3、あしびきの山鳥の尾のしだり尾のながながし夜をひとりかも寝む
あの人は今日も来ない。私が本命ではないから。
分かっていたことだ。そう思うけれど、頭では納得できても心が許さない。
あの人を待つ時間はとても長い。とても一人では過ごせないくらいに。なのに、いざ彼が来てくれた夜のなんと短いことか。貪るように愛し合ったはずなのに、朝になれば彼の心はもうここにはなくて、薄っぺらい言葉だけが私のもとに残される。
だからまじないをかけることにした。
長い夜にだらだらとネットサーフィンをしていて見つけたサイト。『まじないのお陰で彼を引き留めることができました』など一見ポジティブな書き込みが連なるけれど、なんとなくサイトの印象は暗くてどろどろしている。そのサイトが持つもともとの力なのか、集まった情念のせいなのかは分からない。けれど、だからこそ私は惹かれるようにサイトを読み込んだ。
まじないの方法は至って簡単だった。ただ繰り返す時間が必要だったけれど、私にはその時間が十分にあった。
丁寧に心を込めてまじないをかけた。
あの人がもう他の女の所へ行かないように。誰の所へも行かせないように。
そして、彼とは連絡がつかなくなった。
連絡がつかないから、彼がどうなったのか私には分からない。ただ、「もうどこへも行かないように」ではなく、「私の所だけ訪れるように」祈るべきだったと、少しだけ後悔した。
私は待ち続ける。もう二度と姿を見ることもかなわないであろう彼を。どろどろした夜の中、一人きりで。
夜が、明けない。
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