友達。

○田谷……太っちょ。陽気で能天気な男の子。

○保野……痩せっぽっち。ガリ勉な男の子。

○美波……ぽっちゃり。ませた女の子。

○穂波……可愛くて内気。皆のマドンナ。










小学校

朝のホームルーム前。

保野、机に齧り付いて勉強している。

田谷、保野をボケーっと眺める。


静かに本を読む穂波、密かに色めく男子達。

美波、その様子を遠巻きに見る。

女①、美波に声を掛ける。


女①

「やだねー、男子達って。」

美波

「まぁ、しょうがないじゃん。穂波ちゃん可愛いもん。」

女①

「でもさぁ。」

美波

「いざとなったら助けてあげないとね。」

女①

「美波ちゃん、格好良いなぁ。」


美波、満更でもない様子。






昼休み・図書室

静かに本を読む穂波の斜向かいで保野が勉強している。

そこに美波が入ってくる。

美波、穂波の隣に座る。


美波

「穂波ちゃん。」

穂波

「ほぇっ!?」

美波

「私達って名前似てるよね!」

穂波

「う、うん。」

美波

「いきなりごめん。」

穂波

「ううん。」

美波

「実は、ずっと気になってたんだぁ。」

穂波

「そうなんだ……。」

美波

「でも、私はデブでブスだからさ……。」

穂波

「そんな事ないよ!」

美波

「可愛い子に優しくされると余計に来るね……。」

穂波

「本当だって! 美波ちゃんはハキハキしてて格好良いと思ってる。」

美波

「ありがとう!」


美波、恥ずかしそうに笑う。


美波

「……友達に、ならない?」

穂波

「良いの?」

美波

「勿論だよ!」

穂波

「……ありがとう。」

美波

「これからさ、ぶーちゃんって呼んで良いよ。」

穂波

「え?」

美波

「……私達だけの秘密のあだ名。」

穂波

「……でも。」

美波

「私、可愛いあだ名が良いの! 可愛いでしょ? ぶーちゃん。」


穂波、何かを言い掛ける。

美波、穂波を遮って近付く。


美波

「穂波ちゃんは何て呼ばれたい?」

穂波

「えっと……。」

美波

「私、考えとく! 今日から ”ぶーちゃん” って呼んでね。絶対だよ!」


美波、図書室を出ていく。

穂波、嬉しそうに微笑む。


保野、そんな二人を羨ましそうに見つめる。






帰りのホームルーム前

美波、友達数人と話している。

穂波、意を決して話し掛ける。


穂波

「ぶ、ぶーちゃん!」


静まり返る教室。

女子達、渋い顔をしながらコソコソ話している。

男子達、苦笑いをして無理に騒ぐ。


保野、美波と穂波を羨ましそうに見つめる。

田谷、そんな保野を見ている。


帰りのホームルームが始まる。

皆、何事もなかったかの様にしている。

ホームルームが終わると、女①が担任の所に行く。

女①、担任と話しながら教室を出る。


美波、穂波に手を振る。

穂波、恥ずかしそうに手を振る。

女子達、穂波に冷たい目線を送る。

穂波、皆の空気に戸惑いながら教室を出る。






放課後

クラスメイトが帰った教室。

田谷、日直の仕事をしている。


保野、ボーッと窓の外を見ている。

田谷、保野の背中を叩く。


保野

「!?」

田谷

「よお。」

保野

「……。」

田谷

「さっきさぁ、」

保野

「……へ?」

田谷

「お前だけ何か違う反応してなかった?」

保野

「そ……そうかな。」

田谷

「一緒に帰ろーぜ。」

保野

「……え?」

田谷

「決まりっ!」

保野

「……。」

田谷

「じゃ、日誌出しに行こー。」


田谷、保野の肩を抱いて教室を出る。






通学路

保野、田谷の後ろでキョロキョロしながら歩いている。


保野

「ど、、どこ行くの?」

田谷

「んー? ちょっと寄り道ー。」

保野

「だ、ダメだよ!」

田谷

「大丈夫ー。」

保野

「じゃないからっ。」


田谷、駄菓子屋の前で止まる。

保野、周りを見回してオロオロする。


保野

「……俺、お金持ってないって。」

田谷

「大丈夫ー。奢るー。」

保野

「……止めてくれって。」

田谷

「大丈夫。俺が無理に誘ってるだけだから。」


田谷、にっこり笑う。

保野、ぎこちない笑顔。

二人でアイスケースの前に行く。


田谷

「どれでも好きなの、良いよ。」

保野

「それは悪いから……。」

田谷

「じゃあ、これな。」


田谷、セパレート出来るタイプのアイスを一本買う。

その場で折って、保野に渡す。


田谷

「これなら良いべ?」

保野

「……ありがとう。」

田谷

「おう。」


歩きながら食べる二人。

暫くの沈黙


保野

「な、、何でさぁ。」

田谷

「ん?」

保野

「……何でさ、俺の事、誘ってくれたの?」

田谷

「何となく。」

保野

「お、、俺、暗くてキモいよ?」

田谷

「そう?」

保野

「……。」

田谷

「一回話してみたかったんだぁ。」

保野

「……どうして?」

田谷

「めっちゃ努力してるよなーって思って。」

保野

「……。」

田谷

「お前、努力の鬼だよな!」

保野

「……面白くないだろ?」

田谷

「そんな事ねーよ?」

保野

「……。」

田谷

「あんな空気の中、一人だけ嫌な顔しなかったじゃん。」

保野

「あれはさ、その、たまたま聞いちゃったから。」

田谷

「何を?」

保野

「ぶーちゃん、二人だけの秘密のあだ名なんだって。」

田谷

「へぇー。」

保野

「……。」

田谷

「羨ましいの?」

保野

「そんなんじゃねーよ。」

田谷

「俺らも決めるか。」

保野

「へ?」

田谷

「何にする?」


保野、唖然とする。

田谷、真剣に考えている。


保野

「……ぶーちん?」

田谷

「パクリかよ。」


田谷、笑う。

保野、恥ずかしそうに俯く。


田谷

「……ムズいなぁ。」

保野

「でー、デブちゃん?」

田谷

「ストレートだなぁ。」

保野

「……ごめん。」

田谷

「じゃあ、間取って “デブちん” にするわ。」

保野

「いやいや……。」

田谷

「お前はガリガリ君な!」

保野

「えっ!?」

田谷

「さっきアイス見て思い付いた。」

保野

「パクリだよ。」

田谷

「違うし。ガリガリだからガリガリ君な。」

保野

「え? ガリ勉だからじゃないの?」


田谷、大笑い。


田谷

「やっぱ、お前オモロいわ!」

保野

「何でよ。」

田谷

「俺、お前の事ガリ勉って思った事ないから!」

保野

「皆は思ってるよ。」

田谷

「努力家の間違いだろ?」


保野、涙目になる。

田谷、驚いて戸惑う。


保野

「ごめん。」


保野、泣き出してしまう。

田谷、保野の背中を優しく撫でる。

そっと、そよ風が靡く。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る