友情。

○田谷……太っちょ。陽気で能天気な男の子。

○保野……痩せっぽっち。ガリ勉な男の子。

○美波……ぽっちゃり。ませた女の子。

○穂波……可愛くて内気。皆のマドンナ。







小学校

朝のホームルーム前。

男子達が田谷の周りを囲んでいる。


男①

「今日も頼むわ!」

田谷

「またかよ。」

男①

「いーだろ、これなきゃ一日始まんねー。」

男②

「同じく。」


田谷、仕方なく腹を差し出す。

順番に揉みまくる男子達。


男②

「この何とも言えないプヨプヨ感、お前にしか出せないよ〜。」

男①

「いやぁ、朝から元気出るわー。」

田谷

「お前ら変態集団か。」


そこに保野がやって来る。


田谷

「おはよ! ガリガリ君。」

保野

「お、おはよ。デブちんっ!」


男子達、少しどよめく。


男①

「お前らもかよ……。」

田谷

「何の事?」

男②

「いくら保野が暗いからってさ……。」

男①

「保野も保野だぜ?」

男③

「ってか俺、保野の声、初めて聞いたかも。」


保野、俯いて去ろうとする。

田谷、大笑いする。


田谷

「俺らさ、昨日駄菓子屋行ったんだ。」

一同

「えぇっ!?」

男③

「保野、駄菓子屋なんか行くの!?」

保野

「う、うん。」

男③

「マジか!?」

男①

「そーなんだぁ。」

田谷

「そこでさ、あだ名決めたの。」

男②

「……なんだぁー。」

男①

「センスな(い)。」

田谷

「うるせー。」

男③

「でも、昨日の穂波ちゃん、びっくりしたよなぁ。」

男②

「聞き間違いじゃね?」

男①

「だよな。」


田谷、何かを言い掛ける。

保野、焦って田谷を見る。


田谷

「ま、まぁ大丈夫なんじゃん?」

男③

「そーだよね。」


男子達、謎に頷き合う。

そこに、穂波が入ってくる。

変に目を逸らす男子達。

穂波、少し苦笑いする。

保野、俯く。


田谷

「おはよう。」

穂波

「……おはよう。」


美波と女①、教室に入ってくる。

穂波、嬉しそうに笑って近付く。

女①、穂波を突き飛ばす。


田谷

「何してんの?」

穂波

「……。」

女①

「当たっちゃっただけだよ。」

田谷

「そうは見えなかったけど?」

女①

「肉が邪魔して見えてなかっただけじゃない?」

田谷

「……お前らヤベーな。」

美波

「大丈夫?」

穂波

「大丈夫、だよ。」


美波、穂波を起こす。


美波

「穂波ちゃん、ちょっと大袈裟だよぉ。」

穂波

「……ごめんね。」

美波

「田谷もさ、良い格好したいの分かるけどさぁ。」

田谷

「はぁ?」


美波、女①をチラッと見る。


美波

「可哀想だよ。」

女①

「ありがと。」

田谷

「……。」

美波

「行こっ。」


美波と女①、教室の奥でグループと合流する。

保野、二人を目で追う。

田谷、保野と穂波を見る。


穂波

「ごめんね。」


穂波、ぎこちなく笑いながら席に着く。

女子達、穂波を見てコソコソ話している。

男子達、渋い顔をする。


田谷

「くだらね。」

男①

「そ、そうだよな。」

男②

「取り敢えず、席着くか。」


田谷の腹を揉んでいた男子達、散り散りに着席する。

保野、悲しそうに俯く。

田谷、保野の隣に行こうとするが止める。






放課後

美波と穂波と女①、クラスの壁面に貼られた絵を見ている。

美波の絵には金の帯が付いている。

穂波、嬉しそうに見ている。


穂波

「美波ちゃん、絵すごく上手だよね。」

美波

「ありがとう。」

女①

「何か上手く描くコツってあるの?」

美波

「何にもないよ。」

女①

「いーな、羨ましいなぁ。」


女①と穂波、頷き合う。

美波、穂波の絵を見ている。


美波

「これ、なぁに?」

穂波

「い……一応、海に居るカニ。」

女①

「可愛いね。」

穂波

「ありがとう!」

美波

「でもさ、もうちょっとリアルな方が分かりやすいかも。」

穂波

「……上手く描けなくて。」

女①

「確かに。漫画っぽいかも。」


穂波、黙ってはにかむ。

美波、穂波の方を向く。


美波

「もしかして、穂波ちゃんの目にはこんな風に映ってるの?」

女①

「それ、かなりファンシーだから。」


美波と女①、笑う。

穂波、苦笑い。


穂波

「私、このヒトデが好きなの。」


穂波、美波の描いた絵の星形を指す。

美波、苦笑い。


女①

「穂波ちゃん、意外と天然?」

穂波

「え?」

美波

「これ、ヒトデじゃなくて星なんだけどなぁ……。」

穂波

「ご、ごめんっ!」

美波

「全然だいじょーぶ。」

女①

「……ヒトデは酷いよぉ。」

穂波

「……ごめん。」


気まずい空気が流れる。


美波

「今度、賞状貰うんだぁ!」

穂波

「凄いっ!」

女①

「おめでと!」


穂波と女①、美波を拍手で祝う。

美波、照れ臭そうに笑う。






通学路

田谷、保野の背中にダイブする。


保野

「ぐえ!」

田谷

「元気ねーなぁ。」

保野

