第14話 ゲートボーラーおじいさん

 ツバの広いとんがり帽子。とんがりの先っぽは少しへたっている。

 襟の大きなマント。裾は地面で擦れてボロボロ。

 帽子もマントも外が黒で内側が真っ赤。

 それを着ているのは茶色の芝犬。

 口にはちょっと欠けた星飾りがついた魔法のステッキを咥えているぞ。


 芝犬魔女ウィッチのメメさん。

 メメさんの仕事は困っている人を助けること。

 今日も困っている人がいないか散歩パトロールしているぞ。


 早朝の澄んだ空気。眠気を吹き飛ばすような日差し。メメさんも思わず目を細めます。

 土手の上の道をトテトテ。ここはメメさんお気に入りの道。大きな川に大きな橋。それにキラキラ光る水面。さらには心地よい風が吹いています。最高ですね。

 

 河原の広場でゲートボールを嗜むご老人達がいるぞ。

「ワン」

 メメさんは元気に挨拶。

「おはようねー。今日も可愛いわね」

 ご老人達との交流がメメさんの毎朝の日課なのだ。


「ふん、邪魔だ邪魔だ。お前達が構うから居付くんだろう!!」

 しかし、一人のおじいさんは悪態をつきます。さらにはこんなに可愛いメメさんに対してシッシッってしました。

「ゲンさん、またそんなこと言って。いいじゃないねー」

「そうよ。そうよ」

 反撃され、ゲンさんは撃沈してしまいます。これも毎日の日課です。


 おばあさん達はメメさんを囲んでお喋り。さながら井戸端会議……いいえ犬端会議のようです。

 順番が回ってきた人は抜けて、ボールをコツンとスティックで打って戻ってきます。

 ゲートボールよりお喋りの方が楽しいようです。

 しかし、おじいさん達は一打ごとに一喜一憂。あれは良かった。あれは悪かった。こうした方が良いなど議論しながらゲートボールの試合を楽しんでいます。


 一人二人とあがっていきます。ゲームもいよいよ大詰め。クライマックスです。

 紅白チームに分かれて試合が行われていましたが、接戦です。


 あと打権を持っているのは、いつもメメさんに悪態をついている白チームのゲンさんです。

 見事ゴールポール当てれば勝利。外せば敗北。天国と地獄。二つに一つ。真実はいつも一つ。

 さぁ、どうなる。決められるのか!!


 ゲンさんは汗ばむ手をズボンで拭きスティックを握り直します。

 深く息を吸い、止める。振り子のようにスティックを振ります。


——カンッ


 スティックのヘッドとボールのぶつかる音が響きます。

 コロコロ……転がるボールの行方は……


——コンッ


 決まったーーー!! 見事にボールはゴールポールに当たりました!!

 この瞬間白チームの勝利が決まりました!!

 ゲンさんはガッツポーズ。そして同じチームのおじいさん、おばあさん達とハイタッチをして喜びを分かち合います。


 しかし、おばあさん達はすぐにお喋りへ戻ってしまいます。

 それを見たゲンさんは少ししょんぼり。


 試合も終わって、後片付けもしてご老人達は帰り始めます。

 

「最後格好良かったわよ」

「ふん、ろくに見ておらんかったかったじゃなか」

「そんなこと無いわよ。ちゃんと見てたわよ」

「ふん、もう帰るぞ」

 ゲンさんは照れたのか頭を掻きながら言います。


 そうしてゲンさん夫婦を見送ったあと、メメさんも歩き出します。

 今日も一日散歩パトロール頑張るぞー。

 

 ツバ広いとんがり帽子。襟の大きなマント。口にはちょっと欠けた星飾りの魔法のステッキ。

 芝犬魔女ウィッチのメメさんの一日は始まったばかりだ。

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