第2話 月曜日の対峙

涼真りょうま、土曜日はアレがマジで世話になった。今度お礼に甘いもんでも持ってくわ」

「そんな気にしなくていいって。楽しませてもらったし」

「いやいや、バイト終わりにアレの相手はキツイだろ……」

 月曜日になる。

 大学に備わった学食で涼真と唯花の実兄、俊道としみちは仲良く定食を食べていた。

 この時の話題は二日前のこと。


「ちなみに今回はなにをしでかしやがったんだ?」

「やっぱり何かした前提なんだ?」

「飲み会から帰ってきたら、なんか謎に形の良い木の枝が家に飾ってあるんだぜ? 観葉植物じゃねえんだから……」

「はははっ」

「笑いごとじゃねえって」

 謎の木の枝を持ち帰りながら、一度家に帰っていた記憶はある。

 その帰宅途中でどこかに捨てるのだろうと思っていたが、結局持ち帰っていたことをここで知る。


「もしオレの彼女が家にきてみろ。引くだろ? 家に木の枝あんだぞ?」

「じゃあインコを買って止まり木にする的な」

「インコォ? んなもん焼いて食っちまうだろ。アイツは」

「食べないって!」

 妹が絡むと途端にネジが飛ぶ俊道としみちである。


「食わないにしてもインコは絶対ナシだな。マジなこと言うと確実に変な言葉覚えさせようとするしな」

「ま、まあそれは否定できないかも……」

「だろ? そんなヤツが涼真の家で大人しくするわけねえだろー。今まで積み上げてきやがった実績もあんだから」

「と言われても、今回は特にだよ?」

「それ本当かぁ?」

 兄としての責務を持っている俊道としみちは、しっかりとペイしようとしてくれる。

 実際、『大人しくするわけねえ』ということも当たっている。

 死んだフリなどして驚かそうとしてきたが、レベルが高い内容は俊道としみちにも内緒にしていること。


「強いて言えば、お風呂に入ってる時に出られないようにしてきたことくらいだよ」

「は?」

「扉の前でずっと話しかけてきたり、『開けていい?』とか冗談言ってきたり」

「はあ……。今日中にキツく言っとく。いくらなんでも構ってちゃんすぎる」

「でも、これはとっちーが原因でもあるよ?」

「待て。なんでオレのせいなんだよ」

 ここで半目を向けてくる俊道としみち

 この時の顔は唯花によく似ている。


「土曜日、唯花ちゃん言ってたから。『兄貴とお菓子パーティするんだ』って」

「いやあ、約束してすっぽかしたならオレが100%悪いぜ? でもそんなパーティすること自体、初耳だったんだし」

「たくさんのお菓子買って準備万端だったのに、唯花ちゃん」

「ちょ待て。罪悪感植えつけてくんな。絶対にオレは悪くねえって……」

「はは、それはそうなんだけどね」

「……まあ、埋め合わせはどっかでするよ。つってもアイツももう子どもじゃねえけど」

「それがいいよ」

 ルームシェアをしている兄妹で、涼真からすればこの二人が仲違いするのは好ましくないのだ。

 亀裂が入らないような立ち回りをずっと続けているわけでもある。


「ああそうだ。そんで寝る時になにかされたりしなかったか? 構ってちゃんを発動させてたわけだし、普通に睡眠妨害してそうでな」

「お菓子パーティで満足したみたいだから」

「前にも言ったかもだが……アイツよりも早く寝ない方がいいぜ?」

「ど、どうしてだっけ?」

「涼真は一度寝たら全然起きねえだろ? 昔っから。オレの妹もそれ知ってることだし、なにしてるかわからんぜ?」

「なにか盗ろうとするってこと?」

 確かに合理性は取れているが、10年来の関わりがある唯花である。


「それはないない! 今までなにかがなくなったことはないし、盗られるようなものも家にはないし」

「そうじゃなくってだな。お前自身に悪戯されてる可能性があるってこった」

「え?」

「顔に落書きされたことあるからな、オレ。つまり涼真はチ○ポコいじられてるかもしれん」

 顎に手を当て、ニヤリとしながら言う俊道としみち

 そんな友達の顔に向けていた視線を上に変えて——涼真は返す。


「あーあ。これは怒られる」

「ん?」

「もし今の言葉を唯花ちゃんに聞かれてたら……どうなると思う?」

「ハハ、なんだその質問。そりゃ寝てる時にチ○ポコ蹴られるだろうな。間違いなく」

「……そっか」

『せめて軽傷で済むように』と願いながら、手を合わせる。


「お気の毒に……。ごちそうさまでした」

 おぼんを持ってそそくさと立ち上がる。


「お、おい。いきなりどうしたんだ?」

「とっちー。お元気で」

「え?」

 それが別れ言葉。早足で返却口に向かおうとすれば、耳に入った。


「——兄貴、絶対蹴るから。涼真さんに変なこと言ったから」の声が。


 座っている位置から涼真は見えたのだ。

 キャンバス内にあるコンビニから出てきた唯花とその友達数人を。

 その友達に『先に行ってて』とジェスチャーして近づいてきた唯花を。


 返却口に近づいたところでチラッと見れば、両手を振って弁明している俊道と、腕を組んで強そうに見せている唯花がいた。

 なんだかんだ仲の良い兄妹である。

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