第23話 魂は昇る(5)

「あ」

 気付くと、僕は暗闇の中に立っていた。ここはどこだ。僕は悪霊に見つかって、それで……。

「スマートフォン……」

 僕は寝巻きのポケットからスマートフォンを取り出す。もしなにかあった時のために眠る前にこっそり忍ばせていたのだ。

 パスワードを入力してロックを解除する。写った画面には圏外の一文字。僕は一瞬絶望しかけるが、それでもどうにか希望を見出そうとする。

 まずここはどこなのか確かめなくてはならない。僕はスマートフォンのライトをつけて、周囲の暗闇を照らす。光の中にいくつもの木々が照らし出された。どうやら林の中らしい。上を照らしてみると広がる枝葉が互いに干渉しあい視界を阻んでいた。月の光すら入ってこないらしい。風が吹き葉がこすれガサガサと音を立てる。

 そしてこれは最初から感じていたことなのだが、僕のいる場所はかなり急な斜面だった。足元を見ると落ちた枝葉や石が散見される。つまりここはどこかの山の中――。

「山魂祭をやった山の中……!」

 情報を照らし合わせて僕は結論を出す。周囲の環境と悪霊の目的を合わせて考えるとそうとしか思えなかった。

 送り盆の晩は山に入ってはいけない――。僕はスマートフォンが圏外の理由も考察する。盆の最後の晩、山の神は魂をあの世へと送り返すためにその力を振るう。その間だけは山そのものが神の領域――。神域へと変わるのだ。それはつまり世界そのものが書き換わってしまうということだ。外の空間とは断絶された聖域。僕は足を踏み入れてはいけない世界に来てしまった。それでは電波など届くはずもない。

 悪霊が僕をこの場所にさらったのは、ここならあの世へと僕を連れて行きやすいからだろう。早く逃げなければいけばい。何故か今は悪霊の姿は見えないが、それがチャンスだ。今のうちに神や穢れた魂に遭遇する前に山を降りるしかない。

 僕は横移動をしながら少しずつ斜面を下ることにする。そうすればいつか石畳の階段――参道にぶつかるはずだし、その間に下る距離も稼げる。明かりはスマートフォンのライトしかなく、滑落の可能性もある。かなり危険だが、それでもやるしかない。のんきに救助を待っていられる状況ではない。そんなことをしていれば取り殺されてしまう。

 よし行こう。そう思い慎重に一歩を踏み出そうとした時だった。

「見つけたあ」

 背後から声がした。僕は動きを止める。振り返るな! 足を動かせ! そう本能が告げてくるが僕は後ろを振り向いてしまう。

 ライトの光の中にあの男が立っていた。10メートルほど後方に斜面の影響などないかのように直立不動で立っている。

 その顔は人のものとは思えないほど醜く変形していた。歪んでいるとかそういうレベルではない。顔の中心を起点にして顔面がかき混ぜられている。顔のパーツが引き伸ばされ、混じり合い、元の顔が判別不能なほどになってしまっていた。

「連れてこうねえ! 連れて逝こうねえ!」

 悪霊はこちらに向かって腕を伸ばし走ってくる。僕は出来得る限りの速度でその場から走り出す。

 しばらくして後ろを見ると男の姿は小さくなっていた。引き離している? そういえば図書館から追ってきたときも僕に追いつくことはなかった。移動の速度はそこまで早くはないらしい。これなら逃げ切れるかもしれない。

 しかし僕はその考えがあまりにも甘すぎるものだったとすぐに思い知ることになった。山の斜面はかなりの傾斜になっていて、立つだけならともかく近くの木や大きな岩に捕まらないと歩くことすらままならない。走るなどもってのほかだ。

 さらに先日の夕立ちの影響か、地面はぬかるんでいた。踏みしめるたびに泥のようになった土が足を重くし、寝巻きの裾を汚す。一瞬でも気を緩めたら足を取られて滑り落ちてしまうだろう。本当に慎重に移動しなければならなかった。光源がスマートフォンのライトしかない中、僕は牛のように遅い行動を強いられていた。

