第5話 駄菓子屋おばあちゃん
ツバの広いとんがり帽子。とんがりの先っぽは少しへたっている。
襟の大きなマント。裾は地面で擦れてボロボロ。
帽子もマントも外が黒で内側が真っ赤。
それを着ているのは茶色の芝犬。
口にはちょっと欠けた星飾りがついた魔法のステッキを咥えているぞ。
芝犬
メメさんの仕事は困っている人を助けること。
今日も困っている人がいないか
雨がポツポツ……パラパラ。段々とアスファルトに沁みわたる。
街歩く人たちは雨宿り場所を探すべく足早になる。
そんな中メメさんは優雅な足取りでトテトテ歩く。
そうです。とんがり帽子もマントも撥水加工で水を弾くのです。ちょっとの雨なんてへっちゃら。
ザーザー。段々と雨の量が増えてきました。さすがのメメさんも焦ってきます。
そして突然バケツをひっくり返したような雨に……いやいやこれはバケツ以上です!!ビニールプールをひっくり返した方な雨になりました。
これにはメメさんも大慌て。急いで近くの駄菓子屋の軒先に避難します。
普段はモフモフの胸毛、フワフワの尾っぽも見る影なくシナシナです。
「うわー、ひっでー雨」
「ばあちゃんちょっと避難させてくれー」
駆け込んできた男子学生は奥で椅子に座っているお年寄りに大きな声で話しかけます。
「それだったら何か買っておくれ」
「えーちょっとくらい良いじゃんか」
「ふん、ただで何かやって貰おうとするんじゃないよ」
「ケチー」
男子学生がお菓子を物色しているとメメさんに気が付きました。
「なんだ、お前も雨宿りか? こっち入ってこいよ」
メメさんは男子学生に促されるように店に入ります。メメさんは出来た芝犬
「勝手に犬を入れるんじゃないよ。まったく」
「良いじゃん。大したもの置いてないんだし。それよりタオル貸してくれよ」
「五十円だよ。用意しておきな」
そう言って駄菓子屋のおばあちゃんは店の奥に引っ込んでいきました。
「これも金取るのかー。ケチー」
タオルを片手におばあちゃんが戻ってきます。男子学生は五十円を払いタオルを受け取る。
「ん。ばあちゃん、これ二枚あるよ」
「犬っころも拭いてやりな」
「あーい」
男子学生が自分の頭を拭きながらメメさんに近寄る。
「おかしな格好しているなー」
メメさんのとんがり帽子に手をかけます。
あー!! とうとう!! メメさんのとんがり帽子が!! 脱げてしまうのかーー!!
そうは問屋が卸しません。メメさんは顔を横に振り男子学生の魔の手から逃れます。
メメさんはバックステップ。前足を上げ、迎撃体制を取ります。
そして迫り来る男子学生の手を素早く
メメさんの
流石の男子学生もこれにはKO《ノックアウト》。帽子を取るのを諦めます。
「んー、取られるのが嫌なのか?」
「ワン」
そうだと言わんばかりの一鳴き。やはり魔法のステッキは地面に落ちます。
そして男子学生はメメさんの濡れた箇所を拭き拭きします。メメさんはなすがまま。やはり毛が濡れている状態は嫌だったようです。
胸元を拭くときは顎を上げる。おててを拭くときは足を出す。尾っぽを拭くときは四本足。拭きやすいようにサポートします。流石はメメさん。タオルドライされる側としても一流ですね。
まだ少し湿っていますが、メメさんは晴れやかな顔をしています。
どうやらお天道様も出てきたようです。通り雨だったみたいですね。
「晴れたんならとっとと帰んな」
「ばあちゃん、まだ何も買ってないよ」
「手に持ってるもん借した時、代金は貰ったよ。他にも何か買ってくれるって言うのかい?」
「ん、あーこれで良いの?」
「良いも何もあるか。帰るんならさっさとタオル置いていきな」
男子学生は飴玉を手に取り、タオルと共にカウンターに置いた。
「これだけ買ってくよ」
「変な気遣いして……十円だよ」
「じゃあな、ばあちゃん。また来るよ」
「次はもっと高いもん買いな」
「安いのしか置いてないくせに」
「ふん」
男子学生はカバンを抱え店から出て行った。
「お前も用が済んだら。とっとと帰んな」
メメさんにも声をかけます。
メメさんは床に落ちている魔法のステッキを拾い上げ、おばあちゃんの方を振り向きます。
口では悪態をついているようですが、おばあちゃんは柔らかな表情をしています。
「ワン」
挨拶に一鳴き。
落ちたステッキを拾い上げメメさんは
ここにはメメさんの助けを必要としている人はいない。ただ魔法のステッキを振るのは三流のやること。一流の芝犬
ツバの広いとんがり帽子。襟の大きなマント。口にはちょっと欠けた星飾りの魔法のステッキ。
芝犬
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます