第3話 ヤンチャ少年

 ツバの広いとんがり帽子。とんがりの先っぽは少しへたっている。

 襟の大きなマント。裾は地面で擦れてボロボロ。

 帽子もマントも外が黒で内側が真っ赤。

 それを着ているのは茶色の芝犬。

 口には星の飾りがついた魔法のステッキを咥えているぞ。


 芝犬魔女ウィッチのメメさん。

 メメさんの仕事は困っている人を助けること。

 今日も困っている人がいないか散歩パトロールしているぞ。


 真っ赤な夕焼け。ビルの合間に沈む夕日。

 黄昏時。逢魔時。そう表現される昼と夜の境目。

 メメさんの毛色にも少し似た空の色が印象的な時間帯だ。


 広場のある公園に不機嫌そうな少年がいるぞ。

 こんな時は……みなさんも分かっていますよね?

 そうです芝犬魔女ウィッチのメメさんの出番です!!


 ではみんなでメメさんを呼んでみましょう!!

 せーの!!メメさーん……


 あれ、声が小さいぞ。

 もう一度。


 せーの!!メメさーん!!!


 芝犬魔女ウィッチのメメさんが自慢の尾っぽをフリフリして登場です!!

 クルクルとした尾っぽ。フワフワな尾っぽ。黄金比も裸足で逃げ出す愛らしい尾っぽ。


 トテトテ。トテトテ。

 少年の方に歩いて行きます。

 少年がなぜ不機嫌なのかメメさんには全て分かっています。

 だって少年が友達と喧嘩していたのを見ていたんですもの。

(喧嘩相手はもう帰ってます)


「ワン」

 メメさんは少年のそばで一鳴き。

 ステッキは地面に落ちます。


「なんだお前」

 少年はメメさんに悪態をつく。そしてステッキを拾い上げた。

 そのステッキは魔法のステッキ。なんでも願いを叶えてくれる。


 少年はステッキを振りッl智tぃtぃとじゃヵjへwぃj!!!

 投げたーーーー!!!!

 これにはメメさんも驚きました。すぐにステッキを追いかけます。


 タタッタタタッ。


 メメさんは落ちたステッキを口で拾い上げ、少年の元の走って戻ります。

 そして少年の足元にステッキをポイと投げました。

 メメさんは期待の眼差しで少年を見上げる。


 少年とメメさんの目が合う。分かり合えた瞬間である。

 少年はステッキを手に取り、メメさんの目を見て頷く。

 そして……


 投げたーーーーーーー!!!


 メメさんは嬉しそうにそれを追いかける。

 流石の芝犬魔女ウィッチも飛んでいくステッキ棒っきれの誘惑には勝てないのです。


 そうして何回も魔法のステッキを投げては拾い、投げては拾いを繰り返しました。

 あたりはもう暗くなってきています。


「もう帰らないと。じゃあな犬」

 少年は魔法のステッキをメメさんの近くに放り投げました。

 散々投げられた魔法のステッキは飾りの星の一部が欠けてしまっているぞ。


 メメさんはステッキを拾い上げようとします。

 だけど散々走り回った後です。ハァハァと舌を出して息をしている状態では咥えられません。

 だけど懸命に咥えて、魔法のステッキを一振り。

 少年の背に向けて願いをこめます。


 ツバの広いとんがり帽子。襟の大きなマント。口にはちょっと欠けた星飾りの魔法のステッキ。

 芝犬魔女ウィッチのメメさんは今日も一人の少年を元気にしたぞ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る