「痛っ」

 足の裏に痛みを感じて見てみると、いつの間にか僕の足は傷だらけになっていた。裸足で山の中に放り出されたため当然靴など持っていない。山の中を裸足で歩くことを強制された足は限界に近づいていた。枝や石を踏みしめたことで深い傷を負い、激しく出血している。ズキズキと鋭い痛みが上がってくる。泥が塗り込められ、傷口を汚染する。ライトで照らされた両足は血と泥の奇妙なマーブル模様で彩られていた。

「まがっちゃったねえ! まがっちゃったねえ!」

 そんな僕に対し悪霊は環境の影響を受けずに僕を追いかけてきていた。幽霊にはそんなもの関係ないと言うことか。移動速度が遅くともそれ以上に僕が遅いので距離はだんだんと近くなってきている。今の声もさっきより大きく聞こえる。僕は痛む体を引きずって再び歩き出す。

 目の前に迫った死の恐怖と過酷な環境が僕を追い詰める。精神と体力は削られ、僕から正常な判断能力を奪っていった。本当はもっと早く移動できるのにわざと遅くして僕の反応を見て楽しんでいるのではないか? そんな不埒な考えを持ってしまうほどに僕は疲れていた。

「う、あっ!」

 僕は足を踏み外し前のめりに転んだ。体制を崩した僕はそのまま斜面を転げ落ちていく。

 回転する視界の中で1つの木が迫ってくるのを捉えた。ぶつかる――! 僕は頭を両腕で抱えて体を丸める。

「ぐあっ!」

 僕の体は背中から木の幹へと叩きつけられた。重たい衝撃とともに肺から空気が吐き出され、僕は激しく咳き込む。全身を激しい痛みが襲うが、骨が折れたり内臓が傷ついたりしているということがなさそうなのは不幸中の幸いだった。スマートフォンもなんとか手放さずにいる。

「いたねえ! 連れてこうねえ! 逝こうねえ!」

 悪霊は目と鼻の先まで来ていた。僕の寄りかかる木より5メートルほど上に悪霊は立っている。木の陰から僕を嘲笑うようにこっちを見ていた。僕は激痛に耐えながらなんとか立ち上がりその場から移動する。

 突如目の前に光が見えた。林の向こうから白い光がぼやけて見える。極限状態に陥った僕の頭が見せた幻か。もうそんなことはどうでも良かった。もうなんでもいいから縋り付きたい。僕は力を振り絞り光の方へと向かう。林を抜けて光の中へと出る。

 そこは見覚えのある場所だった。石畳でできた階段。麓から神社のある頂上へと伸びる参道だ。今そこは不思議な白い光に満たされ、輝いていた。

 参道は正体不明の謎の存在で埋め尽くされていた。その姿はなんというか……、とても形容し難い。小さな子どもが頭からシーツを被って「おばけだぞー」と言っている時の姿というか……。大きな布を空気で膨らませたらこうなるというか……。存在そのものに掴みどころがない。そんな印象だ。透き通った金色をしたその存在が参道で横に2人並んで列を作っていた。上にも下にも数え切れないほどいる。

「もしかしてこれが魂?」

 僕は参道の脇でポツリと呟いた。列は少しずつ上へと移動していた。見上げるとかなり遠いところに鳥居が小さく見えた。どうやら白い光はその向こう……境内から溢れているらしい。

 つまりこれが山の神による魂の送還。その儀式なのだ。目の前の存在は盆に帰ってきた魂たちで、この列はその順番待ち。登って境内に入ったものから神の手によって順次あの世へと戻っていくのだろう。幻想的な光景だった。まさか本当にこんなことが山の中で起こっているとは思わなかった。僕はこんな時だと言うのに圧倒されて立ち尽くす。

