第5話 集結

 ルィリを中心に、暗殺部隊が集まっていた。その前衛には司令官と軍人がおおよそ1800名、緩衝装置の影響を受けづらい大型の銃を備えている。その周囲には旧帝国軍の騎士団が約35万人、整列していた。騎士団長のロークは、茶色の髭を蓄え、口にピアスをつけていた。彼の体格は大きく、恐らく2メートルを軽く越えているだろう。その屈強な筋肉と、金色に輝く厚い鎧が、彼をさらに大きく見せていた。その横には、ロークの剣持ちであり、見習い騎士のロンギダルが、幼さの残る顔を向けていた。


「全く、大したものだな。こんなに早く要塞都市を手中に入れるなんてよ」ルィリは特に反応しなかったが、ロークの声量が大きすぎて少し驚く。


「我々はただ隠れているのが精一杯だった」

 司令官MG56は静かに笑った。

「君たち騎士団も遠巻きに潜んでいて正解だった。巻き込まれたらどれほど被害が出るか、想像もつかなかったからな。敵の被害は何せ数千万だ」


「一体どんな破壊力を持っているんだ、このお嬢さんは。要塞都市だけでも、数万トンの火薬と数百万の虫たちに支配されていたんだからな」

「それが一瞬で蒸発してしまうなんて、信じられませんよ」ロンギダルが感心しながら言う。


「終わった話はもういい。敵の本部隊が向かってきているぞ」司令官は格リーダーに戦闘準備を告げる。


 要塞都市を破壊し手中にしてからはすでに5日が経過していた。その間、数万人規模の小競り合いが続いていたが、それは騎士団だけでも防げる程度のものだった。ルィリたちはその間に完全に回復できた。


 戦闘準備が整い、敵拠点の帝都に対しを正面から総攻撃を掛けようとしていた時であった。突然の事態で部隊は動揺した。数十万人が整列しているその上に青空を覆う巨大な影が現れ、その姿は次第に隊列を覆い尽くすように広がっていく。兵士達は空を見上げすぐに理解する。それが地上へ降りてくる宇宙戦艦であると。その降下速度は緩やかではあるが、その動きは地上に対する威圧感を高めるばかり。


 地上から見上げるその姿は、まるで太陽を遮る暗雲の如く、圧倒的な存在感を示す。そして、その影が整列しているすぐ近くの地表に接触しようとしていた。


 宇宙戦艦の底面から巨大な着陸脚が地面に突き刺さる。その瞬間、地表から巨大な埃の嵐が巻き上がり、視界は一瞬で真っ白になる。その衝撃波は地面を這い、全てを揺さぶり、遠くへと伝わっていく。砂埃は風に乗り、広範囲に渡って拡散した。


 空気が震え、耳をつんざくような爆音が鳴り響く。その音は胸を揺さぶり、地面に立つ者全ての体を震わせ、巨大な戦艦が地上に着陸した事を告げる。そこには特殊作戦用の精鋭部隊1500名と作業員2万名が乗船しており、総司令官も一緒であった。


 そして、その轟音が消え、砂埃が落ち着き始める。そこから、数十人の側近と共に降りてきた総司令官に、MG56は敬礼した。

「一体これは? 司令殿は上空からの指示ではなかったのでしょうか」


 総司令官が答える。「予想に反し、東星連中央部隊の大軍が今、こちらに向かっている。その規模は軍艦数万単位だ」ルィリや騎士団長は眉をひそめて聞いている。


「こんな辺境の星に、そこまでの力を注ぎ込むなんて」と騎士団長は顔を青くする。


「予想に反してって、作戦初期から予想を外しすぎてる。間抜けすぎだろ」

 ルィリが独り言のようにつぶやく。


「東星連は証拠を消すために、この惑星全てを焼き尽くし、ここでの事態を無にするつもりなのだろう。その時までに帰還できなかったら、我々も全滅だ。西の地には戻れない」


 騎士団長が叫んだ。「それでは、我々を見捨てるということか?」

 

「いや勘違いされても困る。我々は持てる力を全て使い、奪われた帝国を取り戻す。そして代理の皇帝を就任させ、東方中央軍の破壊を止めてもらう」

 

「時間は?」

 

「今から52時間だ。その間に事を成し遂げられなかった場合、我々は撤退する」

 

「十分な時間だ、だがこの要塞都市のように、帝都全てを吹き飛ばすのはやめてもらうぞ」


 ロークは皮肉っぽい笑みを浮かべ、ルィリの顔を見た。彼女は何食わぬ顔で総司令官を見つめていた。

 

「では作戦を練ろう。時間は切迫している」

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