第16話 トラゾー1日ルーティーン
「起きろ。メシの時間だ」
化けにゃんこの朝は早い――。朝5時、俺は草太の胸の上に乗ってそう催促する。
「トラゾー、もう少し起こし方どうにかならない?」
「だったらもっと早く起きろ」
寝ぼけながら俺専用の皿にカリカリを出す草太。ザアーっと音を立てて皿に盛られるカリカリを俺はがっつく。
「味はどう?」
「いつものお味だな。美味い」
「それは良かった」
それだけ聞くと草太はまたベッドに戻っていく。
「もう少し寝る……」
「そうしろ」
カリカリを平らげた俺は適当に言った。
朝8時。飼い主がバイトに行く準備を始める頃、俺はソファーの上で優雅に二度寝。朝飯を食ったあと冷房の涼しい風に当たりながらゴロゴロする。
「じゃあもう行くから。あとはお願いね」
朝9時。バイトに行く草太を玄関で見送る。
「いつもみたいにエアコンの温度上げて一番弱い風でつけっぱなしにしていくから。水も用意したからちゃんと飲んで。勝手にエアコンの設定いじっちゃだめだよ。あとおやつも勝手に食べちゃだめ」
「分かったからはよ行け」
いつものように色々言ってくる草太を部屋から押し出して俺は廊下を戻る。
「また来やがったか……」
朝10時。俺はやつの気配を感じて、遊びに使っていたぬいぐるみを放り出す。
ベランダへと繋がる窓の前に行くと外の電線に1羽の鴉がとまっている。あいつは最近この部屋の前でうるさく鳴いていくうるさい野郎だ。鴉にはいい思い出がない。俺は今日も今日とて部屋の安全を守るため、威嚇を開始する。
俺が怒っている事を知った鴉は翼を羽ばたかせながら鳴き始める。生意気なやつだ。俺は更に強くクラッキングする。鴉もより一層うるさくなる。髭からビームで追っ払ってもいいんだけどな。そうするとマンションの前に鴉の焼死体が落ちて騒ぎになる。草太に知られると面倒だしな。だからこうして普通のにゃんこがやってるように喧嘩するのだ。
しばらくすると鴉は飛び去っていった。今日も俺の勝ちか。こうして草太の知らないところで俺は部屋を守っているのだ。
「ふっ、俺のセクシーさに恐れをなしたか」
俺は勝ち誇って窓際から立ち去った。
「暇だな……」
12時。暇である。遊ぶのも飽きた。散歩にでも行くかと思うが、外は今日も暑い。俺は朝と晩の1日2食派だ。メシも食う気にならん。やることが何もない。
「沙也加のところでも行くか」
名案を思いつき、俺は早速壁をすり抜けた。
「沙也加、いるか……」
俺はそこで言葉を止めた。目の前には下着姿の沙也加がいた。着替え中だったか。沙也加は無言でしゃがむと、上半身だけを壁から出している俺の顔を両手で挟んだ。冷たい。
「師匠……。来るときはノックしてって言った……」
「す、すまん。許してくれ……」
「だめ……。これでもう3度目……」
沙也加はそのまま俺の顔を強く撫で回す。3度目に正直にならないやつは仏様も許してくれないらしい。
「お前、今から仕事か……?」
「午後から雑誌の撮影……。だから今日は遊べない……」
「そうか……。邪魔して悪かったな……。今度からはノックする」
「そうして……」
俺は自分の部屋に戻った。暇だ。寝るか。俺は草太のベッドの上で丸くなって昼寝を始めた。
「ただいまー」
その声と玄関のドアが開く音で起きた。時計を見ると午後6時。俺はベッドから降りると玄関へと向かう。
「おう帰ったか」
「ただいま。良い子にしてた?」
「してたぞ」
俺は少しだけ嘘をつく。
「そうだ。僕お盆に実家に帰るんだけど、トラゾーも来るよね」
二人でそれぞれ夕飯を食べていると草太がそんなことを言い出す。
「そりゃ行くぞ。ていうかお前、俺を置いていくつもりだったのか」
「念のためだよ。念のため。俺は行かないって言われるかもしれないから一応聞いておこうと思って」
「部屋にいても暇だからな。一緒に行くぞ」
「わかったよ」
そんな会話をしながら俺たちは食事を終える。草太が歯を磨き終えて戻ってくると俺はごろんと腹を出す。
「ほれ、モフれ」
「はいはい……」
草太はいつものことだ……とでも言いたげに俺を触る大きな音こいつも触り方がうまくなった……。俺は喉を鳴らす。
「もう満足だ。寝る」
「自由だなあ……」
「にゃんこだからな」
俺は自分のベッドで丸くなる。草太も寝る準備をして部屋の電気を消した。
「お休み、また明日」
「ああ……」
こうして今日も1日が終わるのだった。
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