 そんな僕の目の前を通り過ぎていく魂たちは青白い光でできた目で僕を見ていた。――どうして人間がここにいるの?―― そう言いたげな視線だ。

 どうしたらいいだろう。おそらくここは僕のいていい空間ではない。かといって再び林の中へと戻りたくはなかった。暗闇の中で悪霊と鬼ごっこをするよりはここにいた方がいいように思える。

「まがっちゃったねえ! まがっちゃったねえ!」

 背後から悪霊の声が聞こえた。僕は振り向く。広がる闇の中にその姿は見えないが再び接近してきている。ここにいては追いつかれてしまう。進むか。戻るか。どうする。どうする。僕はたたらを踏む。

 すると目の前の魂が僕を列へと招き入れた。僕は呆気に取られつつもふらふらと列に加わる。

 僕は2つの魂の間に入った。両側の魂は僕をつま先から頭の天辺まで見て、横顔を見つめてきた。――大丈夫?―― そう言われているようだった。

 それとほぼ同時に悪霊が参道へと姿を表した。意味不明の言葉を喚き散らす乱入者に、魂たちも距離を取る。どうやら魂にとってもあの悪霊は招かれざる客であるらしい。

 それを見て事情を察してくれたのか、隣の魂が僕にそっと身を寄せた。どうやら匿ってくれるらしい。「ありがとうございます」と、僕は小声で感謝の気持ちを伝える。悪霊は僕の姿を見失ってしまったようでしきりにあたりを見渡していた。

(でも……、この状況もかなりまずいんじゃ……)

 魂たちと参道を上がりながら僕は考える。このまま行けば僕も境内に入ることになる。そうなった時僕は無事でいられるのだろうか。不用意に神の領域に入って重い罰を受ける人間の伝承は多い。この山の神がどんな存在かは詳しく分からないが、何も言わずに僕を家に返してくれる存在だろうか? 魂たちもそのことまでは考えていなかったようで互いに顔を見合わせていた。

 助けてくれた魂たちには申し訳ないが、この階段を一気に下った方がいいのではないか。そう思って首だけで振り向いた先、その光景に僕は顔をしかめた。

 落ち着きを取り戻した悪霊は1人1人魂たちを確認していた。至近距離で魂を横から見ると1段上に登りそれと同じことをする。僕を探している。その速度は魂が参道を登るよりも早かった。このままではいつか見つかってしまう。手のひらに汗が滲む。

 前門の神、後門の悪霊。2つの超常的な存在に挟まれて僕は絶体絶命の状況に陥っていた。進んでも戻っても破滅的な結末しか待っていないだろう。それを打開するすべを見つけられないまま僕は階段を1段1段登っていく。

 そうこうしている内に鳥居が大きく見える所まで来てしまった。あと20段もないだろう。魂が鳥居をくぐると白い光が境内から放たれる。角度の関係で鳥居から先は見えないが、白く光るたびに魂が還っているのだろう。あの光の先に神がいるのだろうか。

 僕は悪霊の位置を確かめるためにまた振り返り――大きく顔を引きつらせた。

 悪霊はもう魂の顔を見ていなかった。石畳の上、そこについた血と泥の跡を凝視していた。気づかれた。そう思った瞬間、悪霊は首をぐるんと動かし僕の方を見た。すぐに前を向いたが、悪霊と目が合った。合って、しまった。

 悪霊はいつの間にか僕のすぐ隣にいた。魂を挟んで僕を見つめてくる。すぐには襲ってこない。本当に僕か見極めようとしているんだろう。僕は体の動きを止め、魂のふりをする。

 緊張のあまりつばを飲み込む。喉仏がゴクリと動く。額からは汗が止まらず、頬を伝って滴り落ちていく。魂たちも僕を守るようにより体を近づかせる。

「いたねえ! まがっちゃったあ! まがっちゃったねえ! 逝こうねえ!」

 必死の抵抗虚しく、悪霊は僕の姿を見定めた。悪霊は列に割り込むと僕の背後に回った。そして両腋に腕を入れると僕の体を軽々と持ち上げた。

 悪霊はそのまま階段を凄まじい勢いで駆け上がる。このまま自分ごと僕をあの世へと連れて行く気なのだ。

「一緒に行こうねえ! 連れて逝こうねえ! まがっちゃったから! まがあっちゃったからねえ!」

「やめろっ! 離せ!」

 僕はなんとか逃げようともがくが、悪霊の力は万力のように強く、振りほどくことができない。僕の体は鳥居の方へとどんどん近づいていく。

 あそこを通ったら僕は死んでしまうのだろう。嫌だ。僕はまだ父さんと母さんのところに行くわけにはいかない。2人に成長した姿を見せると決めたんだ。死ぬわけにはいかない。死ねない。死にたくない! 僕は涙を散らしながら叫んだ。

「助けて! 父さん! 母さん!」

 その言葉に呼応するように鳥居から金色の光が溢れ出した。その光は参道中を吹き抜けていく。

 悪霊はその光に当たると、突然苦しみだした。腕が抜けて、僕は石畳の上に落とされる。

 悪霊はもがき苦しんでいるが僕はそうではない。黄金の光が僕の体を突き抜けていった時、確かに感じたのだ。それは怖い夢を見た時頭を優しく撫でてくれた手のひらの感触であり、迷子になった僕の手を握ってくれた手の力強さでもあった。どれも僕が2度得ることのできないと思っていた温もりだった。永遠に失ってしまった大切な人たちの愛情と同じものだった。

「父さん! 母さん!」

 僕は傷だらけの体を2本の足で支える。あの鳥居の先にいるのだ。両親の魂が――! 僕は叫んだ。

「ごめんなさい! あの時、我儘言ってしまってごめんなさい! 久しぶりに父さんや母さんと遊べるって思って、でも父さんは仕事に行っちゃって、すごく寂しくて……。だから僕2人に酷いこと言って傷つけた! 本当は父さんが仕事を早く終わらせて帰ってきたって知っていたのに!」

 先日おじいちゃんに言われて鮮明に思い出すことができた記憶を僕は辿る。それは今まで誰にも言うことのできなかった感情の発露だった。両目から透明なしずくがこぼれる。

「本当は謝って仲直りしようと思ってた! でも2人は死んじゃって……帰ってこなくて……。謝れなかったこと、ずっと後悔してた!  父さん、母さん、ごめんなさい。ごめん……ごめん……」

 そこから先はもう言葉にならなかった。僕はただ泣き続け嗚咽を漏らす。涙が参道を濡らす。

 その時、僕の頭を誰かが撫でた。優しいその手つきに僕は顔を上げる。鳥居の前に2つの金色の魂。言葉が胸の中に浮かび上がってくる。

 ――父さんたちの方こそごめんな。一緒に遊びにいけなくて――

 ――一緒にいてあげられなくてごめんね――

 ――でも父さんと母さんは草太のことを愛しているよ――

 ――ずっと見守っているわ。何があっても、遠く離れても絶対に――


 その言葉を聞いて僕は涙を流しながら大きく目を見開いた。

 トラゾーやおじいちゃんの言った通りだったのだ。父さんと母さんは僕を恨んでなんかいなかった。会えなくなっても僕のことを思ってくれていた。愛してくれていた。僕の思っていた通りの人たちだった。僕は涙を拭う。

「うん……、うん。ありがとう」

 胸の中の公開と疑念は完全に消えていた。代わりにあるのはただただ満たされた温かい感情だった。

「父さん、母さん。僕も大好きだよ」

 僕は笑顔を作って気持ちを伝える。2人の魂は最後ににっこりと笑うように瞬いて――鳥居の向こうへと消えていった。あるべき場所へと帰ったのだろう。さよなら、父さん、母さん……。僕は心の中で別れを告げた。あたりに充満していた金色の光も徐々に薄れていく。

