7、天の原ふりさけ見れば春日なる三笠の山に出でし月かも

「なんだあれ?!」

 洸太の声に、つられて見上げた僕らも興奮の音を上げる。

「え、なに? 雲……じゃない!」

「UFO?!」

 雲ひとつない青空。山の端にぽかりと白い物体が浮かんでいる。雲に見紛うほど白いが、その輪郭はシャープな弧を描いており、雲みたいにふわふわしたものではなく形ある物体のようだ。

「風船?」

「気球とか!」

 自らUFOだと口にしたくせに僕は弱気に予想しなおし、のっちもそれに乗る。けれど、じっと見上げていてもその白い雪玉のようなものはぴくりとも動かない。

 それの方向へ進むと、まるで僕らの動きに合わせるようにそれもすーっと山の端に消えた。

「行ってみよーぜ」

 洸太が言った。僕とのっちは顔を見合わせて、「危ないよ」「いちおう親に聞いた方がいいんじゃない」なんて及び腰な発言をしたものの、結局三人で裏山に登ることにした。三人ともあれがUFOであると信じて疑っていなかった。

 山を登りながら、宇宙人対策を話し合った。宇宙人は小柄で頭がでかくて体はひょろりと細いから、三対一ならやれるはずだ。そう言って、おのおの太い木の枝を拾い、自慢の武器を振り回しながら山道を進んだ。

 父さんと何度も登ったことがあるし、学校でも来たことがある。けれど、暗くなるにつれすぐに景色は見覚えのないものになった。登りはじめた時にはまだ明るかったはずなのに、日はあっという間に落ちていった。「引き返そうよぅ」とのっちが勇気ある提言をした時には、すでに僕らは戻る道を見失っていた。

 結局、登山口に自転車を止めていたことから、大人たちが探しに来てくれて、無事に下山して家に帰ることができたけれど、僕らはこってり叱られた。けれど、誰もUFOについては口を割らなかった。

 そんな懐かしい思い出がよぎったのは、娘が「あれなに?」と宙を指差したからだ。あの頃の僕らもまた、昼の月が白いのだということを知らなかった。月は夜のものだと信じて疑わなかった。

「なんだろう、UFOかな」

 そう返事をすると、幼い娘はきらきらした瞳を白い月に向けて、宇宙人に向かって大きく手を振った。

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