第21話 ペットショップ店長

 ツバの広いとんがり帽子。とんがりの先っぽは少しへたっている。

 襟の大きなマント。裾は地面で擦れてボロボロ。

 帽子もマントも外が黒で内側が真っ赤。

 それを着ているのは茶色の芝犬。

 口にはちょっと欠けた星飾りがついた魔法のステッキを咥えているぞ。


 芝犬魔女ウィッチのメメさん。

 メメさんの仕事は困っている人を助けること。

 今日も困っている人がいないか散歩パトロールしていないぞ。


 年が明けて一番寒さの厳しい季節がやって来ました。

 メメさんは寒さにも負けず……いえ、寒さに負けて商店街のペットショップに入り浸っています。

 流石の芝犬魔女ウィッチでも外の寒さより、暖房の暖かさを選びます。

 

 床にべトーっと伏せてだらしない格好のメメさん。これは減点対象ですよ!! 10点マイナスです!!

 でも、こういう日もあって良いとは思います。一週間も続いていなければね!!

 そうです!! この一週間ペットショップの店長に甘やかされまくりなのです!! 芝犬魔女ウィッチとしての誇りはどこに行ったと言うんですか!!


 お客さんの居ない店内。

 カウンターの奥のソファーに座り本を読んでいる店長。なんでもお客さんの居ない時間の方が多いため、くつろぎスペースにしたそうな。

 その横でだらしなく伏せているメメさんは大欠伸。

 程よい空調。耳障りのいいBGM。快適空間がゆったりとした時間を演出します。


——カラン、カラン


 お客さんの来店を告げる音が店内に響きます。

「こんにちはー」

 店長はソファーから立ち上がり、軽快に挨拶を交わします。どうやら常連さんのようです。


「メルシーちゃん、元気そうですね」

 店長は常連さんのトイプードルを撫でながら、健康チェックをしています。

 メルシーちゃんも店長に会えて大興奮な様子。


「今日はどうなさりますか?」

「トリミングお願いできるかしら」

「はーい、大丈夫ですよ。2時間ちょっとかかりますが、よろしいですか?」

「大丈夫よー。夕飯の準備終わったらお迎えにくるわ」

そう言って、飼い主のご婦人は退店しました。


「よし!! じゃあ、やっちゃいますか!! おいでメルシーちゃん」

 そう言って、店長はメルシーちゃんを連れてトリミング専用の部屋へ入っていきます。

 トリミング台とワンコを洗うためのシャワーが設置されているだけの簡素な部屋です。


 店長はメルシーちゃんをトリミング台に乗せて、あちこち触ったり、お目めを見つめたりメルシーちゃんの状態をチェックしています。

 そして、優しく声をかけながらブラシで毛を撫で下ろします。

 これにはメルシーちゃんもメロメロ。実に気持ちよさそうにしています。


 お次はシャワーに移動。適温に調整されたシャワーをメルシーちゃんに浴びせます。

 目を細めおすわり状態でお利口にしています。夢見心地です。

 シャンプー。アワアワ。ワシャワシャ。店長の力強くも優しい指使いにメルシーちゃんはとろけています。


 シャンプーが終わるとタオルドライをしてトリミング台へ移動です。

 そこで乾き切っていないメルシーちゃんのお毛々をドライヤーで乾かします。

 ドライヤーを近づけ過ぎないように遠くから風を当ててます。毛が絡まないように細心の注意を払いながら乾かしていきます。


 全身乾き切ったら、いよいよカットです。ようやく辿り着きました。トリミング最大の山場です。クライマックスです。腕の見せ所。よっ!! ワンコの毛を切らせたら日本一!!

 シャキ、シャキ。慣れた手つきでメルシーちゃんのお毛々を切っていきます。ハラリ、ハラリと毛が舞い落ちます。

 

——シャリ、シャキ。ハラリ、ハラリ


 濃い茶色のお毛々。ハラリ、ハラリ舞い降り、まるで花畑のようにトリミング台を埋め尽くしていきます。

「はい、これで終わり。よく頑張ったね」

 店長さんがメルシーちゃんの顔を撫でながら褒めます。メルシーちゃんも誇らしげです。

 スッキリしたメルシーちゃんをゲージに入れて、店長は後片付け。


 一部始終を見ていたメメさん。

「ワン、ワン」

 自分もして欲しそうに懇願します。

「なんだ、お前もして欲しいのか? ごめんな。これはお金払って貰わないと出来ないんだ。あー、でも沢山お手伝いしてくれたら、ちょっとだけやってあげても良いかも」


 早速、メメさんは後片付けの手伝いです。

 箒を咥えます。店長さんの真似をして箒をブンブン。惜しい。箒は宙を行き来して床を掃けていません。

「これは、君には難しいかな。こっちのちり取り持って」

 今度はちり取りを咥えます。今度は上手に扱えています。そこに店長が箒でちり取りの中に毛を集めていきます。

 店長がちり取りをメメさんから受け取り、ゴミ箱に毛を捨てます。お手伝い完了です。


 メメさんは期待を込めた目で店長を見上げます。クリクリお目々です。

「んー、これくらいだとなー。まだやってあげれないな」

 メメさんはちょっとしょんぼり。

「そんな顔するなって。また今度店番お願いするから、それが出来たらね」


 ツバ広いとんがり帽子。襟の大きなマント。口にはちょっと欠けた星飾りの魔法のステッキ。

 芝犬魔女ウィッチのメメさんはトリミングを楽しみにしているぞ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る