「……。」

田谷

「もしかして、あいつら気にしてる?」

保野

「……。」

田谷

「お前、優しいなぁ。」

保野

「田谷の方が格好良くて優しいよ。」


田谷、悲しそうな顔をする。


保野

「……どうしたの?」

田谷

「デブちん。」

保野

「やっぱ、止めよう。」

田谷

「やだ。折角決めたのに。」

保野

「でもさぁ……。」


田谷、踵を返し学校の方に戻る。


保野

「何で戻んのさ!」

田谷

「これから先生に伝えに行く。」

保野

「はぁ?」

田谷

「俺らの友情って、こんなに軽いのかよ。」


保野、首を横に振る。


田谷

「保野も行く?」

保野

「うん。」

田谷

「……おう。」


保野の前を歩く田谷、嬉しそうに笑う。

保野、不安そうに田谷の背中を追う。






職員室

田谷のクラスの担任が業務をしている。

そこに、田谷と保野が入ってくる。


担任

「どうしたの?」


田谷と保野、緊張した面持ちで立っている。

担任、彼らの目線まで下がり優しく微笑む。


田谷

「先生。学校は、あだ名や呼び捨てが禁止になっているけど……。」

担任

「うん。」

田谷

「僕達は、昨日から “デブちん” “ガリガリ君” と呼び合う事に決めました。」

担任

「そっか、分かった。」


担任の思わぬ反応に驚く二人。


担任

「保野さんは本当に良いの?」


保野、激しく頷く。

担任、保野の目をじっと見る。


田谷

「僕は保野君と親友になりたいんです。」

担任

「二人で決めたなら良いよ。」

保野

「本当に!?」


保野、嬉しそうな笑顔。

担任、二人に微笑む。


担任

「皆を同じ様に呼び合うのは、違う呼び方をされて嫌な気持ちになる人がいるからです。」


保野、我に返る。

田谷、担任に真剣な眼差しを向ける。


担任

「もし他の人に呼ばれたとしても、嫌な気持ちになりませんか?」


田谷と保野、ハッとする。


保野

「さっきはタメ口になっちゃって、ごめんなさい。」


担任、笑う。


担任

「保野さんは優しくて素敵ですね。」


田谷、激しく頷く。


担任

「先生は、あだ名に助けられた事も傷付いた事もあります。」

田谷

「先生にも、あだ名があったんですか?」

担任

「沢山ありましたよ。」


二人、驚く。


担任

「先生は、自分も相手も周りの皆も楽しいなら良いと思います。」

保野

「……。」

担任

「決めた呼び名が嫌な言葉に聞こえるから、二人で言いに来てくれたんですよね?」

二人

「……はい。」

担任

「田谷さんは、保野さん以外のクラスメイトに呼ばれても良いですか?」

田谷

「はい。気に入っているので広めたいです。」

担任

「保野さんはどうですか?」

保野

「初めての事なので嬉しいです。」


保野、モジモジする。


担任

「……ちゃんと言いましょう。」

保野

「……でも、二人の秘密にしたい。」

担任

「皆に呼ばれるのは嫌ですか?」

保野

「……分かりません。」


担任、田谷の方へ向く。


担任

「保野さんの答えが出るまで、学校での使用は待ってください。」

田谷

「……はい。」


保野、俯く。


担任

「先生は反対しません。でも、皆が呼べない名前は秘密の方が良いと思います。」


担任、自分の唇に人差し指を当てる。


担任

「先生は秘密を絶対に守ります。」


保野、はにかみながら顔を上げる。

田谷、嬉しそうに笑う。

田谷と保野、職員室から出てくる。


保野

「……ごめん。」

田谷

「なんで謝るんだよぉー?」

保野

「……だってさ、学校ではさ、」

田谷

「別に良いよ。」

保野

「そうなの?」

田谷

「俺は、デブちん消滅を阻止したかっただけ。」

保野

「……そっか。」

田谷

「保野が皆に “ガリガリ君” って呼ばれたら面白いけどねっ。」


田谷、悪戯っぽく笑う。


保野

「……皆と仲良くなれるかな。」

田谷

「なれるっしょ、余裕で。」

保野

「……。」

田谷

「お前、努力の鬼だもん!」

保野

「……違うよ。」

田谷

「そう?」

保野

「……ただ、話すのが怖いから勉強してるだけ。」


田谷、大袈裟に仰反る。


保野

「え?」

田谷

「やっぱ、お前って最高に面白い!」

保野

「からかってる?」

田谷

「本気だわ。」


田谷、物凄い目力で保野を見る。

保野、吹き出して笑う。


田谷

「きたねー。」

保野

「……ありがとう。」

田谷

「気長に行こーや。」


保野、足取りが軽くなる。

田谷、物凄い目力で保野の顔の前に居続ける。

保野、何とか逃れようとする。

二人で後ろを振り返る。

担任が学校の前で手を振っている。

二人、揉みくちゃになりながら、手を振り返す。


保野

「……先生に言って良かったなぁ。」

田谷

「勇気大事。」


田谷、笑う。

保野、恥ずかしそうに俯く。










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