6、かささぎの渡せる橋におく霜の白きをみれば夜ぞふけにける

 あれ、ここ来たことがある。

 そう直感的に思う。目の前には、燈籠に挟まれた長い石段が神社本殿へ続く。月のない深夜にも関わらず、見上げる本殿はぼんやりほの白くその姿を仰ぐことができる。

 吸い込まれるように踏み出そうとした足を止める。

 いや、深夜の神社なんて来たことないだろう。なぜ来たことがあるなんて思ったのか。

 そもそもどうして私は、深夜にこんな場所にいるのか。

 まるでいま目が覚めたみたいに混乱している。夢? 夢じゃない。でもなぜここに来たのか、どうやってここまで来たのか、まるで時間が飛んだみたいに思い出せない。

 今日は外出で疲れて早めに布団に入った。なのに今、わざわざパジャマから着替えてこんな場所にいる。真冬にも関わらずなぜか白いワンピース一枚という姿で。不思議と寒さを感じないのはそれどころではないせいだ。私はなぜここに? ここはどこ?

 じっと見上げてふと思い至る。

 昼と夜とではずいぶん印象が違うが、ここは今日昼間に訪れた神社ではないか。

 縁結びで話題の古い神社で、恋愛祈願のために参拝した。その際、すっと背筋に風が抜けたような感覚があった。その時は、さすがパワースポット、ご利益ありそうだ、なんて暢気に考えていたけれど。

 ネットで調べた時には特に気にも留めなかった。この神社は縁結びとともに、縁切りにもご利益があるという。かつては丑三つ時に五寸釘を持った女が本殿裏の杉の木に通ったとか。けれど、今は夕方には門を閉めるのでそれも昔話。そう書いてあったはずなのに、どうして石段の上の門が開いているのか。

 裸足を石段に踏み出すとひやりと冷たい。

 妻帯者との幸せなんて願ったからバチが当たったのだろうか。――いや、彼の妻を呪うのであれば我に利があるのではないか。そう考えたのは、私自身なのかそれとも。

 闇の中、霜の降りた石段を上る足は止まらない。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る