18、住の江の岸による波よるさへや夢の通ひ路人めよくらむ

 一人の女がいる。ぽつんと立っている。いつからそこにいるのだろう。ずっと、長いこと。

 彼女は待っているのだ。恋人を。

 必ず会いに来ると言った。

 もしもそれが許されなくても、たとえ夢の中でも必ずあなたに会いに行く。だから待っていてと。

 なのに、恋人は来なかった。

 彼女にはその理由を知るよしもないし、彼の安否さえ知る手立てはなかった。ただ約束を信じて待つことしかできない。たった一人で何百何千の暗い夜を越えた。

 待ってるの。

 待ってる。

 待ってる。

 待ってる。

 待ってるの。

 声を掛けると、焦点の合わぬ目で彼女はそう繰り返した。

 あまりにも長い時を経て、彼女はひとの姿を失ってしまった。

 その異形のせいで彼女はいっそうひとりぼっちだったろう。心を閉じ、耳を塞いで、虚ろな瞳は何も映さない。ただ約束したから待っている。

 此処こここそがその約束の夢の中なのに。

 めぐりめぐりてようやくきみの元に辿り着いたのに、僕の声はきみにとどかない。

 待ってる。

 待ってる。

 待ってる。

 彼女が僕を思い出してくれるまで、隣でじっと待つことにする。彼女が過ごした独りぼっちの夜に比べれば、何てことはない。

 この連理の異形の樹は、そうして何千年をかけてここに立っているのである。

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