 父さんたちが消えたあと白い光が鳥居から放たれた。神々しく荘厳な光だ。その光は一直線に僕の体を通り抜けていく。

 ――私の不始末で迷惑をかけたね――

 ――君はもう帰りなさい――

 ――これからはみだりに死者の魂がいる空間に足を踏み入れてはいけないよ――

 ――そして両親と小さな魂によく感謝するように。いいね――

 威厳と慈しみのこもったその意思が全身を駆け巡ると、体中の痛みが消えて、不思議な力が湧き上がってきた。魂たちが様子を窺う中、僕は神社の方に向かって深々と一礼して階段を駆け下りる。

 目の前に悪霊が立ちはだかる。あれだけ恐怖を感じていたのに、今は一欠片の怖さも感じない。

「どけっ!」

 僕は走ることを止めず、悪霊の顔に右ストレートを叩き込んだ。全体重を乗せた強烈な一撃が崩壊した顔面を捉える。僕はそのまま腕を振り抜く。悪霊は大きく吹っ飛び参道を転げ落ちていき、やがて止まった。

 僕はそれに構わず参道を走っていく。参道の中央を堂々と突き進んでいく僕に魂は道を開けてくれる。僕を助けてくれた魂が視線で見送ってくれた。僕は軽く会釈を返し、走り続ける。これだけ速度を出して走っているのに疲れるどころか息も上がらない。このまま最後まで走り抜けられそうだ。

 参道の入口が見えてきた。僕は一気に駆け抜けて通り抜ける。山から出る瞬間、薄い膜を突き破るような感覚が体に走った。

 僕はその場に倒れ込むようにして動きを止める。分泌されていたアドレナリンが止まったのか、凄まじい疲労と激痛が体を襲う。もう立ち上がれそうもない。僕はぜえぜえと荒い息を吐く。

 それでも頭を上げると空が白み始めているのが見えた。東の空から太陽が頭を出す。夜明けだ。

 終わった……。僕は安心する。僕は危険な悪霊からなんとか逃げ切ったのだ。これも父さんと母さんのおかげだ。僕は残った力を振り絞って立ち上がり山の方を見る。そして凍りついた。

 悪霊はまだ追いかけてきていた。腕と足をめちゃくちゃに振りながら階段を転がるように下りてくる。そんな馬鹿な……。まだ狙ってくるのか。なんて執念なんだ。

 僕は逃げようとするが、疲労から足をもつれさせて転んでしまった。もう立ち上がる気力も体力もない。おしまいだ。僕は絶望する。悪霊は入口から飛び出し僕に襲いかかる。

 その時だった。僕と悪霊の間に小さな1つの影が割り込んできた。僕は目を見開く。二又に分かれた尻尾。2つの人魂。立派なタマタマ。キジトラ柄の化けにゃんこ。トラゾーだ!

「人の飼い主に手え出してんじゃねえーよ!」

 トラゾーは空中で髭からビームを発射した。それは吸い込まれるように悪霊の胸に直撃した。激しいスパークが上がる。しかし悪霊はそれを意に介さず進んでくる。

 トラゾーはそれを想定していたようで、焦ることなく人魂を飛ばした。2つの人魂は悪霊の周りで回転し、その動きを戒める。そしてビームの勢いに押されて、悪霊は山の中まで後退させられる。

 その時、参道の奥、山の上の方から白く光り輝く巨大な手がいくつも伸びてきた。暴れる悪霊をわしづかみにすると、そのまま引きずっていった。ぎいぃぃぃやあああっ! 断末魔の叫びが山の頂上から木霊のように響いた。そして静かになる。

 今度こそ終わった………僕はへたり込む。

「おい……、おい草太。大丈夫か……。あんまり大丈夫そうじゃないな?」

「……なんとか大丈夫だよ。あちこち傷だらけだけど……」

 トラゾーが近くまで来て僕に呼びかける。僕は少しぎこちなく笑顔を作った。

「草太。よく頑張ったな。もう安全だ。お前を狙ってた奴は山の神が連れて行ったらしい。全部終わったんだ」

 トラゾーは空を見上げる。僕も同じように空を見上げた。

 輝く太陽は朝焼けの色に空を染め上げていた。

 


 

 

 

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