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ほとんど騒音に近いような演奏が耳を壊しにかかってきているのに、俺が出来ることといったらうずくまって耳を塞いでしまうぐらいなものだ。そんな調子だから、何時まで経っても大木にも葦にも成れそうにない。自滅的な悲観をかき消すのは、又してもつんざくばかりの絶叫。
「いい加減にしろ!」と口をもごもごさせると、ステージ上のやつらはそれを見て余計にギアを一段階上げたようだった。耐えきれなくなって会館を飛び出ると、待ち伏せされている。
「黒木サン。あの…」
「どうした」努めて朗らかな声色を作った。
「まだ一組来ていないんです」
「連絡は来たか?」
「いいえ、次が控えてるんでどうしようかと」
「飛ばせ飛ばせ、遅刻に構ってやる必要はない。ただ連絡が来たら教えてくれ、一応。そうだな」液晶を叩くと、14時の表示が出てくる。
「この調子なら間に合いそうだし、飛ばさせて後に入れれば大丈夫」
「はい」
「他は大丈夫そう?」
「今のところ」
オーケー。俺は『休憩するから』と言い訳がましく付け加えると、木々を抜けて研究棟と講義棟の狭間の、安っぽいサンドイッチの具みたいに残されたガラス張りの中に入る。確か名前は、禁煙ブース?
封を開けてから取り出しに少しまごつく。中古と新品の功罪という深淵なるテーマについて考えが至るその前に一本取り出せたので、少し揉み込んで火を付けてから前を見ると、彼女がにまにましながらこちらを見ていた。
「久しぶり」
「さっきぶりでしょ」
「どうしてここに?」
「それってどういうイミ?」そう言って彼女は笑い、うそうそ、と言いながら隣にやって来た。
「ねえ、それわたしも貰っていい?」
「仰せのままに」
そのまま渡してやると、彼女はやっぱり器用に一本抜き取りそのまま咥えて、こちらに傾けてくる。
「お願いしまーす」
一連の儀式が終わってしまうと、俺は気の抜けた頭で話を続ける。
「ここ熱いだろ、匂いも付くだろうし」
「まあね。でも誰もいなかったから」
「どうしてここに?」
「それさっきも聞いたわよそれ」
「答えてないだろ」
「見かけたから、つい」少し笑ってから弦を弾いたように言う、『期待してたんでしょ』。俺はとっとと火種を消してしまった。
「あ、もったいない」
分煙ブースから出ると、彼女は少しの間付いてきて道が行きあたりに来た所で再び話しかけてくる。
「これ。そういえば渡しておかないと」
「何?」
「プ・レ・ゼ・ン・ト。そういう訳で、わたしコッチだから」
包みよりも手に目が行った、黒のネイル。そう言って傘を差してから去っていく彼女をしっかりと見送ってから、渡された何でもない小袋の紐を緩めて覗き込む。出てきたのはちっぽけな
少し深呼吸してから、もと来た方へ引き返した。
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