2、春すぎて夏来にけらし白妙の衣ほすてふ天の香具山
洗い立ての真っ白なシーツが青空にはたはた靡く。洗濯物を全部干し終えて、うんと伸びをする。
洗濯物を干すのが好きだ。
洗い清めてほのかに洗剤の香りがする洗濯物を、昇りたてのお日さまの下、一枚ずつしわを伸ばして干していく。太陽光には殺菌作用があるのだとか。洗濯物と一緒に自分も日の光を浴びる。
結婚して五年目、洗濯物の数もずいぶん増えた。子どもが成長したらさらに増えるだろう。もう一日に一度洗濯機を回すだけでは追いつかないかもしれない。
出産を機に、十年勤めた会社は辞めた。同僚や親族にもずいぶん引き留められたし、まったく迷いがなかったというと嘘になる。けれど今は驚くほど後悔がない。相変わらず洗濯以外の家事は得意ではないけれど、日々創意工夫を凝らすのは面白い。そう思えるのも、パートナーに十二分な収入があるお陰かもしれないけど。
再就職についてはまだあまり真剣に考えていないけれど、第二子やパートナーが万一働けなくなった場合を考慮すると、やはり自分にもいくらか収入の手立てがある方が安心だろう。とはいえ、できれば在宅ワークがいいな。人付き合いはあまり得意な方ではなく、過去に一度メンタルを崩したことがある。その際に、「自分が支えるからもう無理しなくていい」とプロポーズされ、自分もこの人を一生支えたいと思ったのだ。
夜疲れて帰ってきた彼女が、食卓に並んだ夕飯を頬張って「おいしい、おいしい」と笑顔を見せるとこちらまで幸せになる。娘も妻に似てよく食べる様子が愛らしい。最近では家事を手伝いたがるようになり、すっかりおねえさんだ。
男が家にいることに対して、まだまだ世の中の目は厳しい。それに耐えるほど自分は強くない。かといって会社勤めをバリバリこなすほど器用でもない。だけど、家族がいるから大丈夫だと思える。うん、きっとなんとかなる。
初夏の爽やかな風が吹き抜ける。洗濯物もじきに乾くだろう。
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