7、天の原ふりさけ見れば春日なる三笠の山に出でし月かも
通勤途上、道行く人がみな空を仰いでいる。私も同じように見上げるけれど、そこには雲一つない青空が広がるだけで、特に視線を送るべきようなものは何も見当たらない。
会社に到着しても、同僚達はみな窓から外を覗き、一様に同じ方角を見上げている。私も隣に並び、視線を辿るけれど、やはり何も見えない。
昼食で外に出た時も、帰宅途上の駅でもスーパーの前でも
みんな何を見ているのだろう。どうして私だけ見えないのだろう。
次の日、何事もないように日常に戻っていることを期待したけれど、昨日と変わらない。みな天を仰ぎ、私だけが何も知らない。そのせいでなにか有事の際に自分だけ取り残されてしまうのではないかと、無性に不安になる。たとえば、隕石が落ちてきて、宇宙船が人類を救出しに来た時に自分だけ乗りそびれるのではないか。なんて、ばかばかしい。
私だけ知らない「何か」が起こっているという、言い知れぬ気味の悪さ。不安だけが募る。
けれど、今更人に聞くことなんてできないから。私も彼らの横に並び、あたかも何か見えるみたいに空を見つめた。
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