第25話 化けにゃんこの家族
しかし家族か。俺はキャリーバックの中で考える。
新幹線の中である。数日追加で滞在したせいか、Uターンラッシュを避けることができた。そのため車内は乗客が少なく、草太も膝の上でなく、隣の席に俺の入ったキャリーバックを置いている。
うたた寝している飼い主をよそに、俺は自分の家族のことを考えていた。悪霊騒ぎの一件で草太の両親の話が出てきたので、俺もふと家族のことを思い出したのである。
今から600年前というと室町時代だ。この時代、にゃんこは数が少なく貴重な愛玩動物という扱いだった。犬みたいに首輪に紐をつけて飼われていたのである。一応穀物を荒らすネズミを捕らえる生き物としての側面もあったが、そっちの方が注目されるのはもう少し先のことになる。
俺はある飼いにゃんこの産んだ子にゃんことして生を受けた。4匹兄妹の長にゃんだ。母ちゃんの飼い主はそれはたいそうにゃんこ好きで、俺たち兄弟も可愛がられた。ほとんどを屋敷の中で過ごしのんびり成長していった。
おかしいと思ったのは母にゃんこが死に、兄妹にゃんこも歳をとり衰え始めてきた頃だ。俺だけが衰えず元気なのである。なんか変だとは感じていたのだが、俺もすぐにじいちゃんになって兄妹みたいになるんだろうと思っていた。
その考えとは裏腹に兄弟が死んでも俺は生きていた。相変わらず元気なままで。流石におかしいだろうと思っていたのだが、いつまで経っても変わらない俺を飼い主は大切にしてくれたので、まあこれはこれでいいかと思っていた。それなりに楽しかったしな。そうして俺は変わらずぐうたら生きることにしたのである。
そんな日々がずっと続くのだと思っていたのだが、終わりは唐突にやって来た。ある日俺が昼寝から起きると体に変化が起こっていたのである。
二又に分かれた尻尾。周囲に浮かぶ火の玉。何故か人間の言葉を喋れるようにすらなっていた。飼い主は非常に驚いてたいが、それでもお前はうちのにゃんこだからと変わらず優しかった。
しかし周囲の反応は違った。俺の姿を見た隣人は俺を化け物扱いした。当時の俺はまだ普通のにゃんこの姿になれなかったからな。正体を隠すことができなかったのだ。そのうち噂が噂を呼び、飼い主は化け物を屋敷に買っていると後ろ指をさされるようになった。
こうなると俺もそのままというわけにはいかなかった。俺は家を出て生きていく決意をした。そのことを話すと飼い主は特に反対することなく認めてくれた。その時の飼い主は年老いて重い病を患っていた。自分がいなくなったあとのことを心配してくれていたのであろう。
「お前がこの先何年生きるか分からないが自由に生きなさい。私はお前たちのそういうところが気に入っているのだからね。お前と過ごした日々は楽しかったよ」
飼い主はそう言って首輪を外して、俺を解き放ってくれた。ほどなくして飼い主は死んだ。最期を見届けてから俺は屋敷を去った。
それからあちこち飛び回り600年生きてきた。けれど体も精神も精悍だ。まだまだ俺の命は続くらしい。
600年も前のことだ。飼い主の顔はともかくとして、母親と兄妹の顔はとうに忘れてしまった。そう思っていたのだが案外覚えているものだ。割りと鮮明に思い出せた。
俺の家族が今の俺を見たらどう思うだろうか。草太の両親やハチのように俺のことをあの世で見守ってくれているかもしれない。それぞれの反応を少し想像してみる。
『兄ちゃん相変わらず顔でけえな』『態度もでかい』『寝てばっか』『食い意地が張ってる』『ごめんなさいねえ。息子が迷惑ばかりかけて』『自由にとは言ったけど少々自由すぎやしないかい?』
うるせえやい。俺はキャリーバックの中でごろりと転がり、マンションに帰るまで起きなかった。
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