第19話 酔っ払い達の夜
ツバの広いとんがり帽子。とんがりの先っぽは少しへたっている。
襟の大きなマント。裾は地面で擦れてボロボロ。
帽子もマントも外が黒で内側が真っ赤。
それを着ているのは茶色の芝犬。
口にはちょっと欠けた星飾りがついた魔法のステッキを咥えているぞ。
芝犬
メメさんの仕事は困っている人を助けること。
今日も困っている人がいないか
酔いどれ、よちよち千鳥足。ここは天下の往来。しかし今は酔っ払い天国。
何故かって? それは忘年会シーズンだからです!!
みんな年を忘れようと飲んで飲まれて飲みまくってます!!
そんな酔っ払い達が闊歩する大通り。メメさんはすみっこの方を足早に歩いています。
いつもはトテトテという感じですが、今はトタ、トタッという勢いです。
騒がしいのが苦手なメメさん。ワイワイとした騒がしさから逃げるように歩を進めています。
そんなメメさんを酔っ払いが見逃すはずがありません。
「なんだぁ、こいつは」
一人の酔っ払いがメメさんの前に立ちはだかります。
「先輩ー。可哀想じゃないですか。怯えてますよー」
「そんなことぁ、ないよなー。俺は動物に好かれる体質なんだぞぉー。ほら、お手してみろ。ほら」
酔っ払い先輩はしゃがみ込んでメメさんにお手を要求します。
なんで人間ってワンちゃんにお手をさせたがるんですかね? 失礼極まりない!! 同じ人間相手でも出来るんですか!! 初対面でお手を!!
メメさんは怯えた様子で、伏せ目がちになりながら一歩下がります。
「先輩はダメですね。そんなに勢いよく手を差し出したらダメですよー。こういうのはね。ゆっくり下から手を近づけるのがコツなんっすよ」
そう言って酔っ払い後輩がメメさんと先輩の間に割って入ろうとした瞬間!! メメさんは走り出します!! 一瞬の隙をつく好プレー。酔っ払いコンビを躱し一気に走り去ります。
ここは酔っ払い天国。
しかし、流石はメメさん!! 右に左にステップを踏みながら華麗に酔っ払いを避けていきます。
あーっと、酔っ払いの千鳥足にぶつかってしまったー!! やはり予測不能な千鳥足に対応するのは難しかったのかー!!
「いてっ!! 気を付けr……なんだ犬か」
「きゃー、可愛い!! なにこの子!! おいで」
酔っ払いカップルの女性が座り込み大手を広げます。しかし、それに応じる余裕がメメさんにはありません。
すっと女性を躱し路地へ逃げ込みます。
人気の少ない路地へ来て、やっと一息。メメさんはようやく落ち着けました。
舌を出し、ハァハァ。走って来たせいで上がっています。
あれ、なんかお口に違和感が……あっ、魔法のステッキがありません。
なんということでしょう。途中で落っことしてしまったようです。これにはメメさんも大慌て。来た道を引き返そうとします。しかし、路地を出ると酔っ払い達が……流石のメメさんも尻込みしているようです。
路地を出ようと行ったり来たり。ちょこっとだけ大通りをのぞいて見たり。中々魔法のステッキを探しに行くことが出来ないようです。そんな時。
「あー、いたいた」
酔っ払い先輩の登場です。しつこい男です。そんなにメメさんに相手をして欲しいのですか!! メメさんも怯えているじゃないですか!!
そんな私の怒りをよそに酔っ払い先輩はメメさんに近づいていきます。あーダメー!! メメさん逃げてー!! 私の声にならない叫びがこだましません。
「ほら、これお前のだろうぉ」
なんと酔っ払い先輩の手には魔法のステッキが!!
「あー、下からゆっくりだっけなぁ」
言葉の通り、下からゆっくりと魔法のステッキをメメさんの目の前に差し出します。
メメさんはまだ警戒しています。
「なんだぁ。まだ、ダメかぁ。これならどうだ!!」
魔法のステッキを地面に置きます。
メメさんは警戒しつつ魔法のステッキに近寄ります。
鼻先でツンっと魔法のステッキに触れ、一度酔っ払い先輩を見上げます。そして、パクッと魔法のステッキを咥えると身を翻して走り去ってしまいました。
「先輩ー、動物に好かれる体質じゃなかったんですかぁ?」
「たまたまだよ!! たまたまぁ!!」
そう言って酔っ払いコンビは笑いながら夜の繁華街へと戻っていきました。
ツバ広いとんがり帽子。襟の大きなマント。口にはちょっと欠けた星飾りの魔法のステッキ。
芝犬
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