第17話 お疲れお父さん

 ツバの広いとんがり帽子。とんがりの先っぽは少しへたっている。

 襟の大きなマント。裾は地面で擦れてボロボロ。

 帽子もマントも外が黒で内側が真っ赤。

 それを着ているのは茶色の芝犬。

 口にはちょっと欠けた星飾りがついた魔法のステッキを咥えているぞ。


 芝犬魔女ウィッチのメメさん。

 メメさんの仕事は困っている人を助けること。

 今日も困っている人がいないか散歩パトロールしているぞ。


 落ち葉がパラパラと路肩に落ちていきます。夏が過ぎて過ごしやすくなったと思ったら、もう冬が目の前。

 春夏秋冬。夏と冬の割合大き過ぎませんか? 適度に過ごしやすい季節は変化の季節。

 あっ、という間に寒くなって来ました。


 木枯らしがビューっと落ち葉を巻き上げます。風に乗って砂も飛んできます。

 メメさんも目をギュッと閉じて風がおさまるのを待ちます。

 これでは散歩パトロールもままなりません。


 思わずメメさんは近くの公園に駆け込みます。

 そこには三組の親子。お砂場遊びをしている親子。ブランコをしている親子。そして滑り台で遊んでいる子ども、その近くのベンチで船を漕いでいるお父さん。お疲れかな?


 これは心配ですね。小さいお子さんが滑り台から落ちてしまうかもしれません。道路に飛び出してしまうかもしれません。まだまだ危うさがある年頃です。

 メメさんは滑り台の方にトテトテと歩を進めます。

 流石ですね。お疲れのお父さんの代わりにお子さんを見守るつもりなのですね。


 滑り台の上で柵に捕まりピョンピョンしている男の子。メメさんは心配そうに見上げます。

 そんなメメさんの心配をよそに、ピョンピョン。着地する足もあっちこっち。滑り台から転げ落ちないかハラハラです。

 メメさんもどうして良いか分からずウロウロしては見上げています。


 ピョンピョン、ウロウロ。ピョンピョン、ウロウロ。


 メメさんは声も上げずにウロウロ。相変わらず心配そうに男の子を見守っています。

 一鳴きして注意を向ければ、滑り台を降りてメメさんを撫でに来てくれるかもしれません。

 しかし、その鳴き声に驚いてしまうかもしれません。気遣いの出来る芝犬魔女ウィッチであるからこそ打つ手がないのです。


「あっ、ワンちゃん」

 お砂場遊びをしていた女の子がメメさんに気がつき駆け寄って来ました。

 それに釣られてブランコの少年もメメさんの元にやって来ます。

 あっ、という間に少年少女に囲まれ撫でられるメメさん。大人気ですね。


 滑り台の上から男の子がメメさんを見下ろします。

 やがて、興味が勝ったのか、滑り台を滑ってメメさんの元に駆け寄ります。

 すでに少年少女に囲まれているメメさん。男の子は一歩下がった位置で立ちすくんでいます。


 少女がそんな男の子に気づき、無言で場所を譲ります。

 男の子はそれでも、その場を動きません。


 「どうぞ」と、か細い声で少女が呟きます。

 まだ男の子は一歩を踏み出せません。


 ようやくこの事態に気付いた少年。男の子のためにメメさんの前を譲ります。

 男の子は少女と少年を交互に見ます。

 そして、おずおずとした足取りでメメさんの前に立ちます。


 メメさんは鼻先を男の子に突き出し、撫でやすいように顎を少し上げます。

 男の子は恐る恐る、メメさんの顎のあたりを撫でます。

 それを見届け少年少女もメメさんへの撫でを再開します。

 メメさんが繋いだ架け橋。少年少女、そしてメメさんの連携プレー。内気な男の子が心を開いた瞬間でした。


 やがて少年がブランコに戻っていき。少女はお母さんの元に戻ります。

 そして男の子はお父さんの元に……


 「そろそろ、お家に帰ろうか」

 男の子に起こされたお父さんは大きな欠伸をした後言いました。

 お父さんと手を繋いで男の子は公園を出ていきます。

 男の子は最後に振り向きメメさんに小さく手を振ります。

 メメさんはお返しと言わんばかりに魔法のステッキを一振り。


 ツバ広いとんがり帽子。襟の大きなマント。口にはちょっと欠けた星飾りの魔法のステッキ。

 芝犬魔女ウィッチのメメさんはやり遂げた顔をしているぞ。

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