一番近くて一番遠い君へ
神崎 モル
第1話 一番大切な幼馴染
誰かが俺を呼ぶ声がする
懐かしい夢だ
周りに広がるのは田んぼに囲まれた、田舎の一本道
誰かがこちらに手を振り、早く来るようにと催促する
気付けば俺は走り出していた
ーーどれだけ走っても、手を伸ばしてもその子には届かないのに。
目を開けると、うるさいアラームの音が部屋に鳴り響いていた。
むくりと、体を起こし、ようやく自分が涙を流していることに気がついた。
どこまでもリアルで、鮮明に記憶に残る夢
今にでも手を伸ばせば届きそうな場所、掴めそうな景色
脳に焼き付いているようだった。
感覚が気持ち悪い。
本当に夢なのかを疑う程であった。
部屋を出て、リビングへ向かう。
リビングには誰も居ない。
親は海外に住んでおり、顔を合わせるのも数年に一度だけ。
だから、この家にいるのは俺だけだった。
そのせいか、少しだけ寂しさを覚えてしまう
カーテンを開けて外を見る。
快晴だ。
「そういえば…今日だっけか」
あの日もこんな快晴だった。
俺の全てを変えてしまった、あの日も
休日の朝だと言うのにもかかわらず、出かける準備をした。
行ってきますとも言わずに家を出る。
近くのコンビニにより、そこから最寄り駅に向かう。
そこから数時間、長いこと電車に揺られる。
段々と、都会の風景から、田舎へと移り変わっていく。
田んぼに山、昔ながらの建物。
その全てが懐かしい。
気が付くと、目的地に着いていた。
電車から降りて、大きく伸びをする
「着いたー…」
夏の猛暑の日差しが俺に突き刺さる。
「あっちぃ…」
そう言いながら、俺は辺りを見回す。
昔と何も変わらない景色に安心する。
俺は昔、ここに住んでいた。
親の転勤で引っ越す前はこの田舎に。
だからこそ全部が懐かしい。
「さて、そろそろ行くか」
そう呟きながら歩を進めた。
だんだんと、民家が多くなってくる。
どれも古い家ばかりだ。
「ここの駄菓子屋、まだやってんだ」
田舎特有の古臭い駄菓子屋。
「昔はよく通ってたっけ」
そう言いながらも先へ進む。
そこから、また民家が少なくなり、田んぼに囲われた一本道に出た。
「ここは…」
謎の既視感がする。
夢で見た、あの景色と同じ。
夢と完全にリンクする。
ここはよく、山に遊びに行くために通っていた。
あの夢のように、少女に呼ばれながら。
そこからしばらく歩き、俺は目的地に着いた
共同墓地。
俺の大切な人が眠る場所。
一つの墓の前で足を止める。
「宮町家…」
墓に書かれた名前を読む
俺の大切な人、幼馴染は事故で死んだ。
大きな地震が来た際に、老朽化が進んでいた彼女の家は倒壊した。
その時家にいた、彼女とその母親は亡くなった。
あまりにも当然の別れに、当時の俺は数日間は彼女が死んだ現実を受け入れられなかった。
「しばらく、来れなくてごめんな」
そう言い、コンビニで買ったジュースを墓の前に置く。
そして、線香を焚いて、手を合わせる。
昔は毎日のようにこうやって墓に来ていた。
こうやって手を合わせて、目を閉じて、その日あったことを報告する。
それが日課のようなものにでもなっていたのかもしれない。
おかしな話だ。
でも、それが俺にとって、あの日死んでしまった彼女に会える唯一の方法だった。
手を合わせた後、墓を後にする。
昔はこの時があまり好きではなかった。
やっぱり少しでも一緒にいたいものだ。
また田舎道を歩き、駅の方へ向かう
帰り道は少し、いつもと違うように見えた。
その瞬間だった。
違和感を感じて後ろを振り返る。
空に羽ばたく鳥が、止まっている
雲も動かない、風も吹かない。
まるで世界が止まってしまったように
その光景に唖然としていると、次の時には、世界がまた動き出した。
あの時間は一体なんだったのだろう。
そんなことを思いながらまた歩き出した。
この時は気がついていなかった。
これが…世界のバグになっていたとは。
家に帰ってからも、あの光景が思い浮かぶ。
「ダメだな…早く寝ないと…」
明日からまた学校が始まるというのに、巡る思考は止まらない。
ずっと頭から離れてくれなかった。
まるで脳に焼き付いているように
結局、寝るのは数時間後になった。
夏休み明け、憂鬱に思う気持ちを抑え殺し、着替えて準備を進める。
新学期で何が変わる訳では無いが、何かを期待している自分もいた。
学校に来ても変わらない周りのクラスメイトに少しだけ安堵を覚えてしまう。
「なぁなぁ聞いたか?」
誰かの話し声が聞こえる
することも無いので少しだけ耳を傾けることにする
「転校生が来るらしいぜ」
夏休みの期間中に引越しをすることも珍しくは無いから、疑問は無い。
しかし、毎度どこからその情報を入手しているのかが気になる
そんなことを思っているのも束の間に、教師が教室に入ってくる。
いつもより少し早めのホームルームが始まった。
「知っている人もいるかもしれないが、今日、このクラスに転校してくる生徒がいる」
ザワザワと一気に教室内が騒がしくなる
そして扉から姿を現したのは、一人の女子生徒だった。
その女子生徒は教卓の前に立って声を出す
「初めまして、宮町
そこに居たのは
【死んだはずの】幼馴染だった。
そこからは何も聞こえなかった。
なぜ?どうして?死んだはずだろ?
俺は幻覚でも見ているのか?
なんて言葉が頭の中でぐるぐると回っている。
頭痛がする。
気持ちが悪い。
そこから俺は気を失ってしまった。
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