第13話 ハロウィンはこちらです
ツバの広いとんがり帽子。とんがりの先っぽは少しへたっている。
襟の大きなマント。裾は地面で擦れてボロボロ。
帽子もマントも外が黒で内側が真っ赤。
それを着ているのは茶色の芝犬。
口にはちょっと欠けた星飾りがついた魔法のステッキを咥えているぞ。
芝犬
メメさんの仕事は困っている人を助けること。
今日も困っている人がいないか
いつもの商店街。しかし、いつもと違う装い。
オレンジに黒。かぼちゃとお化け。
そうです!!ハロウィンです!!
商店街はハロウィンの飾り付けを行っている最中です。
脚立に登って街灯の登りを変えている人。スタンプラリーのカードを用意している人。チラシを作っている人。他にどんなことをやれば良いか話している人。
それぞれハロウィンに向けて準備しています。
そんな中メメさんもお手伝い。
いくらメメさんと言えどワンちゃんです。ワンちゃんに手伝いなんて出来るの? そんな疑問を抱いているそこのあなた!! うちの子を舐めてもらっては困ります!! なんたって芝犬
ハロウィンといえば魔女。ジャックオーなんたらとか言うカボチャなぞ目じゃありません。ハロウィンの代名詞は魔女です(いち天使の戯言です)。
そうです。芝犬
そこにいるだけで誰もがハロウィンを連想する。歩く広告塔なのです。流石ですねメメさん。
「よしよし、君の格好は目立つからなー。あとでご褒美あげるから宣伝してきてくれよな」
そう言ってペットショップの店員さんはメメさんの首に看板をかけます。
『烏山商店街 ハロウィン開催(10/01〜10/31)
遊びにきてね!!』
ツバ広いとんがり帽子。襟の大きなマント。口にはちょっと欠けた星飾りの魔法のステッキ。ハロウィンの宣伝用の看板を首から下げているぞ。
芝犬
今日は烏山商店街とご褒美のためにハロウィンの宣伝だ。
いつもの川辺をトコトコ。
「ワンちゃん」
幼稚園の帰りお母さんと手を繋いで歩いているお子さんに声をかけられます。
「そうだね。かわいいねー。
ん、商店街でハロウィンやるんだってよ」
「ハロウィン?」
「んー、楽しいやつ!!」
「僕行きたい!!」
「そうだね。来月からみたいだから行ってみようかー」
いつもの大通りをトコトコ。
「よう、ここであったが百年目だ」
女学生の二人組に声をかけられます。
「あんた、何言ってんの」
「ふふ、この子よく見かけるんだよ。仲良しだもんねー。あれ……」
「何それ」
看板に注目です。
「へー、始まったらちょっくら行ってみますか?」
「イエスだぜブラザー」
トコトコ、トコトコ。
その後もメメさんの
そして、最後には……商店街に戻ってきます。
『あとでご褒美あげるから宣伝してきてくれよな』
ペットショップ店員の言葉が思い出されます。
そうです。ご褒美を貰らわないといけないのです。
「おっ、ちゃんと宣伝してきてくれたか?」
「ワン」
もちろんと言わんばかりの一鳴き。
「そうか、そうか」
ショップ店員はそう言って、メメさんの首回りを撫で回します。
メメさんは顎を上向きに、目を細めてご満悦です。
「頑張った子にはご褒美をあげないとなー」
そう言って店の奥でガサゴソ。
ご褒美ジャーキーを持って戻ってきます。
メメさんの目はお星様のようにキラキラ。栗饅頭のようにクリクリになります。
尾っぽをフリフリし、待ちきれないと言わんばかりにピョンピョン跳ねながらクルクル回ります。
「ハハハ、開けるから待ってなー」
ジャーキーの袋を開けてメメさんに差し出します。
メメさんは勢いよく齧り付き、前足で床に押さえつけガジガジと食べます。
野生です。野生の獣がいます。いつもの知性あふれるメメさんはここにはいません。
ジャーキーは一瞬でメメさんの野生の本能を呼び覚ましてしまいました。
ジャーキーを食べ終えたメメさんはお口周りをペロペロ。口周りに残っているジャーキーの味を全て舐めとらんばかりのペロペロを見せます。
メメさんをここまで魅了するとは……ジャーキー恐るべし……
ご褒美も貰ってご満悦のメメさん。
ペットショップの店員さんに「ワン」と別れの挨拶をして商店街を去ります。
夕日に照らされたその背中からは哀愁とやり遂げた満足感が漂ってきます。
その時、メメさんは踵を返して商店街へと駆け出します。
あっ、魔法のステッキ……ジャーキー食べた時に……
ツバ広いとんがり帽子。襟の大きなマント。口にはちょっと欠けた星飾りの魔法のステッキ。
芝犬
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