第16話 メメさんの弟子

 ツバの広いとんがり帽子。とんがりの先っぽは少しへたっている。

 襟の大きなマント。裾は地面で擦れてボロボロ。

 帽子もマントも外が黒で内側が真っ赤。

 それを着ているのは茶色の芝犬。

 口にはちょっと欠けた星飾りがついた魔法のステッキを咥えているぞ。


 芝犬魔女ウィッチのメメさん。

 メメさんの仕事は困っている人を助けること。

 今日も困っている人がいないか散歩パトロールしているぞ。


 ハロウィン、ハロウィン。どこもかしこもハロウィン。

 ショーウィンドウにはカボチャとコウモリ。配られるチラシにはお化けにミイラ。至る所でハロウィンの装いがなされています。

 メメさんが宣伝した烏山商店街のハロウィンもイベント真っ盛り。いつも以上に賑わっています。


 ペットショップでもワンちゃんに着せるハロウィン衣装を絶賛発売中!!

 おやおや、魔女っ子衣装もあるじゃないですか!!


 これは溢れてしまいますね。魔女っ子ワンちゃん。

 噂をすればなんとやら。

 早速登場です。魔女っ子衣装を身に纏ったコーギーちゃん。


 えっ、もしかしたらコーギー魔女ウィッチかもしれないって?

 フッ、フッ、フッ。実は作りが違うんですよ。うちの魔女ウィッチ衣装は作りが良いんでね。なんたって撥水加工もされてるんですから!! あと、ほら生地とかもね。良いやつ使ってるんですよ、うちは!! だから一目見れば分かるんです。


 いやー、しかしコーギーも可愛いですね。

 メメさんと同系色の茶色の毛並み。涼しげな目つき。ピンと尖った耳。大きく裂けた口は笑顔にも見えます。まさしく『愛くるしい』という言葉がピッタリです。

 あっ、一番『愛くるしい』のはメメさんですよ。そこは譲れません。


 二匹が並ぶと兄弟みたいですね。同じ色の毛並みですし。

 うーん、でも犬種が違うので兄弟というよりは……弟子……?

 うん、ピッタリですね。弟子です!! メメさんの弟子のようですね!!


 二匹は挨拶代わりにお互いの体の匂いを嗅ぎ合います。

 飼い主は少し困惑顔。お散歩の途中でメメさんと仲良くなった愛犬にどうして良いのか分からない様子です。

 これが普通の犬であれば、飼い主同士ペコリと挨拶を交わしお散歩に戻ることでしょう。

 しかし、相対しているのは芝犬魔女ウィッチのメメさんです!!

 

 しかも、コーギーちゃんの方がメメさんに興味津々。しっぽフリフリです。

 それに対してメメさんは堂々としたものです。凛と澄ました顔に堂々とした仁王立ち。いえ、四本足なので四王立ちでしょうか。まさに師匠。メメ師匠です。


 メメさんはお手本を見せるように魔法のステッキを一振り。

 そして、地面に置きコーギーちゃんに差し出します。

 それを受けコーギーちゃんは魔法のステッキを咥えようとします。


「あっ、ダメだよ。咥えちゃ!!」

 あーーー、飼い主さんがリードを引いて止めてしまいました。

 コーギーちゃんも必死で抵抗しますが、抱き抱えられてしまいました。


 メメさんはしょんぼり。

 そんなメメさんを見て飼い主さんは申し訳ない顔をして、ペコリと少し頭を下げて行ってしまいました。


 病気の感染リスクを心配しての事でしょう。愛犬を思っての事。

 メメさんも自身の不用意な行動を反省してか、気落ちした顔で魔法のステッキを前足でツンツンしています。


 ツバ広いとんがり帽子。襟の大きなマント。口にはちょっと欠けた星飾りの魔法のステッキ。

 芝犬魔女ウィッチのメメさんは少ししょんぼりだ。

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