12、天つ風雲の通い路吹き閉ぢよをとめの姿しばしとどめむ
美術室に保管されている一枚の絵。
見た瞬間にはっと息をのむような、可憐な美少女が描かれているという。
――長い黒髪、透けるように白い肌。憂いを帯びた表情。濡れた瞳でじっとこちらを見つめる。正統派の美人というわけではないけれど、長い睫毛とぽってりした唇が愛らしい。守ってあげたくなる感じで、なんとなく目が離せない。
それが、実際にその絵を見た私の感想だった。
てか、それより何より、現実にこの絵が存在することが驚きだ。ただの学校七不思議で、フィクションだと思ってたから。
新聞部員の私が、夏の怪談特集として七不思議の取材をしていたところ、美術部の友人がこの絵の存在を教えてくれたのだ。
――かつて美術部だった少女が、ある日一枚の絵を残して姿を消した。
七不思議ではこのようにシンプルな内容だが、美術部員の間ではより詳しい話が伝わっているらしい。
――かつて美術教師が一人の女子生徒に恋をした。教師は一方的に想いを募らせ、少女の姿を絵にした。けれど、絵を手元に置いたことで一層想いは強くなってしまった。強引に女子生徒に迫り、すったもんだの挙句に殺めてしまう。教師は彼女とずっと一緒にいられるように、女子生徒の死体を美術室の壁に埋め込んだのだ。
「ほら、壁のあそこの部分だけ色が違っているでしょ」
美術部の友がヒマワリの種をポリポリ齧りながら壁を指す。確かに一箇所だけ他より後に塗られたような白い部分がある。
「そんな噂があるのにあんたらよく平気で部活してるわね。それより何か他にもっと美味しいものないの」
ポリポリ齧りながら文句を言うと、「ない」とヒマワリの種をぽこんとおでこに投げつけられた。
ともあれ、絵が存在するということは、怪談のモデルたちは実在したということだ。俄然やる気が湧いてきた。
私は取材を続けた。
過去の美術教師を遡り、卒業アルバムやクラス写真を発掘した。すぐにモデルと思しき人物に行き当たり、当時の教師や生徒に話を聞いて回った。現実とはあっけないものである。
結果、学校新聞には「壁に埋められた女子生徒」の話を掲載した。
美術教師と女子生徒はその後結婚して、現在一緒に暮らしているらしい。
美少女の絵は、今も美術室にある。
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