第15話 美味しい焼きイモ
ツバの広いとんがり帽子。とんがりの先っぽは少しへたっている。
襟の大きなマント。裾は地面で擦れてボロボロ。
帽子もマントも外が黒で内側が真っ赤。
それを着ているのは茶色の芝犬。
口にはちょっと欠けた星飾りがついた魔法のステッキを咥えているぞ。
芝犬
メメさんの仕事は困っている人を助けること。
今日も困っている人がいないか
読書の秋。芸術の秋。スポーツの秋。
よく〇〇の秋と表現されるこの季節。私はやっぱり食欲の秋!! 美味しいものを沢山食べたい!!
秋刀魚に秋茄子。鮭、栗、柿。食べたことは無いですが、松茸なんかも……じゅるり……
おっと、すいません、よだれが……
そんな話をしていると、なんだか良い香り。
「いしやーーーきいもーーやきいもーー」
あー焼きイモ!!焼きイモも良いですね!!
石焼きイモ屋さんのトラックが停車しています。
あー、おいしそう!! あのホクホクでほんのり甘いさつまいもの味。たまりませんね。
そんな石焼きイモ屋さんの方にメメさんはトテトテ。
潤んだ瞳で見上げます。メメさん渾身のおねだりです。こんなクリクリお目々で見つめられたら何でも言うこと聞いちゃいますね。そうですよね!! 石焼きイモ屋さん!!
「ん、これが欲しいのか? でもなー売り物だからな。すまんなー」
あら残念。断られてしまいました。
メメさんは頭を下げしょんぼり。でも、チラチラと目線を送りワンチャンを狙います。ワンちゃんだけにね。
しかし、美味しそうな匂いに釣られてかお客さんが並び始めました。
これではメメさんの相手をする余裕などありません。仕方なくメメさんはトラックの横でお座りです。
まだ焼きイモを諦めていないようですね。
「あら、可愛いわねー」、「ワンちゃんだ。撫でて良いー?」、「めちゃかわ」……etc
並んでいるお客さんからの評判は上々です。良い仕事しますねメメさん。
「客も捌けたし、次に行くかな」
そう呟く焼きイモ屋さんの目に、まだおねだりをするメメさんの姿が写りました。
「今日の繁盛もお前のおかげかもな。ちょっと待ってな」
石焼きイモ屋さんはトラックから小振りのイモを一つ取り出しました。
「んー、熱いし、まだ大きいかな」
そう言って、半分にしたイモを地面に置きメメさんに差し出しました。
メメさんは鼻先をイモに近づけます。
クンクン。良い香りです。しかし、まだ熱いようで匂いを嗅いでは顔を引っ込めを繰り返します。
食べたいけど熱い。そんな気持ちを雄弁に語る仕草です。
それを見た石焼きイモ屋さんはさらに半分こ。四等分です。
元々小振りなイモが四等分。イモの中にこもった熱も、こりゃたまらんと逃げ出します。
ようやくメメさんも食べれる熱さ。ハフハフと少しずつ齧ります。
まだまだ熱いから気をつけて。
ゆっくりと食べるメメさんを見つめる焼きイモ屋さん。
メメさんが食べ終わると。食べかすをチョチョイと片付けます。
「じゃあ、またな」
焼きイモ屋さんはトラックの運転席から手を振ると、ゆっくりアクセルを踏み行ってしまいました。
「ワン」
メメさんも満足げな顔で別れの挨拶。
鳴いた時に落とした魔法のステッキを拾い上げ、走っていくトラックに一振り。
美味しい焼きイモのお礼をしたのかな?
ツバ広いとんがり帽子。襟の大きなマント。口にはちょっと欠けた星飾りの魔法のステッキ。
芝犬
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