第13話 Side、愛莉

「あーもー、本当にイイ子でねえ。二人に自慢したいくらいだよ」

「いや、もう自慢されてるんだけど。愛莉あいり。また自慢されてるんだけど。愛莉」

「めちゃくちゃ唐突にぶっ込んできたね……」

 涼真も在学している東玲とうれい大学。

 その4階に備えられたテラス席では、会話に花を咲かせながら昼食を食べる3人の女子大生が集まっていた。


「てことは、昨日もいいことあったんだ?」

「どうせアレだって。手塩にかけた後輩くんが助けてくれたってやつ」

「ま、またそれ? 本当は助けなんていらないのに、構ってもらいたいから、か弱いふりしてるってやつ?」

「っ」

 痛いところを突かれ、さらには丁寧な説明を加えられ、一瞬で動きが止まる愛莉。


「黒おび持ちがナンパなんかに助けられ待ちはもうなにやってんだって話じゃね? まったく」

「それなー。てか、あのバイクに乗っといて“か弱い”を出すのは無理でしょ」

「はははっ」

「…………」

 容赦ない言葉を並べられる愛莉は、それはもうバツが悪そうに綺麗な猫目を逸らしていた。

 意味もなくレモンティのペットボトルに触れていた。

 本人にもいろいろと自覚がある様子である。


「わざわざ怖い目に遭わせて後輩くんが可哀想に」

「ワガママ女に目ぇつけられて可哀想に」

「そ、それは本当に悪いなあって思ってるって……」

 こればかりは反論しようもないのだ。

 子どもの頃から習い事に通っていたおかげで、どんな客に絡まれても、一人で貫徹できる自信があるのだから。

 自分を守れる自信もあるのだから。

 それが絡まれてもなおの余裕にも繋がっていること。


 ——でも。

「困ってることには違いないし……」

「愛莉の場合、困りが1割で構ってもらうって下心が9割でしょ」

「そうでもしないと、誘うことができないんだっけ?」

「うん……。理由なしに一人だけ誘うってなったら、バイト先のスタッフにいろいろ誤解されちゃうし?」

「なんでそこ疑問系。って、なーんでそんなところは堂々といけないんだか」

「チヤホヤされてばっかりだったからでしょ。昔からムカつくくらい顔整ってるし。コヤツ」

 隣から手が伸び、愛莉の頬が引っ張られる。

 そんな攻撃をもろともしない彼女は、器用に口を動かすのだ。


「そんなお姉さんを一回も誘ってきてくれないあの子でねえ……。はあ」

「ガチのため息じゃん。ウケる」

「あたしが『早く帰れるように』って理由で、バイクで送ろうとしても断られるし……」

「めちゃくちゃ尊敬されてるってことじゃないの? それ」

「かもしれない……けど」

 嫌なことは一切顔に出したり涼真だが、その逆はしっかり出してくれるのだ。

 認める部分はありつつも、苦笑いを浮かべながら眉を八の字にする。

 当然、『尊敬される』ことは嬉しい愛莉だが、なんとも言えない表情になるのは仕方がないことなのだ。


「そんな優しい後輩くんに怖いことをさせちゃってるのに、なかなかお返しができてない愛莉先輩ですこと」

「てかさ、後輩くんに彼女がいるから遠慮してる部分もあるんじゃないの?」

「えっ!?」

 ここで目を見張ることを言われる愛莉。


「い、いやあ……。それはまさか。前にそれとなく聞いたけど、『いない』って言ってたよ?」

「そうは言ってもさ、困ってたらなんでも助けようとしてくれて、性格も素直で、可愛がられるタイプなんでしょ? フリーな方が珍しいって」

「周りに気を遣われないようにとか、からかわれないようにとか、そんな説はありそう」

「……」

 言われれば言われるだけ、信憑性を感じてしまう。

 接客業をしているだけあって、明るく、コミュニケーション能力も高い彼なのだ。

 思い返してみれば、最初から女性慣れしている様子も伺えた。


「……い、一応飲み会の日に聞いてみないこともないかな。うん。あたしはもっと仲良くなりたいだけだけど」

「実はもう同棲してるような子がいたりしてー。あ、私のトラウマが思い返される……」

「なに自爆してんのよ! あ、わたしもトラウマがあ」

 とある男性アイドルグループにハマっていた友達二人。そのハマりが解かれたのは、推しメンバーの熱愛報道だった。


「食事中はもう少しゆっくりすればいいのに」

 心臓に手を当てて苦しそうな二人に冷静なツッコミを入れれば、すぐにツッコミが返ってくる。


「さっきまで意気揚々と自慢してた愛莉に言われても」

「どうせ飲み会が終わったらまた自慢されるよこれ」

「その時はもちろん聞いてもらえるよねえ?」

「いきなりぶっ込んで意地でも聞かせてくる人が言うようなセリフじゃないでしょ」

「あと、そろそろ後輩くんの写真ちょうだいよ」

「写真はちょっと……取れない。無理。恥ずかしい」

 チヤホヤされていた影響がここになって出ている愛莉。

 自分から行動に移すことがなかなかできない彼女だった。




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次に考えていることも、次に何をしでかしてくるかもわからない友達の妹。 夏乃実(旧)濃縮還元ぶどうちゃん @Budoutyann

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