第2話 あの時のままの君

カーテンに囲まれたベッドの上で目を覚ます。

ここは保健室らしい。

あの後、運び込まれたようだ。

ここで目を覚ましたということは、夢ではなかったと言うわけだ。

信じたくない。

なんて思っていると、ガラガラと保健室の扉が開かれた。

そこから顔を出したのは、燈だった。

「体調は大丈夫?直くん」

直くんと燈は俺の名前を呼んだ。

燈は俺のことを知っている

これで同姓同名の可能性も消えた。

つまり俺の前にいるのはあの時のと同じ、幼馴染の燈だ。

じゃあ何故彼女が俺の前にいるのか

それを問いたださなくてはならない。

「お前は…燈…だよな」

たどたどしい声を出す

「そうだよ。覚えててくれたんだね」

嬉しそうに燈は微笑んだ。

「忘れるわけ…ないだろ…」

「そっか…。嬉しいな」

目の前に燈が居る。

死んだはずなのに。

今、こうして会話している。

嬉しさと困惑でもうぐちゃぐちゃだ。

でも

「お前は、死んだ…よな…」

ずっと疑問に思っていたことを口に出す。

「…」

静寂が訪れる

「なんで…ここにいるんだよ…お前は…!!」

「直くん」

俺の声を遮るように燈は俺の手を取る

「何も考えなくていいんだよ」

優しく微笑む

「今は…私を感じて」

そう言って燈は俺を抱きしめる

暖かい感触が俺を包み込む

「生き…てる…?」

「うん」

優しい声が耳に届く

心地がいい。あの時と同じような声色。

何もかもが懐かしい。

頭ではわかっている。

燈はもう居ないって

燈は…死んだって

なのに、目の前にいる燈がそれを全部狂わせてくる

燈が死んでいる事実を全部ねじ曲げようとしている

もう、目の前にいる燈が何者だって構わない。

だって目の前にいるのは…俺の大好きで大切な人だから。

燈を抱きしめる手に力が入る

「直くん…苦しいよ…」

小さく燈はそう言った。

その声はどこか嬉しそうだった。


しばらく抱き合った後、少しだけ会話をしていた

田舎にいた時の懐かしい思い出の話。

昔には言えなかった事や、燈がいなくなってからのこと、沢山話した。

目の前にいる燈は変わらない。

あの時の燈のままだった。

「ねぇ、直くん」

燈が話を切り出す

「私は...」

燈の声を遮るように、チャイムが鳴る

「何を言ったんだ?」

俺がそう聞き返すと

「ううん、なんでもない。私、先戻ってるからね。体調が良くなったら戻ってくるんだよ」

そう言い燈は保健室を後にしてしまった。

結局何が言いたかったかは分からないままだった


俺はしばらくしてから、教室に帰った

教室では俺を心配する声が多くあったが、今は特に体調に異変は無い

あの時は混乱していただけだったのだろう。

そう思うことにして、俺は席に着いた

近くの席にいた燈がヒラヒラとこちらに手を振る

俺は手を挙げて、返事を返す

そこからは友達と少しの間、談笑していた。

燈がいる

それだけで俺の心は満たされていくようだった。


放課後になり、燈と帰路を辿る。

「こうして、直くんと一緒に帰るの、何年ぶりかな」

こっちを見てそういう燈

「昔はこうやって毎日二人で帰ってたよねー。…懐かしいなぁ…」

俺も昔を思い出し、しみじみと思ってしまう

「ねぇ直くん」

「ん、なんだ?」

「私さ、小学校に行きたい」

「急になんだ…?」

「私たちが通ってたさ、小学校に。その…さ、私、小学校卒業出来なかったから、行ってみたいの」

それもそうだ。燈は小学生の時に亡くなった。

つまり卒業もできなかった

だからしてみたいってことだろうか

「でも俺たちの通ってた学校はもう廃校になっちまったぞ」

「え…うそ…」

悲しそうな声を上げる燈

「俺たちが卒業してから二、三年くらいで廃校になったぞ」

「今でも残ってはいるの?」

「まぁ建物自体は今も残ってるな。別のことに利用されるとか何とか言われてたけど、未だに手付かずの状態が続いてる」

「へぇ…壊れてないならさ、行こうよ。小学校」

俺より数歩先に行った燈が振り返って言う

「仮初でもいいからさ、卒業式やらない?」

「あぁ…やろう。二人だけで」

「うん…!!よぉっし!楽しみになってきた!」

「はしゃぐと怪我するぞ」

「ちょっと、そんな子供じゃないんですけど」

「気をつけるに越したことはないだろ」

「ほんと、昔から心配性だね」

ちょっと先を歩く燈の後ろ姿を見つめる

夕陽に照らされる彼女の姿が綺麗で思わず見とれてしまう

「なにボーッとしてるの?ほら帰ろ?」

そう言って燈は俺に手を伸ばす

俺はその手を取って二人で帰路をたどる

本当に昔に戻ったみたいだ。

この時間がずっと続けばいいのに









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一番近くて一番遠い君へ 神崎 モル @moooooooru

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