうだ! あの日俺からすべてを奪ったお前への復讐だ!」

 MASAMUNEは隻眼をまなじりが引き裂かれそうなほど開いた。100年前、俺はこいつがボスとしていた縄張りに殴り込みをかけ、こいつを倒し、ボスの座から追いやったのである。

「いやあれはお前が化けにゃんこの力でめちゃくちゃやってるから助けてくれって頼まれたからお前を倒したんだぞ。逆恨みもいいとこだろ」

「黙れ! お前さえいなければ俺は夢のハーレム生活を実現できたんだ!」

「欲望に忠実だな、お前」

「この目だってそうだ! お前がやったんだぞ!」

「それもお前が嫌がる雌に粉かけて引っかかれたんだろ! というかもういい加減にしろ!」

 身に覚えのない恨みをぶつけられて我慢できなくなった俺はうにゃあ!と鳴く。

「つまんねえ理由で人の縄張り荒らしやがって! 覚悟しやがれ!」

「こっちのセリフだ! 今日こそあの時の雪辱晴らしてやる!」

 俺とマサムネは向かい合う。俺たちの間の空気が張り詰めて軋む。マサムネの人魂がその勢いを増し、俺の髭が激しくスパークする。戦いのボルテージが最高潮に達したその瞬間、マサムネが動く。

「トラゾー! 死ね!」

「ほい、髭ビーム」

「うにゃっ!」

 飛びかかってきたマサムネは俺のビーム一発で倒れ伏した。その体から黒い煙が上がる。

 戦いは一瞬で終わった。俺は地面でぐったりしているマサムネの顔を尻尾でペチペチ叩く。

「100年前にも言ったけどな。妖怪ってのは基本長く生きてる方が強いんだ。俺の3分の1しか生きてないお前が勝てるわけ無いだろ」

「そ、そんな……。あれから100歳年をとったのに……」

「俺も同じだけ歳とってんだよ! このアホ!」

 俺は前足で横っ面をはたく。

「そもそも俺に恨みがあんなら、俺1人を狙えばいいだろ。それを関係奴らまで巻き込みやがって。反省しろ!」

 俺が口を大きく開いてシャーッ!と怒るとマサムネは耳を伏せた。心なしか人魂も小さくなっている。

「ったく! 最近飼いにゃんこになって忙しいってのに面倒を増やしやがって……。それでも同じ化けにゃんこの情けだ。これ以上何もしないっていうなら、俺の治める地域にいさせてやるよ」

「な、何……? お前が飼いにゃんこだと?」

 俺の寛大な処置にマサムネは口を半開きにして体をブルブル震わせる。

「ば、馬鹿な!お前のような化け物を調伏し飼いならすとは……! 一体その人間はどれほどの怪物だというのだ!」

「ただの大学生だよ」

 マサムネは変な想像をしているらしかった。草太がいたら怒ってたな。

「クソっ! 俺が倒さなきゃいけないのはお前だけじゃないっていうのか!

 だが俺は諦めない! 必ずや復讐を遂げてみせる!」

「そうか。一昨日来やがれ」

「うにゃーん!」

 マサムネはほうほうの体で空を飛んでいった。俺はため息をつく。

「何だったんだ? 一体?」


「勝った……。今日も平和を守ったぞ」

「それはお疲れ様。ご飯食べる?」

「食べる……」

 なんだか妙に疲れた俺は、部屋に帰って草太のすすめる通りにメシを食うことにする。

「あっ待って。トラゾーその足……!」

「ん?」

 草太がなんか言っているので後ろを振り向くと、そこには窓から一直線に続く俺の足跡があった。しまった。足を拭かずに入ってしまった。

「トラゾー! 外から帰る時は必ず足を拭いてって言ってるじゃないか。そのために窓の前に足拭き用の雑巾を置いてあるのに。これで何度目!」

「す、すまん……」

 みるみるうちに草太は怒り、俺はお説教を喰らう。

 マサムネの言う通り1番怖いのは草太かもな。俺は草太に無理やり足を綺麗にされながらそう思った。

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